2024年4月23日(火)

Wedge REPORT

2017年6月5日

(2)消費税率引き上げ延期への対処

 「こども保険」が、いささか奇手ながら、税ではなく、厚生年金等の保険料に上乗せする形で子育て支援充実施策の財源調達手段として白羽の矢が立てられたのは、すでに全額事業主負担として厚生年金保険料率に0.23%(平成29年度)上乗せすることで、「児童手当」及び「地域子ども・子育て支援事業」に要する費用の一部とする子ども・子育て拠出金の存在が大きい。それに加えて、社会保障財源と位置付けられ、子育て支援にも充てられることとされている消費税の引き上げが2度延期され、しかも2020年には参議院選挙を控えていることから、2019年10月に予定されている10%への引上げも覚束ない中、増税により財源を確保することが政治的に極めて困難となっていることが指摘できる。しかし、現役世帯の苦境は日に日に増し、少子化対策、子育て支援策は待ったなしである。そうだとすると、政治的に実現が不透明な消費増税に新規財源を求めるよりは、前例のある社会保険料への上乗せという形で新規財源を確保する選択肢は、緊急避難的な妥協策としては一考の余地はあるのだろう。

(3)シルバー民主主義対策

 有権者の少子化、高齢化の進行と、高齢になるほど投票率が高くなる傾向にあることとが結びつき、近年日本では民意の高齢化の進行が著しい。その結果、高齢化した民意を取り込むべく各政党は高齢者に迎合し、高齢者に不利となる社会保障制度改革を忌避するシルバー民主主義の存在が指摘されている。したがって、シルバー民主主義のもとでは、子育て支援策のために高齢者に負担を求めようとすると、高齢者の反対に合い、子育て支援策の拡充を実現できないリスクが高まってしまう。そこで、まずは現役世帯のみの負担とすることで「こども保険」導入のためのハードルを下げつつシルバー民主主義を回避する選択肢を採用するのが、政治的妥協案としてはあり得るだろう。何はともあれ「こども保険」が導入され定着することがまず重要であり、次第に高齢者を含め国民の間で「こども保険」の趣旨に関する理解を広げられれば、高齢者にも応分の負担をお願いすることも可能となるからだ。

 もう一つ見逃せないのは、「こども保険」は、子供を持つ持たない、今現在子育てをしているしていないにかかわらず、一律に現役世帯に課されるものであるので、現役世帯のうち、子供がいない世帯及び子育てを既に終えた世帯は導入に際して反対を表明する懸念がある。場合によっては、反対が過半数を占め「こども保険」の導入が阻止されてしまうことにもなりかねない。そうなれば、政府の子育て支援策への信頼が失墜してしまう。しかし、高齢者にとっては、年金保険に上乗せされる「こども保険」の導入前後で負担には変化はなく中立的であることから、子育て中の現役世帯を支えるための「こども保険」に賛成に回る可能性が高い。そうなれば、「こども保険」の実現はより現実味を帯びるだろう。

 つまり、子育て支援策の財源調達に関して、シルバー民主主義に対する一種の政治的な妥協策であるとみなせる。

(4)世代間公平性の確保

 これまで新規の施策を行う場合、往々にしてその財源は国債発行で賄われており、それはすなわち将来世代の負担増に直結していた。しかし、「こども保険」では子育て支援策拡充のための財源は社会保険料で賄われることとされている。こうした点は、確かに高齢世代の負担がなく社会全体で子育てを支えると言う「こども保険」の趣旨にはそぐわない面もあるが、「こども保険」では財源を確保した上で施策の充実を図るため、財政赤字は発生しない。その結果、現在世代と将来世代の間の世代間公平性に関しては、中立性は確保されることになる。

(5)現役世帯家計負担の中立性

 現役世帯家計の負担をトータルな視点で考えてみると、今回の措置は、平成28年度、29年度に雇用保険料率がそれぞれ0.1%ずつ引き下げられ勤労世帯の雇用保険料負担が軽減された分を、年金保険料に上乗せされる「こども保険」に回すのと等しい。そのため、「こども保険」導入による勤労世帯家計の実質的な負担増は、雇用保険料引き下げによる家計負担の削減と相殺されるため、それほど大きくはならない可能性が高い。したがって、現役世帯の家計負担という側面から評価すれば、中立的であると評価可能であろう。

 以上、今回は、自民党若手議員から提言のあった「こども保険」に関して、日本の人口・経済的な背景、「こども保険」の概要そして「こども保険」の5つの意義について取り上げた。次回は、「こども保険」の課題について取り上げることとしたい。

*【課題編】は6月6日公開予定です。

  
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