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2017年6月5日

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ロンドン橋やバラ・マーケットの事件現場では、自爆ベルトを身に着けているように見えた襲撃犯たちに、警棒しか持たない警官が立ち向かい重傷を負った。食事中に事件に遭遇した看護師たちが、刺された女性を助けた。刃物を持って店に押し入ろうとする男たちに、パブの客がびんやグラスや椅子を投げつけて戦った。「危険に向かっていった」様々な「英雄」たちの話が、人々の心を支えている。

ロンドン橋の襲撃現場に真っ先に急行した中には、非番の警官もいた。アマチュアのラグビー選手で、実行犯の一人をタックルしたが、刃物で刺され重体となっている。警棒しか持たない勤務2年目の交通警官も、自爆ベルトを着けているかもしれない男たちに立ち向かい、重傷を負った。一時は重体だったが、今では容体は安定しているという。

3日深夜にロンドン中心部のロンドン橋とバラ・マーケットで起きた連続襲撃について、クレシダ・ディック警視総監は翌朝、「危険に向かって走った」当直や非番警官たちの「たぐいまれな勇気」を称えた。

英交通警察のポール・クロウザー本部長は、負傷した警官の勇気は「傑出していた」と称賛した。

市場のパン屋から箱で殴り

バラ・マーケットのパン屋「ブレッド・アヘッド」で働くルーマニア人のフローリン・モラリウさんは、店の外の騒ぎに気づき、動揺しているブラジル人女性たちを店内に招き入れ、水を飲ませた。

女性たちから、男3人が市場で大勢を刺していると知らされたモラリウさんは、大きなクレート(パンを並べる箱)を二つ手に襲撃犯を阻止しようと外へ出た。

BBC番組「ビクトリア・ダービシャー」でモラリウさんは、「被害者が気の毒で。どうしたらいいか分からなかった。自分も危ないと思った。クレートを相手に投げつけて、よけるだろうと思ったので、近寄ってもう一つのクレートで頭を殴った」と話した。

モラリウさんによるとその時点で警官が、自分に下がるよう怒鳴った後、手投げ弾の起爆装置を解除させたという。

殺意ある刺し傷

王立ロンドン病院のマリク・ラマダン医師は、救急外来のシフトを終えて自転車で帰宅中に何かがおかしいと気づいた。テムズ川にかかるタワー橋を南向きに渡っていた時、ロンドン橋周辺で複数の救急車両が急行しているのが目に入ったのだ。

「車両の走り方と数からいって、何かがあったのは明らかだった」

医師がそこで職場に戻ると、大事件発生が宣言されていた。当直スタッフは受け入れ患者全員を30分以内に手当てする態勢が整っていた。

「運ばれてきた12人は全員、重傷を負っていた。刺し傷、しかも殺意をもって刺した傷だった」

患者たちは「あまりに衝撃を受けて、口がきけない状態だった」と医師は言う。

ラマダン医師によると、万が一の攻撃に備えて多くの医療従事者は週末には飲酒しないようにしているという。

襲撃犯を店から追い出した

ジョバンニ・サグリスタニさん(38)は事件当時、バラ地区のストーニー通りにあるレストラン「エル・パスター」でパートナーや友人と食事をしていた。実行犯の一人が店に押し入り、いきなり女性の胸を刺すのを目撃した。

「怒鳴りながら入ってきて、いきなり刺したんだ」とサグリスタニさんは言う。

サグリスタニさんのパートナー、カルロス・ピントさん(33)はロンドンで働く救急救命看護師だ。一緒にいた看護師仲間と、カルロスさんは刺された女性に応急処置を施した。

「二人して氷や布きれを使って止血しようとした。最初に0.5リットルも出血してしまったが、カルロスは傷口を圧迫し続けていた」とサグリスタニさんは話す。

店内のほかの客たちが椅子やびんを投げつけて、襲撃犯を追い出したという。男を外に出してから、店のスタッフが防犯扉を閉じた。

「最初はみんなパニックしたけれども、すぐにみんなで落ち着いて、刺された女の子を助けようとした。みんなで店の後ろの方に集まって。外では銃声が聞こえて、何が起きているのか分からなかった」

サグリスタニさんによると、救急隊が店にたどり着けるまで2時間以上かかった。

「カルロスたちのおかげで、彼女は意識を失わずに済んだ。二人がいたのは、本当にラッキーだった」

「僕がいる限り許さない」

英紙サンデー・エクスプレスの経済担当編集者ジェフ・ホーさんは、容疑者二人が襲撃しようとしていた飲食店「サザーク・タバーン」で、警備係を援護した。

ボクシングと武術の心得があるホーさんは、首を刺される重傷を負った。

デイリー・エクスプレスは、負傷して救急車へ付き添われるホーさんの写真をウエブサイトに掲載した。シャツを包帯代わりにして首を抑えている様子が見える。

ホーさんは事件後フェイスブックに、「サザーク・タバーンの外で争っているのに割って入ったのが、ばかだったのか偉かったのか分からないけど、たった一人の警備係を××ったれが二人がかりでやろうとしていた。そんなの僕がいる限り許さない」と書いた。さらに5日にはツイッターで、手術を受けて「快方に向かっている」と書いた。

スケートボードで

投資銀行HSBCで働くスペイン人のイグナシオ・エシェベリアさん(39)は、ロンドン橋で刺される女性を助けようと、スケートボードで応戦した。しかしその後、行方が分からなくなっており、家族や友人が心配している。

マドリード出身のエシェベリアさんについて父ホアキンさんは、「誰かをスケートボードで守った後、歩道に倒れている」姿を友人が見たと話している。

今のところ死亡した7人の中にエシェベリアさんの名前はないが、警察は全員の身元を公表していない。

事件を目撃したジェラード・バウルスさんはBBCに、若い女性をめった刺しにする襲撃犯を止めようとしたが、自分も瓶やパイントグラスや椅子を投げつけたと話した。

「助けようとした。でも結局のところ、自分は無防備だった」

タクシー運転手のクリスさんも事件当時、ロンドン橋にいた。

「若い女の子が胸を刺されるのを見た」と、ロンドンのLBCラジオに話した。

「タクシーの客に、あの男に車をぶつけるからと言ったんだ。車で倒そうとしたんだ。車の向きを変えてやろうとしたんだが、よけられてしまった」

ロンドン橋地域で移動手段のない人を無料で乗せると申し出た、タクシー会社もあった。

チェシャー州出身の看護学生リアノン・オーウェンさん(19)は、道端の現金自動預け払い機を操作していた時に「逃げろ」と言われた。タクシー運転手が声をかけてくれたのだ。

「ナイフが見えて、二度と振り向かないでひたすら走った。ともかく全速力で走った」

襲撃犯が自分の後ろを走っていた。オーウェンさんはパブに逃げ込み、そこにいた30、40人と一緒に倉庫に隠れた。

オーウェンさんは、自分が助かったのはタクシーの運転手のおかげだと言い、連絡をとりたいと話す。

「あなたのおかげで命拾いしました。私も含めて大勢が逃げて無事だったのは、あなたのおかげ」

夜通し捜査や救助にあたった警察や救急隊を助けた人たちもいる。

4日朝にはスーパーマーケットの店員たちが、警官たちに食料などを渡していた。

事件現場にいた救急隊員によると、マクドナルドの店長が一般客には店を閉じたものの、食べ物や水を全て救急職員に提供したという。

ロンドン南部サリー州の配管工ポール・アシュワースさん(21)は、ロンドン橋周辺を自転車で走り、警官たちに地図を配って回った。

「冷たい水を警察に渡しに来ただけ。警察がやってることに比べたら、なんでもない。ただ何かお返しがしたいだけだ。警察は僕たちを守って、人の命を助けているんだから」

地元から約35キロを自転車で走りロンドンに入ったというアシュワースさんは、「世界がバラバラになってる今、僕たちがひたすら団結しないと。世界中が」と話した。

(英語記事 London attack: The hero police officer who rugby-tackled a knifeman

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40156979

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