オトナの教養 週末の一冊

2017年6月8日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――自殺についてはどうですか?

西尾:私たちの大学で解剖した遺体のうち、自殺と診断された193例について調べたことがありますが、自殺者のうち約2割は精神科に罹っていました。さらに、そのうちの3割の方は処方された薬を大量に服用する服毒自殺でした。精神科に罹っていない自殺者では約8割の方が首をつる方法だったのと比べると特徴がわかるかと思います。他にも3割が焼身自殺を図っていました。

――突然死の研究もされていると。実は、私の知り合いの中にも30代の男性で元気だったにもかかわらず、突然亡くなった方がいます。これはどんな原因が考えられるのでしょうか?

西尾:色々な原因が考えられますが、突然死のうち一定数は不整脈だと疑われます。10代から40代で、元気に生活していたのに、寝たまま朝気がついた時には亡くなっていたというケースや、走っていて突然亡くなるケースでは不整脈の可能性が非常に高いですね。他にも水泳中に起こりやすい不整脈や、急に大きな音を聞き、聴覚に刺激を受け不整脈が起きるケースもあります。

 不整脈は心電図を取り、波形で診断するものなのですが、私のところに運ばれてくるのはすべて遺体ですから、生前に不整脈があったかどうかはわからないんです。解剖をしてもわかりません。ただ、死亡時の状況などを参考にして死因に心室性不整脈や致死性不整脈の疑いと書くことはあります。

 不整脈を起こす原因として、遺伝子が関係している場合のあることがわかっています。

――法医学教室では、遺体だけでなく、子どもが虐待されたかどうかを診ることもあるんですね。

西尾:ありますね。ただ、虐待事例の解剖は少ないので、乳幼児の虐待を専門としている法医学の先生に依頼されることが多いと思います。私の研究室にはそんなにたくさん依頼はありません。

 他にも入院している方の怪我の写真を警察からの依頼で診断することもあります。

――日本の法医学を取り巻く状況に関しては、かねてから解剖率(解剖率とは、明らかな病死と診断されずに警察で検視が行われた後に大学の法医学教室などで遺体を解剖した割合)の低さや人員確保などさまざまな問題が指摘されてきました。先生は、どこが問題だと考えていますか?

西尾:事実として、2015年における解剖率は高い神奈川県で39.2%、もっとも低い広島県では1.5%でした。

 スウェーデンをはじめとする北欧諸国では、警察に運ばれた異状死体のほとんどを解剖していますし、ヨーロッパ全体を見ても半数近くは解剖しています。日本では、1割程度しか解剖されません。だからと言って、日本でも解剖率を欧米並みに上げましょうというのには、無理があるのではないかと思いますね。日本人には日本人の遺体に対する考え方や死生観がありますから。また、もっと解剖するとなると、それだけ税金が投入されることにもなりますから、この本が一般の方に法医学について考えるキッカケに少しでもなればとも思います。

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