2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年6月15日

 トランプの今回の行動は違法ではありません。なぜならば、大統領には国家安全保障関係の機密情報の機密を解除する権限があり、その権限を行使して、適切と思う人に機密情報を提供しても、法には触れないからです。トランプがツイッターで「開示は私の権利だ」というのは正しいです。

 しかし、開示が賢明であったか、適切であったかについては、大きな疑問があります。特に外国から提供された情報をその国に断りもせずにロシアのような国に提供するのは尋常ではありません。今後、当該国からの情報提供はより用心深いものになるのは確実ですし、他の国も用心深くなるでしょう。それだけでも大きなデメリットがあります。

順序が逆

 トランプはロシアが「イスラム国」に対する攻撃でより協力的になることを期待したとしていますが、これは順序が逆です。まずロシア側に対米協力の意思があることを確認したうえで、情報協力に進むのが普通です。

 情報の世界で最も機密度の高い情報は情報収集の「sources and methods」です。たとえば、敵国に侵入させたスパイはsourceであり、その名前を明かすなど、もってのほかです。  

 Methodは、たとえば盗聴器を仕掛けたというような収集方法のことで、これを明かすこともご法度です。マクマスター国家安全保障担当補佐官が出て来て、トランプの会談ではsources and methodsは話題になっていないと釈明しましたが、これは最も機微な情報が伝えられたわけではないというだけであり、かつ、ワシントン・ポスト紙の報道はsources and methodsについて何も言及していないので、報道が間違いという根拠にはなりません。今回のトランプの行動の不適切さはこういう説明では払拭されません。なお、ワシントン・ポスト紙は、トランプがロシアに伝えた情報を全部は報じていません。情報がとられた都市名は伏せて報道しています。おそらくCIAの要請があったのでしょう。

 トランプが情報通であることを誇りたいという虚栄心からこの情報提供をしたとすれば、この人は大統領にはふさわしくないと言わざるを得ないでしょう。

 共和党の国家安全保障を重視するマケイン上院議員はトランプのこの行動について不快感を示している他、同じくコーカー上院外交委員長も、この社説にあるようなコメントをしています。トランプの支持率は40%程度で低迷しており、トランプと一緒と見られると、選挙に不利になる状況が徐々に出て来ています。共和党の多くがトランプ離れを起こす材料が今一つ出てきたということだと思われます。ただし、弾劾への道のりはまだ長いです。

  
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