2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年6月23日

 EUは英国の離脱によって揺さぶられていますが、去る3月のオランダ総選挙、仏の大統領選挙では右派・EU懐疑派が破れ、英離脱にもかかわらず、EUは安定して存続していくでしょう。ドイツでも中道派が選挙で勝つことはほぼ確実です。

 ただ、ポーランド、ハンガリーでは言論の自由弾圧など、EUの奉じる自由民主主義の価値を侵害するような政府の行動があり、価値の同盟としてのEUが揺さぶられています。

 この社説は、これが今すぐではないが長期的にはEUの存在を脅かす脅威になりかねないと指摘し、EUとして対応する能力強化(条約改正がいる)や政治的な非難をしていく必要があると論じています。その通りでしょう。

 自由民主主義体制というのは、自由主義と民主主義の混合です。民主主義というのは、簡単に言えば国民主権主義であり、国民の多数の意見に従い政治を行うべしという考え方です。他方、自由主義というのは、人間には基本的人権があり、これは多数決によっても恣意的に奪われてはならないという国民の自由を尊重する主義であり、政府の権限を制約すべしとの考え方です。この二つの考え方には、常に相克があります。

ファシズムにつながる要素

 最近では、選挙で勝利すれば権力行使に制約があってはならないとの民主主義的考え方、ポピュリズム的考え方が強くなっています。プーチン、エルドアンなどはその典型です。ハンガリーのオルバンが「リベラルではない」民主主義を目指すというのも同じ発想です。これはファシズムにつながりかねません。警戒が必要です。三権分立の考え方は民主主義ではなく、自由主義の考え方です。

 この論説は「法の支配」の重要性を強調していますが、法の支配の問題ではなく、法の内容(法が基本的人権を侵害するものであれば、その支配はよくない)でしょう。

 欧州においての人権尊重は、これまでは欧州評議会、欧州人権条約、欧州人権裁判所の責任分野とされてきました。欧州評議会には、ベラルーシとコソボを除くほぼすべての欧州諸国(47か国)が参加しており、トルコもロシアもメンバーです。EU加盟国は27か国です。EUが欧州の核として人権尊重を重視していくことは適切であり歓迎されます。ただ、テロ対策、移民対策との関連で機微な問題もあり、あまり早急な措置を目指すとEUの団結を壊す恐れもあり、慎重に物事を運ぶ必要があると思われます。

  
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