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2010年8月2日

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羽根田 治 (はねだ・おさむ)

フリーライター。1961年埼玉県生まれ。山岳遭難や登山技術などをテーマに執筆活動中。著書に『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』(平凡社新書)など多数。近刊に『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(山と渓谷社・共著)がある。

 今の登山者は、行政ヘリコプターが救助を行なえば費用はタダで、民間ヘリコプターが出動すると救助費用がかかってくることを知っている。だから救助を要請するときに、「県警ヘリで救助してください」と指定してくる遭難者もいるという。もちろん、状況によってどこのヘリコプターを使うかは違ってくるので、遭難者がそれを指定することはできない。「民間ヘリコプターが来るなら救助はけっこうです」と言われたケースも過去にあったそうだが、とんでもない話である。

 もっとも、行政サイドのヘリコプターや救助隊が出動したときでも実際は人件費や燃料代などがかかっているわけで、諸々の費用を含めた経費は、民間の救助隊が出動した際の額とほぼ同じぐらいだと考えられている。それを遭難者側が負担するのではなく、県と国の税金でまかなわれているだけの話なのだ。

 昨年の遭難件数が173件と最も多かった長野県警に問い合わせてみたところ、昨年度の県警ヘリコプターの運用予算は2億9100万円。このうち機体の整備費および燃料費の一部にあたる3200万円は国から補助されているので、2億5900万円が県の負担となる。ちなみに昨年度の出動回数は353回で、うち山岳遭難救助・捜索での出動は128回。単純に計算してみておよそ9390万円の救助費用が長野県の税金から支払われていることになる。

 遭難者の救助にあたっては、一律に救助費用がかかってくるのに、行政の救助隊が出たら国や地元自治体の税金でまかなわれ、民間救助隊の場合には当事者の負担になるというのは、たしかに不公平感が強い。長野県を例に出せば、昨年の遭難者のうち83%が県外の人であった。「他県から遊びにきて遭難した人を助けるために、なんで地元の税金が使われなければならないんだ」という声が上がるのも無理のない話だ。

 この問題を初めて公に取り上げたのは田中康夫前長野県知事で、行政ヘリコプターによる山岳遭難救助の有料化をぶち上げたが、知事選での落選後いつの間にか立ち消えになってしまった。代わって昨年6月、今度は富山県警が行政ヘリコプターの有料化を示唆する見解を示したが、今のところ進展は見られないようである。

 昔は気概のある登山者が多かったから、救助隊員も「アマったれるんじゃない。自力で下りてこい」ぐらいのことを平気で言っていたという。しかし、時代は変わり、登山者の気質も変わった。もし今そんなことを言ったら、たぶん訴えられると思う。

 いくら安易な救助要請に思えたとしても、なにかあったときの責任を考えてしまうのが今という時代だ。まして警察官や消防隊員には、人の命を守る・救うという“使命”がある。

 救助要請があった以上、原則的に救助隊員は出動していかなければならないのである。

自己責任の浸透で遭難は減少する

 そもそも登山というのは、誰かに強要されて行なうものではなく、自分が登りたいから登るという、あくまでも自発的な行為であるはずだ。だとすれば、すべての行動いっさいに自分で責任を負うのは当然である。よって救助を行なうのが民間であれ行政であれ、その救助費用は遭難者の自己負担にすべきだと、私は考える。

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