2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月4日

 TPPは、単なる自由貿易協定と位置付けられるべきではありません。というのは、TPPは21世紀の経済と通商の実態に見合ったルール作りの重要かつ効果的なビルディング・ブロックだからです。

 21世紀の貿易は、20世紀前半はもとより、20世紀後半、ひいては1990年代の貿易の面影が殆どないものとなっています。論説でキャラハンがデジタル経済に触れているのは、そのことを端的に示しています。トランプの頭の中では、自動車運搬船で運ばれてくるドイツ車や日本車こそが「貿易」だと映り、煙を盛んに吐き出す工場の煙突こそが繁栄の象徴なのでしょう。彼は少なくとも40年遅れています。アメリカ経済も日本経済も、もはや工場ではなくサービス産業がGDPを稼ぎ出していますし、国境を超える儲け頭のひとつは知財のリターンです。トランプは、日本がアメリカ産農産物の上得意であることも知らないとしか思えない発言も繰り返しています。キャラハンが言う「アメリカが、アメリカ離脱の最大の敗者だ」というのは、まさにその通りでしょう。

 他方、日本の方向転換に関連して、RCEPかTPPかという世間の論調にキャラハンが乗ったのはいかがなものでしょうか。RCEPは20世紀の貿易に当てはめるべき協定であり、21世紀の協定ではありません。中国の知財違反の実態を見ただけでも中国が21世紀型のTPPに入ることができないのは明らかです。日本(およびトランプ以前のアメリカ)がTPPから中国を締め出しているのではなく、中国自身がTPPに入る水準に達しておらず、中国はRCEPで行くしか道がないだけの話なのです。

 このように見てくれば、日本がTPP11に舵を切ったことが正しい選択であったのは明らかです。ただ、マレーシアやベトナムの懸念も、彼らの立場に立てば理解できます。しかし、ここで心を鬼にしなければ、TPPは21世紀のルールのビルディング・ブロックではなくなってしまいます。日本経済や日本市場がアメリカ経済やアメリカ市場にとって代わることはできない中で、日本にできることは、官民一体となって、両国を含むTPP11の経済の一体化をさらに深化させることです。

 ここで思い出されるのは、ナポレオンの「帝国が雅量を失えば、それはもはや帝国ではない」という言葉です。今日の世界で「帝国」という言葉は穏当ではありませんが、要するにナポレオン法典に代表されるような時代の先取りをして世界を包摂し、後世まで世界的影響を残す先進的大国、ということです。日本は、雅量を失わずにイニシアチブを発揮し周囲を引っ張っていけるのか、注目されます。

  
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