100年前の1912年9月15日にシャープの創業者早川徳次は金属加工業を開業した。そして、ちょうど10年前の2002年9月10日、シャープ(株)は三重県亀山工場の起工式を行った。工場は2004年の1月から世界初の大型液晶テレビの一貫生産工場として稼働を開始した。世界の亀山と銘打ったシャープの高品質液晶テレビ「アクオス」シリーズは一時代を作った。しかし、昨年からシャープの業績は急速に悪化し、今年の8月には長期格付け、短期格付けは「投機的」にまで下落した。借り入れのため事務所、工場を担保に差し入れたとも報道されている。

 そのシャープと5年前に太陽電池市場でシェア世界一を争っていたドイツQセルズは、今年4月に倒産し8月には韓国企業に買収されることが発表された。今後は韓国資本の下で立て直しを図ることになる。シャープとQセルズの事業を眺めると、規模は異なるものの共通点も多いことに気がつく。シャープもQセルズのようになってしまうのだろうか。

シャープの過ちは何か

 シャープは何を誤ったのだろうか。テレビ、液晶への依存度が高く、液晶価格の下落により収益力がなくなったと言われているが、数字でもそれは明らかだ。2012年3月期の売上高は2兆4559億円であり、11年3月期の売上高3兆220億円から、5663億円減少している。前11年3月期のテレビと外部への液晶の販売はそれぞれ8036億円、6144 億円だった。12年3月期にはテレビと液晶の売り上げは、それぞれ5814億円、4220億円に落ち込んだ。11年3月期には合わせて売上高の47%を占めていたが、41%にまで減少している。

 売上高の大きな減少は固定費を賄うことができず損失につながる。11年3月期にはAV・通信機器、液晶部門は合わせて578億円の営業利益を上げていたが、12年3月期には484億の損失を出した。太陽電池部門も220億円の赤字だ。情報機器などでこの赤字額を埋めることができず、全体でも376億の営業損失(純利益は3761億円の赤字)となった。

 シャープ不振の原因に過大な投資がよくあげられているが、投資額だけを見るとそれほど過大とは言えない。2008年3月期からの5年間のキャッシュフロー額をみると投資に1兆2750億円使われているが、営業からのキャッシュフロー額は9060億円ある。12年3月期の赤字がなければ、自己資金で投資はほぼ賄えていたことになる。

 問題は、投資の大半がテレビ、液晶製造部門に費やされ、テレビと液晶部門に収益を依存する構造になったことだ。価格競争力のある新興国の製品が登場すると、その収益力が一挙に失われ、短期間で危機的な状況に陥ってしまった。

急激に失われた利益と急増する借入金

シャープの売上原価率の推移
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 数字を見ると危機的な状況がよく分かる。売上高に原材料費を中心とした売上原価の占める比率が急速に上昇しているのだ。売上原価に加え、他に人件費、交通費などの販売費・一般管理費、借入金の金利などの費用が必要だが、その費用が全く賄えない構造になってしまっている。

 売上高に対する売上原価と販売費・一般管理の比率は07年3月期から図のように推移している。ここにきて原価率が急速に上昇している。13年3月期の第1四半期には99%に上昇し、売上の殆どを原価が占める。シャープでは販売費・一般管理費だけで年間4000億円必要だ。この資金の大半は内部資金を取り崩すか、借り入れるしかないが、そんな内部資金はなく、シャープはコマーシャルペーパー(短期の無担保約束手形)で大半を手当てしている。11年3月末1400億円だった残高は12年6月末には3600億円を超えている。

 テレビ・液晶製品の価格上昇、あるいは大幅な原価削減はありえないだろうから、当分の間外部からの借り入れに頼らざるを得ない状態が続くが、問題は将来返済できる見込みがあると貸し手が判断し、資金提供が続くかということだ。現状のテレビ・液晶に偏った収益構造からかなり先行きは厳しいと格付け機関は判断し、社債が投機的格付けになったということだろう。

液晶と似ている太陽電池

 シャープは何故液晶の収益力を読み誤ったのだろうか。シャープは規模の経済(生産量の増加に伴い利益率が高まること)を考え、亀山、堺に大規模工場を建設した。高品質の液晶を大量に生産しコストを下げることを狙ったのだろう。高品質の液晶であれば、他社より高い価格を得ることができる筈だ。

 しかし、実際には韓国を初めとする新興国企業が大量生産で更に安く製造することができる商品だった。商品の品質の差を考えなければ、土地代も、投資額も、人件費も先進国との比較で安く上がる新興国企業が、先進国企業よりコスト面では有利になる。

 品質の差は需要家にとっては、さほど重要なことでなく価格が重要だった。コストが相対的に安く、価格も安い新興国企業の製品で十分と多くの需要家が判断した。この間の為替も日本企業には不利に働いた。太陽電池でも全く同じことが起こった。シャープは変換効率が優れている太陽電池を大量生産で安く製造することを狙った。

 2008年に葛城工場が稼働を開始した際には、「薄膜太陽電池は12年に640万kW程度の市場になるので、その内半分のシェアを取りたい」としていた。10年に稼働予定であった「堺工場をモデルに600万kWの生産体制を目指す構想を進めている」ともしていた。しかし、市場で実際に起こったことは、液晶と同じだった。コスト競争力のある中国、台湾の企業との競争に先進国の企業は敗れた。その代表はシャープの後、シェア世界1位になったドイツQセルズ社だ。

太陽電池価格の急落
Qセルズ社の戦略と業績

 2001年に19人で創業したQセルズは、太陽電池で2008年にシェア世界1位になった。日本でも多くのマスコミが成功事例として取り上げたのも、この頃だ。しかし、翌年第4位となり、10年には7位となる。11年にはベストテンから消える。太陽光発電市場は急速な拡大が期待されたために新規参入企業も中国を中心に多く登場し、需要は伸びたもののそれ以上に供給量が増加し、供給過多の状態が続くようになった。要は、生産設備さえあれば新興国企業でも簡単に製造できる製品ということだ。

Qセルズの売上・利益額・株主資本額推移
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 新興国企業と競争するために、Qセルズ社も従業員数の削減、マレーシアでの製造開始、太陽電池以外の太陽光発電関連ビジネスの拡大を戦略として打ち出す。この結果、11年には、売上数量は増加する。しかし、売上高は大きく下落する。太陽電池価格が急落したのだ。2011年を通し価格は半分以下になった。新興国企業を中心に生産能力が急増し、供給過剰の状況が続いていることが価格下落の原因だ。世界需要のほぼ2倍の5900万kWの製造能力が現在あると言われている。

 Qセルズを初めとする先進国企業の多くは、この価格下落についていけなくなっている。Qセルズも例外ではなかった。業績を表にまとめた。2011年に業績は急速に悪化している。太陽電池以外に事業を拡大したが、急速な価格下落により資金が枯渇することになった。

韓国企業の出資が続く欧米の太陽光発電企業 

 4月3日に破綻したQセルズは8月29日に、韓国のハンファグループにドイツの製造、開発拠点、マレーシアの製造拠点など事業の大半を譲渡する旨発表した。ドイツの1550名の従業員は1250名に削減されるが、マレーシアの500名の従業員は維持される。正確な譲渡額は発表されていないが、数億ユーロの債務を引き継ぎ、数千万ユーロの現金が支払われる契約とされている。

 Qセルズ以外にも、韓国系企業の太陽光発電事業への進出は続いている。2011年11月には、韓国でシリコン系電池の製造を行っているヒュンダイ重工がフランス・セイントゴベインと共同で韓国にCIGS電池工場を建設する旨発表している。CIGS電池は日本でもソーラーフロンティアが宮崎で製造している変換効率の良い化合物系の電池だ。変換効率に優れ、信頼性が高く、今後コストが下がると期待されている。

 米国のベンチャー企業にも韓国の出資が続いている。2011年9月には韓国のSKグループによるCIGS技術を持つヘリオボルトに対する5000万ドルの出資が発表されている。やはり、CIGS電池の研究を行っている米国のベンチャー企業スティオン社には、昨年末韓国企業連合が1億3千万ドルの出資を行った。スティオン社は韓国LG系列の液晶製造装置メーカーアヴァコ社と共同で製造装置の開発を行うと発表している。

 Qセルズを買収したハンファも、米国で1366テクノロジー、クリスタルソーラー、ワンルーフエネジーなどの太陽光発電技術に関するベンチャー企業に投資している。さらに、蓄電技術にも投資をしており、今年の7月には米国の蓄電池メーカーのサイレントパーワーへの投資を発表し、太陽電池と蓄電池を組み合わせで販売するとしている。

韓国企業の狙いは

 供給過剰な状況が続く太陽電池市場に韓国企業の進出が続くのは何故だろうか。一つは、コストが安く、効率が良いCIGSが今後主流になると見て、その技術を入手することにあるのだろう。韓国企業は中国系企業が強いとされるシリコン系太陽電池ではなく、今後コスト削減が進むとみられているCIGSだけに興味があるようだ。ハンファ傘下になったQセルズ社も昨年11月にCIGS電池効率の世界記録を達成した技術を持っている。中国企業が世界シェアの66%を持つシリコン系で競争する気持ちは、韓国企業にはないのだろう。

 さらに、不当廉売として米国が中国製太陽電池に対して課税を決めたのに続き、9月6日に欧州委員会も中国製電池などについて不当廉売の疑いで審査を開始すると発表したことも韓国企業にとってはチャンスと判断される。米国市場に続き、欧州市場への中国製品の輸出が難しくなると韓国製品にも大きなチャンスが出てくる。後発でも中国製への課税により、課税後の実質的な価格では中国製を凌ぎ欧米市場では戦える。

 蓄電池技術に出資している点も見逃せない。中国企業が持っていない新しい技術と組み合わせることで、コスト面に加えた優位性を築けば、既存の企業に勝てるだろう。

シャープとQセルズは同じか

 液晶と太陽電池という差別化が困難で、価格が購入に際し大きな判断基準になる、付加価値額が低い製品を主体に製造を行っていた点、また新興国企業の参入による製品価格の下落により短期間に赤字に転落した点などシャープとQセルズには共通点が多い。新興国企業の援助を受ける点も似ている。

 一方、両社の売上、従業員数などは異なる。シャープの規模は一桁大きい。製品もシャープはテレビ、液晶、太陽電池で50%だ。携帯などの製造も行っている。しかし、今の液晶、太陽電池の損失は他の商品でカバーできるような状態ではないだろう。結局、新興国企業の助けを借りないと、資金繰りを乗り越えられないのではないか。その額は数百億円では不十分だろう。大きな資産売却を行い、資金繰りを付けるか、それとも大きな出資を受けるか、選択肢は限られている。

 シャープ、Qセルズの現状から学ぶことは多い。まず、新興国企業が直ぐに追い上げることができる製品では、規模の経済を活かしても、製造の基本となるコストが相対的に高くなる先進国での製造では、新興国との競争は無理だ。先進国は、付加価値が高く新興国企業が真似をできない製品の開発を進めるしかない。自社技術に拘らず韓国企業のように技術を持つ企業買収も積極的に行う必要がある。研究開発に対する国の支援も必要だ。国民負担が増え、新興国企業の支援になりかねない再生可能エネルギーの普及に力を入れている場合ではない。新しい技術開発への支援を中心に政策を切り替えないと、日本企業が韓国企業の後ろ姿を追うことになりかねない。


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