お父さんが疲れたGWが終わって

 原稿の仕事が多い私の場合、GWというのは執筆に没頭できる最大のチャンス。なぜなら世間のみんなが休んでいるGWは、電話やメールでの連絡が一気に減るからだ。これはモノ書きにとって非常にありがたい。集中しているときに掛かってくる電話や、急ぎのメールには正直、殺意を覚えることがしばしばだ。

 そんなことはともかく、前回紹介したGWの高速道路値下げ(1000円)だが、やはり渋滞が各地で多発したようだ。30キロ以上の渋滞が前年の約2倍、58回も起こったらしい。30キロの渋滞といえばかなりの渋滞。うんざりするほどの距離だ。まして遊びに行った帰り道では、ヨメや子どもがグーグー寝ている車内で、お父さん一人イライラに耐えなければならない。そんなお父さんには心から同情してしまう。

 「高速道路の値下げは渋滞を引き起こす」

 予想されていた事実ではあるが、これは管理会計的にも大きな意味をもつ。つまりは「値下げは大幅な数量増加に結びつかない」ということだ。高速道路の渋滞をあれほどニュースで見せつけられれば、次回の旅行で出かけようとするお父さんは二の足を踏むだろう。

 結局、高速道路という「キャパシティ(収容力)に上限のある」サービスについては、値下げが可能だとしても、大幅な数量増加(=通行量の増加)につながらないということだ。

 売上はP(単価)×Q(数量)で計算されるとして、Pの引き下げはQの増加に結びつきにくいということを意味する。

その値下げは販売数量増加につながるか?

 ここで、前回までに解説した「値下げ戦略成功条件」の2つを確認しておこう。

 成功条件その1の「変動費が少ない」とは、「固定費が多い」と言い換えることができる。

 高速道路は典型的な固定費体質のサービスだ。車一台が通ったとき、その通行に比例する変動費は掛からないが、そのかわり建設費や維持費、人件費といった固定費が大きい。

 ということは高速道路は条件その1をクリア。問題はそのあと。成功条件その2だ。

 「値下げによって販売数量(Q)が大幅に増加すること」

 ・・・・・高速道路はこれがクリアできないわけだ。よってビジネスとして見た場合、大幅増益はそれほど期待できない。だからこそ高速道路単独の採算ではなく、「旅行者の増加による観光地の売上増加」といった大きな視点からの景気浮揚策として論じられることが多くなる。

 さて、この高速道路のように、条件1はクリアできても条件2がクリアできないという固定費ビジネスは意外に多い。それらに共通するのは、高速道路と同じく「キャパシティ(収容力)に上限がある」という点だ。

ホテルと航空運賃の値下げが
増益に結びつきにくい理由

 例として、ホテルや航空運賃を考えてみよう。

 ホテルや航空運賃は、変動費が少なく固定費の多い典型的なビジネスだ。ひとりの宿泊客・乗客が来てくれれば売上が上がる。その売上に比例して掛かるコスト(変動費)はきわめて少ない。ホテルの場合、シーツやタオルのクリ-ニング代、新聞代、備品の補充代、水道光熱費。こうした変動費は高級ホテルでも1000円は掛かっていないと思う。飛行機の場合でも変動費は機内食とジュース代くらいしか見当たらない。しかしどちらも固定費が高いのだ。ホテルの土地・建物・設備への投資、航空機への投資、維持費、そして人件費が重くのしかかる。

 そんな固定費体質だから「成功条件1」に照らして値下げはできる。事実、ホテルも航空運賃もかなりの値下げが行われている。しかしそれが爆発的な数量増加(=お客さんの増加)にはなかなか結びつかない。

 なぜなら、どちらのビジネスにも「キャパシティ(収容力)の上限」が存在するからだ。値下げしてお客さんが押し寄せたとしても、部屋数と座席数というキャパシティ(収容力)に上限があるため、そこに達したらあとのお客さんは断るしかないのだ。まさか廊下に泊めたり、立ち席で飛ぶわけにはいかないだろうから。

 まったく同様に、英会話学校や学習塾などのスクールも「キャパシティ(収容力)の上限」が存在するビジネスだということはお分かりいただけるだろう。「キャパシティ(収容力)の上限」は値下げの成功条件2「値下げによって販売数量(Q)が大幅に増加すること」を阻む要因となるわけだ。このような「キャパシティ(収容力)の制約」を受けるビジネスは、値下げに向いていないと言える。

講師は本当に「おいしい」商売か?

 ちがう例を取り上げよう。

 私が行っているようなコンサルティング・サービスや講師という仕事。よく人から「自分の身ひとつで稼げるおいしい商売でうらやましいですね」と言われる。いちおう「それほどでも・・」と笑顔を返しつつ、腹の中ではいつも「どれだけ大変か知りもしないくせに!」とムカついている(?)。

このコンサルティングや講師の仕事には変動費というものがほとんど存在しない。自分さえいれば仕事になる。たしかに「身ひとつで稼げる」というところまでは正しい。ということは値下げは可能だ。自分で言うのもおこがましいが、「全国どこへでも一万円ポッキリでお伺いします」と宣言すれば、たくさんの依頼を受けることになると思う。

 さあ、問題はそのときに何が起こるかだ。

 1万円ポッキリの講師料で講演依頼が殺到したとしたら、私は忙しくて他の仕事が何もできなくなる。忙しくて身体を壊してしまうかもしれない。つまり自分の身ひとつで商売を行っている人間にとって、「1日は24時間しかない」というキャパシティの上限が存在するのだ。その24時間で仕事に使えるのはせいぜい10時間。その10時間の仕事時間のなかで、事務所の経費、人件費などを賄っていかねばならない。

 いわゆる情報・サービス産業では、「自分という人間」そのものが商売の源泉になってきている例が多い。会計士や弁護士などの専門家もその典型的な例だ。一見「おいしい商売」と思われているが、働き過ぎで身体を壊してしまう人間が多いのもこの業界の特徴。

 それほどおいしい商売ではないんですよ。

 身体が資本の商売の場合、「1日が24時間しかない」ということがキャパシティの上限になって、大幅な増益が見込めないと言うことだ。 

キャパシティの限界を超えられるか?

 こうしてみると、「値下げによって販売数量(Q)が大幅に増加すること」という成功条件をクリアするのに、「キャパシティの制約」は大きな障害になることがわかる。そして、あらゆるビジネスに何らかの「キャパシティの上限」が存在する。皆さんもぜひ想像してみて欲しい。

 「自分のビジネスで販売数量が今の10倍になったら何が起こるか?」

 売上を10倍にするのはそれほど簡単ではないと思う。おそらく、なんらかの混乱が発生するのではないか?人手が足りないとか、在庫の運搬が出来ないとか、倉庫が足りないとか・・・。何らかのキャパシティ制約があって、それほど簡単に「10倍」は達成できないはずだ。販売数量が少し増えただけで、すぐ「キャパシティの上限がやってくる」ビジネスも多い。

 こうしたビジネスはそもそも「値下げに向いていない」のだ。反対に言えば、値下げしてどれだけお客が押し寄せても大丈夫なビジネスだけが「値下げに向いている」と言える。

 これまでに解説したマクドナルドの100円バーガーの成功を思い出してみよう。

 かつてハンバーガーを一気に値下げし、販売数量を大幅に増加させたマクドナルドは大増益を達成した。当然、大量のお客さんに提供する、大量のハンバーガーを焼かねばならない。そこには大量の物品を運ぶ流通の改善、大量のハンバーガーを焼く厨房での努力など、ありとあらゆる努力や改善があったはずだ。

 こうした努力を怠らなかったマクドナルドだからこそ、値下げ戦略は成功したわけだ。一方、単純に低価格をマネしただけのライバルは、その多くが赤字に転落した。

 さあそろそろ今回のまとめに入ろう。

 値下げが成功するかどうかのポイントのひとつは「キャパシティの上限」だ。

 高速道路、ホテル、航空会社はこの壁を越えられない。それ以外のビジネスでも、「キャパシティの上限」が存在する場合は少なくない。この壁を乗り越えられないからこそ、値下げが大幅な数量増加に結びつかず、失敗してしまうのだ。キャパシティの壁を大きく乗り越えられるビジネスだけが「値下げに向いている」ということができる。

 ・・・・どうして世間の値下げが失敗に終わることが多いのか、だんだん見えてきましたか?

 しかし値下げがうまくいかない理由はこれだけではありません。今回のキャパシティの上限というのは、あくまで「企業側の事情」。このほかにも値下げをめぐる「お客さんの事情」そして「ライバル企業の事情」もあります。次回はこれらについて考えてみることにしましょう。

 また次回をお楽しみに!

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