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 電力5社(北海道、東北、四国、九州、沖縄)が再生可能エネルギー発電設備の電力系統への接続申込みに対する回答を保留したことで波紋が広がっている。回答保留を受けて、政府が掲げる再エネ最大限導入に反するといった意見があるようだ。

本当の責任者を問う

 しかし、そもそも我が国のFITの破綻が不可避であることは、2012年7月の実施前からわかっていた。この直接的な原因は、FITの買取価格が高すぎたこと、そして買取価格の適用時期が設備認定の時点にあったことにつきる。つまり、制度設計の問題である。

 こうした制度設計がされた責任は、買取価格の査定能力が欠如した調達価格等算定委員会(以下、調達委)、投資環境整備に偏った政省令を作成してきた資源エネルギー庁(以下、エネ庁)、そしてFIT法の原案にはあった上限規定等の効率性の観点を修正案でそぎ落とした立法の不備(国会)にある。

 このように書くと、制度設計の問題なのだから、FITを修正し、改善を図っていけば良いのではないかという意見もあるだろう。しかし、査定能力に信頼が置けないままFITを続けることは難しいし、既に余りにも高くつく過ちを犯している。

図1賦課金見通し 拡大画像表示

 我が国FITでは直近(今年6月末)の認定分7178万kWが全て運開した場合の年間賦課金額は2.7兆円、買取期間は20年間等の長期に渡るためその総額は50兆円を超える(図1)。加えて認定分に遡及した買取価格の変更等の制度修正は極めて困難である。かつてドイツ・シュピーゲル誌は「太陽光発電は、ドイツ環境政策の歴史で最も高価な誤りになりうる」と批判したが、遡及措置が困難であることを考えると、ドイツを超えて、「世界の環境政策の歴史で最も高価な誤り」となることが不可避にあると言えよう。

 政府が掲げる「再エネの最大限導入」は、いくら高くても何でも買い取ることではない。改めて、出来るだけ少ない費用負担で、出来るだけ多くの再エネ供給を得る、効率性の観点に立ち返ることが必要である。具体的には、FITを廃止し、入札等の競争原理を用いた制度による仕切り直しが求められている。

査定能力がない調達委員会

 FIT実施に当たり、その最大の論点の一つは買取価格の設定である。我が国では、国会同意人事に基づく有識者5名による調達委が、再エネの種別・規模別等で16種類に分けて、「効率的な供給を行う場合に通常要する費用」に「適正な利潤」を加えて算出した(FIT法3条2項)。買取価格は最終的に経済産業大臣が決定するが、その際に調達委の意見書を尊重することが規定されている(同3条5項)。

 しかし、調達委の査定能力に大いに疑問がある。第1の問題として、業界団体のほぼ「言い値」で買取価格を算定した上に、基本的な計算諸元も不明で再現が不可能なことが挙げられる。例えば2012年度は、16種類の買取価格を設定した中で、事業者や業界団体が希望した買取価格がそのまま採用されたのが10種類、業界側希望価格から上乗せした価格は2種類に対して、縮小側見直しは3種類に過ぎない。

 加えて、調達委は業界提出の建設単価(万円/kW)を6種類について切り下げたが、最終決定した買取価格は業界希望のままだったことは特に不可解である(拙稿「日本における再生可能エネルギー普及制度による追加費用及び買取総額の推計」、p.32参照)。なぜそうなったのか、稼働率等の計算諸元が示されておらず、再現することは困難である。また、稼働率等の価格算定に必要不可欠な算定根拠が示されていない再エネも多く、買取価格がどのような試算によって算出されたのか不透明である。

 第2の問題として、再エネ事業者はコストデータの提出の際に、何らエビデンスを提出する必要が無いことだ。とりわけ、木質バイオマスと非住宅用太陽光発電の買取価格の設定が不可解だが(前者については拙稿「未利用材バイオマス発電 補助金4重取り」をご参照頂きたい)、エビデンスがないことの問題について後者の非住宅用太陽光を事例に示す。

 我が国のFIT買取価格は、運転開始時にエネ庁に提出する「発電設備設置・運転費用年報(年報)」に基づくコストデータに、適正な利潤を加えて算定される。非住宅用太陽光の買取価格は、12年度はシステム価格32.5万円/kWを基に40円/kWhと定められ、12年10~12月に提出された年報では同28万円に下がったことから13年度は36円/kWhとなった。

 しかし、13年10~12月、同価格は30.5万円と2.5万円上昇していた。そこで、(1)設備認定後の意図的な着工遅延を調査した報告徴収に基づいて収集したデータ(つまり運開前の設備発注段階)により、同価格が27.5万円に下がっていること、(2)非住宅用太陽光発電の設備利用率が13%と従来に比べ1%向上していること――から、14年度買取価格を32円/kWhに切り下げることを調達委で決めたのである。

 32円という買取価格は、依然、欧州FIT先行国と比べて2倍以上の水準にある。米国でも、モジュール価格の低下により、太陽光発電コストは昨年1年間で約3円下がり11円/kWhである。しかし、世界中で日本だけがコストが下がらないどころか、上昇している。普及によってコストダウンを促すFITの政策目的は根底から問い直されている。

 なぜ高止まりしているのか。よく円安が理由に挙げられるが、国内のモジュール出荷価格は国際的な相場に近づいており、円安の寄与度は小さい。考えられるのは、(1)太陽光発電の施工需要が急増しても、同じ地域内の工事・電気設備業者数はそれほど増えないので、工事費等が高騰している、(2)買取価格が高すぎるので、コスト削減意欲が大きくない企業も参入している――ことだ。つまり、よく「日本はコストが高いから買取価格が下げられない」と言われるが、反対に「買取価格が高いからコストが下がらない」可能性がある。

 コストダウンを促すためには入札等の制度変更が必要だが、すぐにでもできることは、第三者へのコストデータの公開である。非住宅用太陽光発電だけで約12万件の年報が提出されているが、領収証等の提出は不要。虚偽報告は認定取り消しになるので、必ずしも多くはないだろうが、単純な記載ミスはありうる。したがって、年報にコストのエビデンスを求めるとともに、コストデータを研究機関などに公開することで、コストダウンを妨げる要因の定量的検証を進めるべきだろう。

確信犯的に再エネ事業者を優遇したエネ庁

 エネ庁の新エネルギー小委員会(以下、新エネ小委)の山地憲治委員長は、「(制度の問題点について)警告が出されていたにもかかわらず、(政府は)今日に至る事態を招いた。予見されていたことなのだから、当然、手を打つべきだった」と批判したとされる(2014/10/01 読売新聞朝刊)。審議会の座長がこうした批判をわざわざ言及することは異例だが、この指摘で念頭にある一つは、買取価格の適用時期を認定時点としたまま放置し続けたことだろう。

 そもそも買取価格の適用時期には、我が国の設備認定時点、電力会社との系統接続の契約時点、そしてドイツ等の主要なFIT導入国のように設備の運転開始時点の3つの段階がある(参考記事「なぜ再エネは接続保留に至ったのか」)。我が国ではこの中で一番早い適用時期を設備認定時点とした。その結果、毎年年度末に駆け込み認定が発生し、設備認定量の1割程度しか運転開始に至っていないことや、空枠取り等の問題が生じていることは、拙稿で繰り返し指摘してきた(「バブルが始まった太陽光発電」「太陽光のFIT認定は一時的に停止を」)。

 空枠取りとは、買取価格の権利を先に獲得し、太陽光パネルの価格が安くなるまで意図的に運開を遅らせる、あるいは当初から発電事業は念頭になく買取価格の権利転売だけを目的としたブローカーを指す。空枠取りの横行は、健全な事業者の排除につながる。電力会社の電力系統への接続は申込順であるため、空枠取りは認定を受けると、買取価格だけでなく、系統接続の権利も獲得している。プロジェクトの熟度が全く考慮されず、運開時点が早いか遅いかという書類申請の申込順だけで、系統接続の優先順位が確定される。

 実は、なぜ適用時期が認定時点になったのか、あまり知られていない事実が2つある。第1は、FIT実施前のパブリックコメント募集の段階では価格適用時期は契約時点だったが、事業者からの「ファイナンスを組むためにも極力早い段階での価格の確定を期待する」等の要望を受け、パブコメの回答として、投資環境整備を重視するという理由で設備認定時点に早めていることだ。
(要望は「調達価格及び調達期間等、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法の施行関係事項に関するパブリックコメントの実施」(p.42~43)、回答は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度パブリックコメントに関する意見概要及び回答」(p.28、番号25と28))

 第2に、価格適用を認定時点にすることで、いわゆる「空枠取り」問題が起こることは、FIT制度開始前にエネ庁が認識していたことである。第2回調達委(2012年3月15日)の議事録によれば、調達委の山地憲治委員から適用時期が論点となるとの指摘を受けて、「枠取りというか初年度の価格を受けようとするためだけに、蓋然性がきちんと決まっていないのに設備認定等の申請が出てくる」として、たたき台を示して、調達委だけでなく、世の中に示し意見を聞くとしていた。また、パブコメ募集段階では、「事業計画が固まっていないにも関わらず有利な調達価格等をとりあえず確保するため、事業計画策定途上で調達価格等だけ確定させようとする不正事案が生じることも懸念される」ことから、「当該事業に要する費用が相当程度確定した段階でなければ、適用すべき調達価格等を確定させることはできない」として、「電気事業者との特定契約の締結時の年度の調達価格等を適用すること」としていた。

 したがって、エネ庁は、空枠取りの問題を導入前から把握していたにもかかわらず、確信犯的に買取価格の適用時期の設定によって再エネ事業者を優遇したと言えるのだ。

 最大の問題は、適用時期問題が、審議会等のオープンな場で全く議論されなかったことである。パブコメで適用時期の違いを踏まえてエネ庁が自身の考え方を示しているのは良いことだが(結果としてたとえ間違っていたとしても、何を根拠に判断をしたのか辿ることができる)、当初から問題点が認識されていたのであれば、少なくとも調達委で議論することで意思決定の透明性を確保すべきだっただろう。

総額50兆円を超える国民負担を推進した国会

 接続保留に関して、この間の国会での議論を聞いて首をかしげるのは、「政府は再エネ最大限導入と掲げている」とし、いくら高くても何でも買い取るかのような主張が幅を効かせていることだ。しかし、費用負担の上限等、効率性の観点をそぎ落とした法案を成立させた「立法の不備」は、前述した三者の責任の中で最も重いのではないか。再エネ特措法が成立した経緯を振り返ってみよう。

 そもそも、再エネ特措法の原案は2011年3月11日に閣議決定され、同年8月11日に自民党の修正案をほぼ全て取り入れる形で、民自公3党の修正合意によって、現行の再エネ特措法が成立した(図2年表参照)。

図2 「菅退陣」に弄ばれたFITの導入経緯
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 この国会審議による修正によって、FITの内容は、エネ庁の審議会における検討内容(再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチームによる「再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠について」、買取制度小委委員会報告書 )、それに基づく3月11日に閣議決定された原案と大きく異なったものとなった。

 とりわけ、費用負担の上限という考え方がなくなり、電源別規模別の買取価格が設定されることになったことが大きい。効率性の観点を弱めたのは、国会である。

 費用負担の上限については、当初、賦課金単価は、「1kWhあたり0.5円を超えない範囲内の負担額(一般家庭150円/月)」と海江田万里経産大臣(当時)が明言していた(衆議院本会議における法案趣旨説明答弁、2011年7月14日)。しかし、衆議院で修正案が可決された(8/23)翌日、「政府提出法案では0.5円/kWhを超えない範囲内の負担額と考えていたが、衆議院での修正の趣旨を踏まえる必要がある」「衆議院における法案修正を踏まえ、150円としていた負担額は上昇する可能性がある」(海江田大臣による8/24参院本会議における法案趣旨説明答弁)としている。つまり、この上限に関して政治的な逃げ道が確保されたのだ。ちなみに、14年度の賦課金単価は「0.75円/kWh」であり(図1)、既に当時議論していた上限を超えている。

 電源別買取価格については、原案では、買取価格は1kWh当たり15~20円、買い取り期間は15~20年間で、太陽光発電とそれ以外の再エネ電源の2種類に分けるだけで、太陽光発電以外には電源別の区別がなかった。しかし、修正案では、太陽光発電以外についても再エネの種類ごとの設置費用に適正利潤を上乗せした価格設定を行うことになった。特に、法律の施行後3年間を利用拡大の期間として、「調達価格を定めるに当たり、特定供給者が受けるべき利潤に特に配慮する(附則7条)」という修正を加えたことによって、高めの買取価格が設定されることとなった。

 以上のように、費用負担の上限もなく、導入実績に基づいた制度改廃もできない法律になっているため、結果として費用負担が急増し、根本的な対処が打てない状況が続いている。

 2012年7月から今年6月末までにエネ庁に認定された再エネ設備は7178万kWに達している。このすべてが運転開始(運開)すれば総発電量に占める再エネ割合は、現状の約12%から約20%に達する。また認定量の内訳をみると、10kW以上の非住宅用の太陽光発電がその9割を占めている。

 今後の賦課金水準は、これら認定設備のうち実際に運開する設備量に依存するが、仮にこのすべてが運開した場合、賦課金単価は3.12円/kWh、年間2.7兆円、これは標準家庭1カ月の負担額で935円に相当する(図1)。非住宅用太陽光発電が年間800万kW程度ずつ運開すれば、21年度頃にこの水準に達する。これは14年度の実績値の4.2倍、エネ庁による20年度推計の約3倍に達する水準である。

 また、買取期間は10~20年間続くため総額50兆円を超える国民負担による売電収入を再エネ発電事業者に既に保証してしまったことを意味する。もちろん認定取り消し等の理由により、認定のすべてが運開するとは考えにくいが、仮にその半分が運開するとしても、エネ庁推計を1.5倍も上回ることになる。

 以上のFITによる導入効果と費用はどのように評価できるだろうか。結論としては公共政策としての費用対効果は極めて悪い。FIT導入以前に実施されていたRPS制度における再エネ1kWhあたりの補助単価は5.8円(10年度)だったが、FITでは同27円となっており、4倍以上も悪化している。また1トンのCO2を減らすのに約5万~8万円(13年度実績値)もかかる非常に高価な温暖化対策である。我が国のFITがこのように費用対効果が悪い理由は、修正法案に効率性の観点が欠落し、他の再エネ電源と比べてももっとも割高な太陽光に認定と導入が集中していることにある。

現状は大けが 早急に止血せよ

 今や他国の経験から学ぶという段階ではなく、我が国独自の制度欠陥を早急に是正することが必要である。まずは、この異常事態を止めるため、太陽光に対するFITの認定を一時的に停止すべきである。さもなければ、今後も認定が急増し、今年度末までにはさらに数十兆円の国民負担が上乗せされかねない。これは到底看過できない。現状は大けがをした状態であり、まずは血を止めなければならない。その上で、制度の欠陥をよく点検し、修正を施した上で再開すべきである。

 具体的には、既に認定された設備に対して、より一層の厳格な認定審査と取消の実施が不可欠である。

 同時に、非住宅用太陽光の買取価格を大幅に切り下げるか、導入量に上限を設定し、買取価格の適用時期を現行の認定時点から、ドイツ等と同様に運転開始時点に変更すべきだ。

 我が国の見直しに向けた第1の改善点は、導入上限を設定し、費用負担をコントロールすることだ。そもそも、FITの買取価格は、再エネ電源別にコストを評価し、そこに利潤を加えて算出するため、上限を設定しない。しかし、急激な太陽光のコスト低下を反映できずに、高すぎる買取価格が設定されたため、費用負担が膨らんだ。そこで、年間導入量あるいは買取総額を上限とし、費用負担の抑制を試みている。

 第2は、上限の設定基準として、導入目標を用いることだ。短期的な導入急増は費用負担だけでなく、系統整備が間に合わない等のデメリットが生ずる。例えば、日本の太陽光発電導入目標は20年度累積2800万kWに対して、3月末までに1431万kWが導入されている。つまり、今年度以降、毎年約200万kWの導入で目標が達成できる。毎年200万kWを上限として、入札により買取価格を定める等の費用負担抑制策もある。

 政府が掲げる「再エネ最大限導入」とは、いくら高くても何でも買い取るという意味ではないはずだ。出来るだけ少ない費用負担で、出来るだけ多くの再エネ供給を得る、効率性の観点に立ち返ることが肝要である。

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