北朝鮮が6日、「水爆実験に成功した」という政府声明を発表した。北朝鮮が本当に水爆の実験に成功したかどうかは疑問視する見方があり、そうするとニュースでも「水爆ではなさそう」と伝えられたりする。しかし、水爆かどうかというのは、実は「だから何なの」と言いたくなるような違いしかない。確実なのは、北朝鮮の核開発が着々と進んでおり、どうも国際社会にはそれを止める力がなさそうだということである。私たちは厳しい現実を踏まえた上で、どうやって対処していくかを考えないといけない。

本当の狙いは「分からない」

(Getty Images)

 いつものことだが、北朝鮮の本当の狙いや考えは分からない。日本や米国、韓国など普通の国では行われる匿名を条件にした政府高官によるメディアへの背景説明などないし、北朝鮮政府内部の事情が外に漏れてくることも考えづらい。専門家は、公式発表など限られた情報から読み取れる情報とこれまでの蓄積を基に北朝鮮側の意図を推測するのである。

 ただし、2011年に金正日総書記が死去するまでと現在は事情が変わっている。韓国の統一相経験者は「金日成(主席)、金正日(総書記)は行動を理解できたけれど、金正恩(第1書記)は全く読めない」と嘆く。金正日時代までは、独りよがりだったり、倫理的に問題があったりしても、北朝鮮がどういう計算をしているか推測することは難しくなかった。ところが、金正恩時代になって北朝鮮の行動パターンが全く変わってしまったため、専門家でも読み切れないのである。

 今回の核実験について言えば、「実験の時期」だろう。多くの専門家は、この時期に核実験が行われることを予想していなかった。理由は以下のようなものだ。

 ▽金正恩第1書記が「新年の辞」で核開発に触れなかった

 ▽中朝関係が改善に向かっていた

 ▽南北関係も対話モードに入りつつあった

 特に、金正恩第1書記の訪中が調整されていたとされることから、中国を怒らせることが確実な核実験はないだろうと見られていたのである。

 時期については、

 ▽5月に開かれる36年ぶりの党大会までに米国を交渉のテーブルに引き出そうとした

 ▽同じく党大会を前に国威発揚を図ろうとした

 などという観測もある。だが、5月までに対米交渉を動かすというのは日程的に難しいだろう。国威発揚というのはあるだろうが、それだけのために他のマイナス要因を甘受するのかという疑問は残る。ある北朝鮮専門家は「真面目に考えれば、考えるほど、今回は『なぜ今かというのは分からない』としか言えなかったのではないだろうか」と話した。

北朝鮮「政府声明」の読み方

 では、北朝鮮が発表した「政府声明」という公開情報から読み取れることは何だったのだろうか。声明のポイントを追ってみよう。

 まず分かるのは、「初の水爆実験」を強調している点である。

 声明は「歴史に特筆すべき水爆実験が最も完璧に成功したことで、朝鮮は水爆まで保有した核保有国の前列に堂々と立つことになった」と強調するとともに、「今回の水爆実験は、われわれの核武力発展のより高い段階である」と規定した。

 原爆の数百倍にのぼる破壊力を持ち、構造も難しい水爆を開発する段階に達したというアピールだ。北朝鮮では「金正日総書記の最大の功績の一つが核保有国の仲間入りをしたこと」とされている。5月の党大会で新体制を本格的に発足させようとしている金正恩第1書記としては、父を超える実績をアピールしたいのかもしれない。

 次に読み取れるのは、米国に対抗するための手段という核兵器の位置づけは不変だということだ。

 声明は、「米国をはじめとする敵対勢力の日を追って増大する核の威嚇と恐喝から国の自主権と民族の生存権を徹底的に守り、朝鮮半島の平和と地域の安全を頼もしく保証するための自衛的措置である」と核開発を正当化している。

 米国に対しては、「各種の経済制裁と謀略的な『人権』策動にしがみついて、われわれの強盛国家建設と人民生活の向上を阻み、『体制崩壊』を実現しようと躍起になって狂奔している」と批判してもいる。

米国への敵対心は「恐怖」の裏返し

 こうした米国に対する敵対心は、実は、恐怖心を背景にしたものである。そうした恐怖心を如実に示すのが、声明にある次の一節だ。

 「こんにちの厳しい現実は、自分の運命は専ら自力で守らなければならないという鉄の真理をあらためて明白に実証している。恐ろしく襲い掛かるオオカミの群れの前で猟銃を手放すことほど愚かな行動はないであろう」

 これは、リビアを念頭に置いた表現だ。米国との交渉で核放棄に応じた後、「アラブの春」の際の内戦で米欧に軍事介入されて悲惨な末路をたどったリビアのカダフィ政権は、北朝鮮にとっては反面教師となっている。カダフィ政権は「核を手放したから米国に対抗できなくなった」と受け止められているのである。

北朝鮮が核兵器に固執する理由

 北朝鮮が核開発にこだわる理由は、前述した通り、米国に対する恐怖心だと考えられている。北朝鮮は1970年代の米ソ・デタントや米中接近に大きな衝撃を受けた。中ソ両国から見捨てられるかもしれないと考えた北朝鮮は1974年、米国に平和協定の締結を提案する。北朝鮮はその後、現在にいたるまで米国に平和協定の締結を求め続けているが、米国は応じていない。

 北朝鮮がいよいよ孤立感を高めたのは冷戦終結の時だ。1990年に韓国との国交樹立方針を説明するため平壌を訪問したソ連のシェワルナゼ外相を前に、北朝鮮の金永南外相が読み上げたメモは北朝鮮の考えを明確に示している。

 米国のジャーナリスト、ドン・オーバードーファー氏の著書『二つのコリア』によると、金外相は「ソ連が南朝鮮を承認すれば、南朝鮮を力づけ、北朝鮮の社会主義体制の一層の破壊と、東ドイツ型シナリオに則った北朝鮮の吸収に向かわせることになる」という危機感を表明。さらに「同盟関係が事実上なくなれば、北朝鮮は必要とする兵器を製造しないとの(ソ連と交わした)約束にしばられなくてもよいと考える」と述べ、核兵器を作ることを事実上宣言したのだ。

 核兵器を作っても、運搬手段であるミサイルがなければ意味がない。北朝鮮は1990年代の経済的苦境の中でも、核兵器と運搬手段である弾道ミサイルの開発に集中的な投資を続けた。それは、大きな経済力を持つようになった韓国に通常兵力で対抗し続けるより、ずっと安上がりの方法でもあった。

 そうした継続的な取り組みの結果が、4回にわたる核実験である。弾道ミサイルも、日本全土を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」は既に大量配備されており、米本土を狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発も着々と進んでいる。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発も進められている。

北朝鮮を馬鹿にしていると判断を間違える

 SLBMについては、昨年5月に初めて試験が行われた時に「合成写真ではないか」という見方や、「潜水艦からではなく、水中に沈めた発射管からの射出だったのではないか」という見方も報じられた。だが、日米韓の軍事当局はその後、「潜水艦からの試験発射だった」という分析に落ち着いている。

 北朝鮮は今月8日、昨年12月21日に実施されたとみられるSLBM発射実験の映像を公開した。

 これについても、ミサイルが雲海の上を飛んでいく場面は「スカッド」ミサイルの映像を流用したのではないかという指摘が出ているが、それは「過剰な演出」という水準の問題にすぎない。

 韓国メディアの報道によると、韓国国防省関係者は、昨年5月の発射実験では水中からミサイルが飛び出す角度が74度だったのに、12月は垂直になっていることから技術的な進歩がみられると指摘。SLBMの実戦配備は「3年から4年以内に可能になる」と予測した。

 どれも、北朝鮮には技術的に不可能だと言われてきたものだが、北朝鮮は着実に開発を進めてきた。「水爆ではないようだ」とか「合成写真ではないか」などと言われると、たいしたことないような気になってしまうかもしれないが、現実はそれほど甘くないのである。

制裁の効果には限界がある

 韓国の外交通商次官補として6カ国協議の初代首席代表を務めた李秀赫氏は実験翌日の韓国MBCラジオとのインタビューで、核開発にかける北朝鮮の決意が固いものであることを説明した。専門家として、きわめて適切だろうと思われる内容だったので、最後に紹介しておきたい。

 李氏は、「なぜ昨日だったのか」には大きな意味がないと説く。北朝鮮は20年前から核開発を進めており、そのスケジュール上にあった実験だからだという。さらに、今回の実験が失敗だったとしても「究極的には水爆を作ってしまうだろう。時間の問題だ」と予測した。

 国際社会の制裁についても、強化すべきではあるが、それは「懲罰」としての効果しかないと見る。中国にとっては北朝鮮の生存が不可欠の国益だから、北朝鮮の体制崩壊につながりかねない制裁に中国が同調することを期待するのは難しい。そのために制裁は「懲罰」としての性格しか持ちえず、北朝鮮の行動を変えさせる「予防」的効果を期待するのは難しいというのだ。

 李氏は結論として、強圧的な対応で北朝鮮に核放棄をさせるという目標達成は難しく、そうである以上は唯一の対話の枠組みである6カ国協議を使うしかないと主張した。すっきりしない人も多いかもしれないが、それが現実だろう。

  
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