2022年9月26日(月)

Wedge REPORT

2011年11月21日

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 これに対し干潟の保護を求める地元住民らは、県や市を相手取って工事の差し止めを求める裁判を那覇地裁に起こした。裁判の争点は「経済振興」か、それとも「自然保護」か。2008年に出た判決は、県および市が作成した宿泊需要等の予測について根拠に疑問を呈し、現時点で事業は経済的合理性を欠き、支出は地方自治法などに反し違法だとした。経済振興のための事業に経済合理性がないとされては、元も子もない。この判決に県や市は不服だとして、控訴したが、09年に福岡高裁那覇支部は1審判決を支持し、訴えを棄却した。

 裁判と前後して市が作成し直したのが、現在の計画だ。リゾート拠点からスポーツ拠点へとコンセプトを変更。埋め立て面積を縮小した上で、スポーツ施設や多目的ドームなどを建設するとしている。中断していた工事も10月14日には再開した。しかし、泡瀬干潟の隣に体育館、陸上競技場等が整備された運動公園があるほか、隣接する自治体にも運動公園が存在し、利用者が増える見込みは疑わしく、「とにかく事業を継続するために体裁だけ整えた計画」(前出・前川氏)との批判は強い。

公共工事より他に仕事がない

 沖縄市中心部の胡屋地区は、東アジア最大の空軍基地である米軍の嘉手納飛行場のメインゲートのそばにある。かつては多くの飲食店が軒をつらね、米軍兵士らで賑わったが、円高に加えて、事件の頻発による県民の反基地感情の高まりを懸念した米軍当局が兵士の外出を規制するようになったことから、夜の街はすっかり賑わいを失ってしまった。

 英語の看板をつけているが、今は廃墟となった飲食店も目立つ。地元住民は、「ベトナム戦争の頃は、米兵相手の商売で賑わっていましたが、今ではお年寄りばかりですよ」と語る。胡屋地区の商店街を歩いてみると、完全なシャッター通りとなっていた。

 市の担当者は、衰退した地元経済を活性化するために、泡瀬の埋め立て事業が欠かせないという。

 沖縄市議会の多数派は、泡瀬の埋め立て事業を推進する立場をとってきた。東門美津子市長も、埋め立て事業の撤回を訴えて06年の市長選に当選した経歴がありながら、当選後は推進の立場に転じた。

 泡瀬の埋め立てを望む住民の考え方を、工事を推進する住民団体「沖縄市東部地域の発展を考える会」の伊佐真一郎会長はこう説明する。「基地の米軍兵士もお金を使わなくなり、働く場がなくなりました。市内の若者の2割は失業していて、次々に那覇や本土へと出て行っています。工事だけでなく、完成すれば、ホテルやスポーツ施設での雇用につながり、彼らを地元に引き止めることができる」。

 泡瀬の埋め立て工事で建設や砂利などの業者に仕事が生まれるだけでなく、完成後もスポーツ施設やホテルの従業員としてまとまった雇用が見込まれるのは事実であろう。しかし、それも完成した施設に十分な利用客が見込まれるのであればの話だ。

 胡屋地区には、71億円を投じて建設された、「コザミュージックタウン」という施設がある。かつて米軍兵士を相手にしたジャズやブルースの演奏が盛んだった頃の賑わいを取り戻し、沖縄市に新たな音楽文化を創造しようとのコンセプトから建設され、音楽ホールやスタジオなどの設備を持つが、建設から4年。利用率は50%にも満たず閑古鳥が鳴いている。市はこの施設の維持費に毎年5000万円弱の予算を投じているが、テナント不足に喘ぎ、音楽とは無縁のゲームセンターが入居するありさまだ。

 地域開発論が専門の宮田裕琉球大学非常勤講師は、「ハコモノをどう活用するのか、十分な検討もないまま建設してしまい、ランニングコストが市の財政を圧迫するだけになっています。泡瀬干潟も同じ結果をたどるのではないでしょうか」と警鐘を鳴らす。

WEDGE12月号 特集 「もうひとつの沖縄問題 10兆円振興策への依存体質」
◎自立できない沖縄経済
◎公共事業依存のまち
◎ITも金融特区も不発
◎一括交付金3000億は妥当か

◆WEDGE2011年12月号より


 




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