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2019年7月1日

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田中淳夫 (たなか・あつお)

ジャーナリスト

静岡大学農学部卒業。出版社、新聞社を経て、主に林業を中心に取材・執筆。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)など多数。

 延岡市の60代の女性のところに林業の仲介者と称する男が訪れたのは、16年2月だった。「間違ってあなたの山の木を数本伐ってしまった」という。その時はさほど重大視しなかったが、現地に足を運んだ。すると1300本もの木が伐られていたと判明する。

 森林組合や市と相談して調べると伐採届も出されていない。ただ、ほぼ隣接する0・03ヘクタール分の山林に届けが出され、それを基に27倍もの面積の女性の山を伐っていた。仲介者が「間違えた」と伝えに来たのは、伐採業者が勝手に伐ったと言い逃れするためだろうか。その後、山は土砂災害特別警戒区域に指定されてしまった。

 警察に被害届を出しに行くと「伐採業者も仲介者に騙(だま)されたと言っている。彼が被害届を出さないとあなたの届を受理できない」という理解不能の返答だった。弁護士にも依頼して証拠書類を揃えて警察に幾度も足を運ぶが受け付けられない。その間、業者からの脅しの電話もあったという。

 ようやく受理されたのは18年9月。警察に70回は通ったという。

 「これだけ粘ったのは、うちの山が盗伐されたのは5回目だからです。もう我慢できないと思って」

 だが12月に不起訴の決定がなされた。翌2月に検察審査会に申し立てをした結果、4月15日に送検された7人のうち仲介者1人だけが「起訴相当」となる。不満はあるというが、盗伐としての刑事裁判がようやく始まる。

 「被害者の会の会員の約9割は高齢者で、山に足を運ぶのが難しい人。それに県外居住者です。障害者を抱える家族もいます。伐られたことに気づきにくく、訴えなさそうな相手を選んでいるんです。伐採業者の中には県の優良事業者に認定された者もいて、補助金を受け取っています」(海老原さん)

 目立つのは警察や自治体などの不作為や消極姿勢だ。被害を警察に訴えても被害届を受け付けなかったり、当初から示談を勧められたりするケースが多い。その点の宮崎県警の回答は「個別の事案に応じ、適切に対応しています」「犯罪があると思料される場合は捜査を行っています」だった。

宮崎県に合致する
盗伐を誘発する3条件

 宮崎県で何が起きているのか。18年の木材生産量は約192万立方メートルと北海道に続く。とくに9割を占めるスギの生産量は28年連続日本一だ。県内には製材・集成材工場が多くあり、バイオマス発電所が9つも建設された。15年には大手の製材工場が新たに稼働した。さらに中国や韓国への木材輸出も増えている。原木はいくらあっても足りない状態だという。

 しかし、伐採しやすい山は尽きてきた。残るのは搬出の難しい奥山や、所有者が不明もしくは境界が確定していない山、そして伐採を認めない所有者の山などが多い。

 盗伐問題を研究する九州大学・持続可能な社会のための決断科学センターの御田成顕講師によると、盗伐の発生には3つの条件があるという。「好適な対象」に「盗伐者の動機」、そして「監視体制の不備」だ。宮崎県の場合、これがピタリと当てはまるという。

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