Wedge REPORT

2012年1月10日

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密造で危険性が高まる

 この麻薬の常習者ともなれば、体重が減り、免疫力も低下するという。ただ、本当の危険性は、原料やその製造方法に原因があるようだ。例えば、原料のひとつガソリン。若者たちが入手できる一般の燃料用のものには、鉛や亜鉛など有毒な重金属の不純物が混ざっていることが少なくない。さらに、地下室など劣悪な環境で密造したり、使いまわしの不衛生な道具を使ったりすることで、有毒な物質が混入することも多いという。

摘発された密造現場。不衛生な器材が雑然とならぶ。(麻薬取締局ビデオより)

 クロコダイルは静脈に注射して使う。不純物が混ざった麻薬を注射すれば、どうなるか。たとえ1回きりの使用でも血管に激しい炎症を引き起こしてしまうこともあるというが、当然のことかも知れない。しかもクロコダイルは強い依存性をもつ。二度、三度と手を出すうちに、常習者となってしまえば、その症状は凄惨を極める。

 毒物が血管、そして内蔵を蝕み、注射した付近の手足の皮膚は緑に変色し鱗のようになる。クロコダイル(=ワニ)という呼び名はこの症状からついたものだ。やがて皮膚が壊疽を起こした挙句、骨がむき出しになってしまう。こうなれば、手足を切断するしかないが、手遅れになれば死に至ってしまう。先ほどの「ノーヴィエ・イズヴェスチヤ」の記事では、過去2年間にロシア全土で死亡した常習者の数は5~7千人に上るという。

 なぜこうした自殺行為のようなことを若者たちはするのか。ロシアでは、この麻薬の流行が本格化した時期が、リーマンショックのあおりでそれまで好調だった経済が一気に景気後退した時期と重なることに関連づける見方が多い。密造すれば、ヘロインの3分の1とも10分の1とも言われる値段で快感を得ることができる。職を失い、収入を断たれた若者たちがその安さに飛びつき、密造に手を染めるようになったというのだ。

 猛威はすでにロシアの国境を超えつつある。昨年11月4日付のBBCの報道によると、フランス北部でクロコダイルの過剰摂取が原因と見られる心臓発作などによって若者4人が死亡したという。ドイツでも都市部の貧困層の間で使用が広がっているとの報道もある。通貨ユーロが危機を迎えるヨーロッパでもこの麻薬の使用が広がるのだろうか。

政府の対策は後手後手

 ロシア政府もクロコダイルの流行には神経を尖らせている。連邦麻薬流通取締局のビクトル・イワノフ局長は、「中毒患者が全土で拡大しており、ロシア社会にとって深刻な脅威だ」と発言。インターネットやテレビなどのメディアを使って麻薬の恐ろしさを若者に訴えるキャンペーンを展開する一方で、密造場所の摘発を次々に進めている。しかし、この麻薬の大きな特徴は、自家製できること。個人の自宅で密造されるとあっては、摘発が追いつかないというのが実情だ。

 昨年4月にはシベリアのイルクーツクでメドベージェフ大統領も出席して政府の麻薬対策会議が開かれた。会議で大統領は、自らこの麻薬についてインターネットで検索してみたところ、検索結果一覧の一番上に出てきたのがその密造方法だったと指摘。「(一番上となるということは)多くの国民がこの麻薬はどのようなものか調べているのではなく、密造方法の情報を得ていることを示している。こうしたサイトは閉鎖しなくてはならない」と述べ、ネット上で違法な情報がやり取りされることがないよう規制強化を指示した。

 これを受けて当局はサイトの閉鎖を進めているようだ。実際、記者が昨年12月に見つけた製造方法を詳細に示したサイトは、年明けには開くことができなくなっていた。しかし、ミラーサイトも次々と立ち上げられており、まるでイタチごっこだ。これだけでは対策としては十分ではない。もっと他に対策はないのだろうか。

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