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2019年10月9日

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米ホワイトハウスは8日、ドナルド・トランプ大統領が政敵に対する汚職捜査をウクライナ政府に要請した問題で、野党・民主党が進めている弾劾調査への協力を拒否すると明らかにした。

ホワイトハウスは民主党幹部に宛てた書簡で、弾劾調査には「根拠がなく」「憲法上無効」だと主張した。

連邦下院で多数を占める民主党は、トランプ氏がジョー・バイデン前副大統領の不祥事を探り出すために、4億ドル分の軍事援助の停止をちらつかせてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけたとして、9月24日に正式な弾劾調査を開始した。

バイデン氏は、来年の大統領選挙で民主党候補になる可能性が有力視されている。

書簡公表の数時間前、トランプ政権はゴードン・ソンドランド駐欧州連合(EU)大使の下院証言を拒否した。

書簡の内容

8ページにおよぶ書簡は、弾劾調査を進める民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長やアダム・シフ下院情報委員長(民主党)、イライジャ・カミングス下院監視・政府改革委員長、エリオット・エンゲル下院外交委員長に宛てたもの。

この中で、ホワイトハウスのパット・シポローニ顧問は、採決なしに開始された弾劾調査は「基本的公平性や憲法上義務付けられている適正手続きに違反している」とし、ペロシ氏らを非難した。さらに、2016年の大統領選挙結果を覆そうとしているとしている。

「大統領としてのアメリカ国民への義務を果たすために、トランプ大統領とトランプ政権はこうした状況下において、党派的で違憲な弾劾調査に参加することはできない」

ホワイトハウスは、「憲法と法の支配に反する偽りのプロセスである、違法な『弾劾調査』について、ホワイトハウスからナンシー・ペロシ氏や民主党幹部への完全回答を読んで欲しい」とツイートした。

https://twitter.com/WhiteHouse/status/1181687463657562117


<関連記事>

証言拒否で「深く失望」

シポローニ氏の書簡が公表される数時間前、ホワイトハウスは、ソンドランド駐EU大使の下院証言を拒否した。

ソンドランド氏をめぐっては、バイデン氏を捜査するようウクライナ側へ圧力をかけたことに言及したテキストメッセージの内容が、3日に明らかになった。

ソンドランド氏を弁護するロバート・ラスキン氏は声明で、下院証言の準備のためにベルギー・ブリュッセルからワシントンへ移動したソンドランド氏は「深く失望」していると述べた。

「ソンドランド大使は、自分は常にアメリカの利益を最優先に行動していたと、強く信じている。そして、委員会からの質問に対して完全に正直に回答するために待機している」

トランプ氏は、「僕は喜んで、本当に良い人物で、素晴らしいアメリカ人であるソンドランド大使を証言に出席させたい。しかし残念なことに、共和党の権利が奪われ、真実を世間に公表することが認められない、完全に危険ないかさま裁判で証言するはめになるだろう」とツイートした。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1181560708808486914


一方、シフ下院情報委員長は記者団に対し、ソンドランド氏のテキストメッセージあるいはメールはウクライナ疑惑と「非常に関連性があり」、弾劾調査するに値すると主張。こうしたやり取りについて国務省へ報告したと述べた。しかし、国務省は大使らの証言を拒否した。

「証言の拒否や、関連文書の提出拒否について、我々はいまも、議会の憲法上の役割に対する妨害行為を証明する有力な追加証拠になると考えている」

弾劾調査の背景

トランプ氏は、当時、米副大統領としてウクライナ政策を主導していたバイデン氏の息子のハンター氏が、ウクライナのエネルギー企業ブリスマの幹部だったことから、利益相反にあたるのではないかとみている。

トランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領は7月25日、電話で会談。その中でトランプ氏は、バイデン親子を捜査するよう圧力をかけたとされている。

この電話内容に「深刻な懸念」を抱いた情報機関の内部告発者が、情報機関監察総監に懸念を伝え、ペロシ氏が先月24日、弾劾調査を正式に開始すると発表した。

現在のトランプ氏への弾劾調査の対象は「ウクライナ疑惑」に限られているが、下院の弁護士は8日、連邦判事に対し、トランプ氏による司法妨害の疑いのある行動にまで調査が拡大する可能性があると伝えた。

民主党は現在、2016年大統領選挙でトランプ陣営がロシア当局と結託した疑いをめぐり、未修正のロバート・ムラー米特別検察官の捜査報告書の開示を求めるなど、司法省と対立している。

弾劾手続きとは

合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。

弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。下院が調査の後に単純過半数で弾劾訴追を可決した後、上院が弾劾裁判を行う。上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領を解任できる。

現在の下院では、定数435議席のうち民主党が235議席を占めているため、弾劾訴追が成立する可能性は高い。

一方の上院は、定数100議席のうち共和党が53議席を占める。解任の動議成立に必要な3分の2以上の賛成票を得るには、多数の共和党議員が造反する必要があるため、大統領が実際に解任される見通しは少ない。

その一方で、トランプ氏を支持してきた共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務は30日、もし下院が大統領を訴追した場合、上院としては規則上、弾劾裁判を開かないわけにはいかないと表明した。

過去の大統領で弾劾されたのは、アンドリュー・ジョンソン第17代大統領とビル・クリントン第42代大統領のみだが、上院の弾劾裁判が有罪を認めなかったため、いずれも解任はされていない。

リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾・解任される可能性が高まったため、下院司法委の弾劾調査開始から3カ月後に、下院本会議の採決を待たずに辞任した。


<解説>アンソニー・ザーカー、BBC北米担当記者

米下院による弾劾調査が開始されて2週間がたち、アメリカには憲法の危機が差し迫っている。

ホワイトハウスのナンシー・ペロシ下院議長への回答文書が8ページに及んだ一方で、そのメッセージはシンプルだった。罷免もなければ、関連資料もなく、少しの協力もしないというものだった。

トランプ政権は、弾劾調査プロセスを「違憲」とするなど、調査そのものの合法性に懐疑的だ。民主党側は、憲法は下院に「弾劾調査への唯一の権限」を付与していると反論。ホワイトハウスの同意の有無に関わらず調査を継続するとしている。

民主党側には現時点で複数の選択肢がある。政権側が調査妨害したとして、弾劾訴追することもできる。

調査協力を促せるかもしれないと期待しつつ、ホワイトハウスのあいまいな要求を受け入れることもできる。

あるいは、ホワイトハウスに協力を強いるために裁判に持ち込もうとすることも可能だ。

しかし、司法機関は、政争にほかならない行き詰まりに判断を下すことを嫌うかもしれない。そうなると、トランプ氏が下院による決定事項を尊重しなければならないとは感じないかもしれないし、上院での弾劾裁判の正当性にも疑問を投げかけるかもしれないという見通しが生じてくる。

これは未知の領域だ。両者がそれを認識している間、(まったく異なる結論を導いたとしても)大統領職と、おそらく法の支配は危険にさらされている。


(英語記事 White House vows to fight impeachment inquiry

提供元:https://www.bbc.com/japanese/49982317

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