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2019年11月29日

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ジヤル・ゴル、BBCペルシャ語

建物の入り口を挟んで撮影された映像では、血を流して歩道に横たわる10代少年を女性が見つめているように見える。その脇を走って通り過ぎる人たちに、機動隊員が警棒をふりかざして殴りかかる様子も見える。

南部シラーズで撮影された別の映像では、倒れて動かなくなった男性を集まった人たちが助けようとしている。煙が充満した道路で、大勢が後退していく。怒鳴る声、悲鳴、銃声が聞こえる。

もうひとつの映像は、首都テヘランを走る車の中から撮影されたもので、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している。女性が叫んでいる。

https://twitter.com/bbcpersian/status/1197840801721659393


こうした映像が国外に流出するのを恐れて、イラン政府は11月初めに8日間以上もインターネットを遮断した。石油価格急騰に対する抗議行動が、国内各地で広がる最中のことだ。

今ではインターネット接続は一部復活し、それに伴いソーシャルメディアには政府の強硬な取締りによる流血沙汰の動画が再び出現し始めた。その内容は恐れられていたよりも残酷で、苛烈だ。抗議に参加して命を失った人たちについても、どういう人で、なぜ犠牲になったのか、それぞれの物語が浮上しつつある。

錯綜する情報

イラン当局は死傷者数について、公式発表は何もしていない。しかし、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルが入手し、信頼できると判断した情報によると、11月15日に抗議デモが始まって以来、少なくとも143人が死亡している。

同団体によると、デモに参加して死亡した人のほとんどは、治安当局による意図的な銃器の使用によって犠牲になった。それ以外では、1人が催涙ガスを吸引後に死亡し、1人が殴打されて死亡したという。

アムネスティーはツイッターで、「イランによるインターネット遮断ほどロジスティック的に複雑な対応はかつてなかったと、デジタル技術の専門家たちは言う。どうやらイラン当局は、自分たちがこうやって政府庁舎の屋根から丸腰の抗議者を狙撃している様子を、私たちに見せたくないようだ」と動画を投稿した。

https://twitter.com/amnesty/status/1197848350986571777


アムネスティーは実際の死者数は143人よりはるかに多いと見ている。イラン国内の活動家や当局筋はBBCペルシャ語に対して、200人以上だと話している。

一方でイランの外交官は先週、こうした数字は「憶測」に過ぎないと反発し、「欧米の組織」が「根拠のない主張」をしていると批判した。ハッサン・ロウハニ大統領は国内の抗議について、イランに敵対する国々が仕組んだ計画に沿って「反政府分子」が引き起こしたものだと話している。

しかし、イラン国民がスマートフォンで撮影した動画の多くは、生々しく残酷で正視するのが難しいが、見ればイラン政府の公式見解に疑念が生じる。

デモ鎮圧に使われることの多い民兵組織「バシジ」や治安部隊が、無防備な抗議者を路上で痛めつけたり、至近距離で群衆に実弾を打ち込む様子などが、こうした動画には映っている。

「数千人が負傷か拘束」

イランの保健当局が広く献血を呼びかけていることからも、デモ鎮圧によって数千人が負傷した可能性がうかがえる。

病院関係者はBBCペルシャ語に、負傷した抗議者を探して治安部隊が病院を捜索していると話した。1人の医師によると、当局は患者の包帯をめくりその下に銃創がないか確認している。銃で撃たれた傷があると、その場で逮捕されてしまうという。

イランの司法当局は22日、イラン革命防衛隊が「騒乱の指導者や中心的存在」を約100人逮捕したと発表した。デモに参加したものの、器物損壊などの犯罪行為とは関係ない多くの人は釈放されたという。

一方で、イラン国内の消息筋はBBCペルシャ語に、拘束された人数は数千人に上ると話している。

一部の都市では、軍の兵舎やスポーツ競技場が学校が、収容施設として使われている。そうした学校に近い高層ビルに住むジャーナリスト、アリネジャド・マシフさんはツイッターで、収容者が手荒く扱われている様子の動画を投稿。「政府は事態を抑えられなくなると恐れる余り、抗議デモが続く間、テヘランの学校を休校にして、『雪』のせいにした。けれども実際には、このビデオが示すように、抗議者の逮捕に学校施設を使った。イランの独裁者はこの戦いで敗れる」と書いた。

https://twitter.com/AlinejadMasih/status/1198326925963530241


イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、抗議参加者たちは「国外と関係する」と主張するものの、情報省は議会に、拘束されたほとんどは貧困家庭出身の無職な若者だと報告した。

「物乞いのように暮らす」

イランを拠点にするジャーナリストは、各地のデモについて報道が制限された、もしくは報道するのが危険すぎる状態におかれた。そして、国外にいる記者たちはインターネット遮断の影響を受けた。

しかし、イラン国内での放送を禁止されているBBCペルシャ語は、電話その他の手段によって、現場の市民記者や活動家や信頼できる消息筋と接触することができた。

「国境沿いにあるクルド系の小さい町、マリワンでは、反政府デモで少なくとも10人が死亡した。市街地はまるで戦場のようだ」と筆者もツイートした。

https://twitter.com/jiyargol/status/1197097095355871232


集まった動画には、政府や国を支配する聖職者や治安部隊のシンボル、あるいは銀行やガソリンスタンドを標的にする抗議の様子が映っていた。

デモの中心地はもっぱら国の西側、イラク国境沿いにあるクルド系の町村や、テヘラン、カラジ、シラーズといった主要都市の近郊に集中していた。いずれも、国内でとりわけ失業率の高い地域だ。

シラーズではデモ隊が、「ガソリンの値段が上がる、自分たちは貧乏なのに」と繰り返していた。

テヘラン近郊のマラルドでは、「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」と大勢が繰り返していた。

イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。

https://www.youtube.com/watch?v=Av3_KgHbN9U


中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。

被害者は何を

イランの国営メディアや治安部隊に近い新聞各紙は、抗議に参加する人たちをごろつき、ならず者として描写し、公共の施設を荒らして略奪するのが目的だと伝えた。

しかし、犠牲者の遺族たちからBBCペルシャ語が聞いた内容は、別の状況を物語っている。

40歳のファティマさんは2人の子供の母親だった。テヘラン近くのデモで亡くなった。

遺族によると、ファティマさんは失業とインフレに抗議してデモに参加した。

西部ケルマンシャーのアルミン・カデリ君は10歳だった。遺族によると、パンを買いに外出して、命を落とした。

被害にあった家族の多くはBBCペルシャ語に対して、自分たちの家族は経済危機への怒りを表明しようと家を出たのだと話した。政府当局はそれに、銃弾で応えたのだと。

(英語記事 Iran protests: Videos reveal crackdown regime tried to hide from world

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-50583896

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