2020年7月9日(木)

トヨタ自動車

2019年12月20日

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「福祉車両」と聞いて、自分の身に引き寄せて考える人は多くないかもしれない。だが、本当の福祉車両は、超高齢社会の今を生き抜くすべての人になくてはならない存在なのだ。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年はもう、すぐそこまで迫っている。

高齢者にもやさしい
「普通」志向の福祉車両を

 

 介護用具から食品まで、福祉に関するあらゆるツールを集めたアジア最大級の展示会「第46回国際福祉機器展(H.C.R.2019)」が、東京ビッグサイトで開催された。9月25日から3日間の来場者数はおよそ11万人。半世紀に迫る連続開催もうなずける盛況ぶりである。

 展示会場でひときわ大きなブースを構えるのは自動車メーカーだ。フロアを囲むようにして各社の福祉車両がずらりと並ぶ。例えば、トヨタとダイハツの合同ブースには、車いす仕様車や助手席回転シート車など18台が、1000平米超のエリアも所狭しと置かれている。

 なかには、歩行領域用の一人乗り電動車としてトヨタが開発した、車いすにも連結可能な超小型EVもある。東京オリンピック・パラリンピックに提供するという。また、車いす乗降スロープ付きのJPN(ジャパン)タクシーや、回転クッションや乗降ステップ、アシストグリップといった、普通車に装着可能な各種サポートグッズも展示された。

中川茂氏(CV Company/CV製品企画主査)。志願してウェルキャブ開発担当となって15年。さまざまな福祉車両を手掛けてきた

 トヨタとダイハツが合同出展を始めたのは前回から。障がいのある人、高齢者、介護者と、さまざまに事情の異なる利用者の多様なニーズに応えられるよう、より幅広いラインナップで見比べてもらうためである。「福祉車両の普及はまだこれから。今は競合より、協力です」と、トヨタで「ウェルキャブ」と総称される福祉車両の開発を担う中川茂氏は話す。

 ウェルキャブ開発の歴史は長く、1960年代半ばには運転補助装置の取り付け改造が始まった。国連国際障害者年の81年、完成車としての福祉車両の販売を開始。超高齢社会に突入する直前の2005年にはいち早く、通常の生産ラインの中で福祉車両の生産を始めた。

 中川氏によれば、それでも現在、障がいのある人たちに対する福祉車両の普及率は推算で1割程度。高齢者では1%ほどに過ぎないのだという。福祉車両は、障がい者にとっては通勤・通学などの外出を支える必需品だが、現役を退いた高齢者にとってはどうか。あれば重宝するが、余生と出費と必需性を秤に掛ければ、本人も家族も二の足を踏むのは仕方ない。それが、高齢者への福祉車両の普及を阻み、ひいては外出の機会、移動の自由を奪う一因でもあると、中川氏は見る。

 「そこでトヨタが打ち出したのが、安くて使いやすい、福祉車両の『普通のクルマ化』というコンセプトです」

介護する人もされる人も
アクティブにするクルマ

サイドリフトアップチルトシート装着車。チルト式の座席が電動で前に傾くので、介助の手がなくても、足を浅く曲げた姿勢から無理なく立ち上がることができる。アームレストの高さも杖を持つ手の位置に合わせてあるのでラク

 足腰の不自由な高齢者のいる家庭にとって使い勝手のいいクルマ。それはすなわち、介護が終わった後も、家族の足としてそのまま普通に使えるクルマである。車いす仕様車に取り付けられたスロープ板の「前倒れ機能」はその象徴だ。

前倒れ機能付きスロープ板。直立したままでは荷物の出し入れが困難

 「車いすに乗ったままバックドアから乗降できるタイプの車両に使うスロープ板ですが、従来はこれを垂直に立てて荷室に格納していました。使うときは手前に倒して引き出せばよく、車いすの乗車中は立てておくので邪魔になりません。

車内前方に倒せば荷物が置けて使いやすくなる

 ところが、車いすを使わないときや使う必要がなくなったとき、この直立型の板が邪魔して後ろからの荷物の出し入れが非常にしづらい。それでは使い勝手が悪いので、車内の前方へ倒して平坦になるよう改良したのです。これならその上に荷物が置けるし、3列目のシートを左右から倒して座ることも可能です」

 つまり「普通のクルマ化」は、周囲で支える人のことも考えたクルマづくりを意味している。例えば、ミニバンなどに装備する「サイドリフトアップチルトシート」。これは2列目の座席が回転し、車外へスライドしながらチルト(前傾)する機能。座面が斜め前にせり出すので立ち上がりの負担が少なく、介助する人への負荷も軽い。シートから立ち上がる人のスペースを含めても車外に必要な幅は55cmだけ。屋根のない場所でも雨に濡れにくく、介助スペースも確保できる。

 「従来型の場合、ドアの外に1.2mほどのスペースが必要でした。車庫にそんな余裕のある家庭は多くありませんし、改築すれば出費も嵩みます。今は外出先でも一般の駐車場に止めて乗り降りできるので、精神的な負担も減りますね。つい最近まで足腰の丈夫だったお年寄りは特に、福祉車両用の駐車場を使うことにも抵抗を感じるものです」

 そうしたユーザー目線による改良の一つひとつが、アクティブシニアの元気と外出の楽しみを増幅させていく。

超高齢社会で実現する
すべての人の移動の自由

 一方で、課題も大きい。介護者の約7割は60歳以上の高齢者で、大半は女性。この層の負担が減らない限り、状況の改善はなかなか進まないと中川氏は言う。

 対策の一つとして開発されたのが、車いすの「ワンタッチ固定仕様」。従来は11もの工程が必要だった車いすの車両乗り入れから固定までの煩雑な手順を解消し、1工程に短縮した。車いすの形状は種々異なるため、現状はトヨタ製「電動ウェルチェア」にのみ対応しているが、将来は各社のクルマと車いすの規格を統一することを計画中。すでに日本自動車工業会がその方向で動き始めている。

車いす仕様車タイプ・(電動ウェルチェア+ワンタッチ固定仕様)。専用車いすでバックドアから乗り入れるだけで、所定の位置で車いすと車内の装置がカチッと噛み合い、固定される。降りるときも、足元の操作だけで解除可能

 「これを路線バスに装備することが私の願い。今、バスが車いすの乗客を乗せて走り出すまでに6分もかかるんです。他の乗客の視線に耐えながらそれを待つ辛さ。少しでも軽減してあげたいのです」

 その路線バス事業者も、社会の変化による問題を抱えており、実に7割が赤字経営で、全国で毎年約1万kmの路線が廃止に追い込まれている事実がある。バスが消えて最も大きな痛手を被るのは、病院や買い物に出る足を奪われた高齢者だ。対策としてミニバンなどで送迎サービスを始める自治体や市民団体が増えているが、そこでボランティアの運転手を務めるのがまた高齢者なのである。

ウェルジョイン(送迎仕様車)。スライドドアに近い2列目の座席が1つ空いているので、後部座席にもすんなり乗り降りできる。秋田県横手市とトヨタによる実証実験で有用性が確認され、「地域の足」として各地で活躍している

 「ならば、その高齢ドライバーの負担を軽くすることはできないか。送迎仕様車の『ウェルジョイン』はそんな思いで開発されました。2列目の座席を1つ減らして手すりを付けたのですが、これだけでも負担はだいぶ減らせます」

 例えば、3列目の乗客が乗り降りするとき、これまでは運転手が先に乗降口に回り込み、2列目の背もたれを前に倒しながら座席をスライドさせていた。これには両手を使うため、雨の日は傘がさせず運転手が濡れてしまう。足腰の弱い高齢の乗客をサポートする役目もあり、自分も高齢の身にこの繰り返しは辛い。だが、座席を減らせば、運転席からドアを開け閉めするだけで、乗客は手すりを頼りに一人で乗り降りすることができる。

 この車両は秋田県横手市と三種町、福井県永平寺町などで採用され、実用に供されている。

 「クルマをつくって売るだけでは駄目です。クルマの使い方も拡げなくては」。トヨタが目指す「すべての人に移動の自由」はそうして体現されていく。