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2020年1月5日

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イラク・バグダッドで米軍の空爆によって死亡したイラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官(62)の遺体が5日早朝、イランに帰還した。イラン国旗に包まれた棺が南西部アフワズの空港に到着する前から、市内には数万人が喪服姿で集まり、胸を叩きながら「アメリカに死を」と繰り返した。

国営イラン・イスラム共和国放送は、空港で飛行機から降ろされる司令官をはじめイラン革命防衛隊5人の棺や、アフワズのモラヴィ広場に集まった黒衣の群衆の様子を放送。コメンテーターは、「見事な群衆が追悼に集まった」と述べた。

イラン学生通信(ISNA)によると、首都テヘランでは議会が開かれ、議員たちが「アメリカに死を」と数分繰り返した。アリ・ラリジャニ議長は、「トランプ、これがイランの国の声だ。聞け」と述べたという。

イランは3日間の喪に服しており、葬列はイランの聖都マシュハドやコムを巡った後、首都テヘランで最高指導者ハメネイ師が最後の祈りを捧げる予定という。

BBCのリーズ・ドゥセット国際報道主任特派員によると、ハメネイ師自らが葬送の祈りを主導するのは異例の厚遇。ハメネイ師はすでに、自分に忠誠を尽くした司令官を死後に中将に昇進させている。

ソレイマニ司令官が中東全域で展開した親イラン派勢力推進の作戦は、ただでさえ制裁で疲弊するイラン経済に大きな負担をかけてきただけに、イランでも司令官を批判する人たちはいた。それだけに、殺害された司令官を殉教者として称え、高い栄誉を与えて弔うことで、イラン政府は国内を一致団結させて不安定な未来に立ち向かおうとしていると、ドゥセット特派員は解説する。

イラン・イラク戦争での戦功でも国内で英雄視されていた司令官は7日、故郷のイラン中部ケルマンに埋葬されるという。

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米大使館近くに砲撃

司令官たちの葬列は4日、イラク・バグダッドやその近郊のイスラム教シーア派にとっての聖地カルバラでも行われ、多数の市民が葬列に加わった。その数時間後には、米大使館など外国公館の並ぶ区域にロケット弾が着弾し、これを受けてドナルド・トランプ米大統領はツイッターで、イランの標的攻撃を警告した。

バグダッドで米大使館や政府機関が集まる「グリーンゾーン」と呼ばれる地域で、米大使館に近くにロケット弾が着弾した。そのほか、バグダッド北で米軍が駐留するバラド空軍基地にも、複数のロケット弾が撃ち込まれた。

イラク当局によると、少なくとも迫撃砲1発がグリーンゾーンの広場に着弾したほか、バグダッド南東部ジャドリア地区でも迫撃砲が爆発した。さらに、2発がバラド空軍基地に着弾したという。

犯行声明は出ていない。イラク国内で米大使館や駐留基地などを標的に相次ぐ砲撃について、米政府は親イラン派武装勢力によるものだとしている。

トランプ氏の警告

ロケット弾の砲撃から間もなくして、ドナルド・トランプ米大統領はツイッターで、「これは警告だ」と大文字で強調しながら、米軍はイラン国内の52カ所の施設を「標的にした」と書いた。

トランプ氏は「もしイラン政府がアメリカ人やアメリカの資産を直撃するなら」、米軍は「非常に素早く、かつ非常に強力に、イランとイランの文化にとってきわめて高レベルで大事な標的、イランそのものを攻撃する」と続け、「アメリカはもうこれ以上の脅しはいらない!」と強調した。

標的の「52」という数は、イラン革命のあった1979年から81年にかけてイランの首都テヘランで続いた米大使館人質事件で人質になったアメリカ人52人の数だと、トランプ氏は説明した。

米政府はすでに、イラク国内のアメリカ人に退去を勧告し、兵3000人以上を中東に増派している。

一方で、ソレイマニ司令官と共に死亡した、アブ・マフディ・アル・ムハンディス副司令官が率いた親イランのイスラム教シーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」は、イラク治安当局に対して、「5日夕方以降、米軍基地の1000キロ以内には近づかないように」と警告したという。レバノンを拠点とするアラビア語放送局アル・マヤディーンが伝えた。

米政府機関サイトをハッキングか

トランプ氏のツイートから間もなく、米政府機関のサイトが「イラン・サイバー・セキュリティー・グループ・ハッカーズ」を名乗る集団にハッキングされた様子。米国連邦政府寄託図書館制度(FDLP)のサイトには、「これはイラン・イスラム共和国からのメッセージだ」という文字が表示された。

「神の名において」、「これはイランのサイバー能力のごく一部に過ぎない! 我々はイランのハッカーだ」という文字のほか、「強力な復讐」という文字も表示された。

サイトには、顔を殴られ口元から流血しているように加工されたトランプ大統領の写真も掲示された。

「我々は地域の友人たちの支援をやめない。パレスチナの抑圧された人々、イエメンの抑圧された人々、シリアの人々と政府、イラクの人々と政府、バーレーンの抑圧されt亜人々、レバノンとパレスチナで抵抗する真のムジャヒディン(イスラム戦士)を。我々はいつでも支援する」という文字もあった。

「復讐を果たす」とイラン

最高指導者アリ・ハメネイ師に次ぐ実力者とされたソレイマニ司令官を殺害されたイランは、ハメネイ師が「厳しい復讐」を誓うなど、米政府に強く反発している。イラン革命防衛隊幹部のゴラマリ・アブハムゼ将軍は、ペルシャ湾にいる米軍艦を攻撃する可能性を示唆した。

4日にはハッサン・ロウハニ大統領が弔問のため、司令官の遺族をテヘランの自宅に訪ね、「アメリカの汚い手がこの地域から永遠に切り落とされたる時、(ソレイマニ司令官の)血の復讐を果たす」と述べた。

イランのマジド・タクト・ラヴァンチ国連大使は国連安全保障理事会への手紙で、イランは国際法のもとで自衛権を有すると主張した。

専門家は、イランはアメリカに対するサイバー攻撃や、中東における米軍施設や資産を標的に、報復する可能性があると指摘している。

イラクでの葬列

ソレイマニ司令官やムハンディス副司令官たちの棺は4日、バグダッド市内や、カルバラ、ナジャフといったイスラム教シーア派の聖都の市街地を移動した。

イラクや親イラン武装勢力の旗を振り、「アメリカに死を!」と口々に叫ぶ人たちに囲まれながら、葬列はバグダッドではアル・ムタナ空港からグリーンゾーンの入り口前などをめぐった。

その一方で、バグダッドでは一部の市民がソレイマニ司令官の殺害を公然と祝った。バグダッドでは数カ月前から、平和的な民主化要求デモに対する厳しい取り締まりが続き、ソレイマニ司令官がその責任者だとみられていた。

イラクの立場は

イランは隣国イラクで様々なシーア派武装勢力を後押ししている。ソレイマニ司令官が殺害された際も、まさにそうした武装勢力の幹部と一緒だった。

その一方でイラクは、アメリカとも同盟関係にある。イスラム教スンニ派の過激派勢力「イスラム国(IS)」との戦いを支援するため、数千人の米軍が今もイラク駐留を続けている。しかし、イラク政府はソレイマニ司令官の殺害について、アメリカの行為は両国間の合意を逸脱したものだと批判している。

イラクのアデル・アブドルマハディ首相は、米軍が首都バグダッドでソレイマニ司令官を殺害したことに反発し、「イラクの主権を傲慢に侵害し、国の尊厳をあからさまに攻撃した」と非難した。

イラクの議会は5日、国内に駐留する米軍などの退去を求める決議を採択した。

米政府内の手続きは

ホワイトハウスは4日になって、3日のドローン攻撃について連邦議会に正式の通達を送付した。これは、行政府が目下もしくは切迫した軍事行動に米軍を投入した場合48時間以内に連邦議会に通達しなくてはならないという、1973年の連邦法に沿った対応。

政府がどのような権限によってバグダッドでの空爆を命じたのか、軍事行動の内容と継続期間などを明確にするためのも通達だが、内容は機密扱いで非公開だ。

野党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、「政権がイランに対する武力行動の実施を決定したタイミングとやり方、そしてその正当性について、深刻で喫緊な疑問が出てくる」と述べた。

トランプ米大統領は3日、「合衆国の軍は、世界随一のテロリスト、カセム・ソレイマニを殺害した空爆を完璧な精度で実行した」と宣言し、「ソレイマニはアメリカの外交官や軍関係者に対する邪悪な攻撃を間もなく実施しようとしていた。しかし我々は、現行犯でそれを押さえ、あの男を終了させた」と表明した。

しかし、ソレイマニ司令官がアメリカに対してどのような攻撃を計画していたのか、トランプ氏も政権関係者も明らかにしていない。

これについて、米紙ニューヨーク・タイムズの記者はツイッターで、「ソレイマニ空爆後に諜報内容の説明を受けた2人の匿名米政府関係者を含む消息筋の話」として、「アメリカの標的に対する攻撃が急迫していたと示唆する証拠は『かみそりの刃ほど薄い』ということだ」と書いている。

https://twitter.com/rcallimachi/status/1213421769777909761


各国の反応は

中国の王毅外相はイランのジャヴァド・ザリフ外相に対して、アメリカがソレイマニ司令官を殺害したのは軍事力の乱用だと伝えた。

ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相もザリフ外相に電話で、アメリカの行動は国際法の規範をひどく侵害するものだと伝えたという。

一方で、イギリスのベン・ウォレス国防相は、すべての当事者に「状況を緩和」するよう呼びかける声明を発表。その中で、「国際法のもと、アメリカは自国民への切迫した脅威となる者に対して自衛する権利がある」と表明した。国防相はさらに、世界の石油の2割が通過するホルムズ海峡で、英海軍艦2隻が英船舶の護衛を再開すると明らかにした。


<解説>ジョナサン・マーカスBBC防衛担当編集委員

コッズ部隊の司令官を殺害されたイランがすでに厳しい報復を警告するなか、トランプ大統領は明らかに、事態収束への最善の方法は自分から先に相手を強力に威圧することだと判断したようだ。イラン政府が言うような行動を実際にとれば、いったいどういう事態が待ち受けるのか、脅しを強めることで相手を引き下がらせようとしているようだ。

トランプ氏のツイートは色々な意味で奇妙だ。1979年11月にテヘランの米大使館で人質になった52人を意味する、「52」という数字の象徴的な使い方からしても。

「イラン文化」にとって重要な標的という言い方は、国の首脳部や軍関係・経済関係の標的にとどまらないものを意味しているようだ。

トランプ大統領はなんらかの抑止効果を狙っているようだ。しかし、今やボールはイラン側のコートにあり、イランが動く番だ。イラン政府が何もしないでいられるとは、非常に考えにくい。

トランプ氏はイランとの核合意から一方的に離脱してからというもの、矛盾する政策を追求してきた。経済的な圧力を高め、軍事行動をとると脅しながらも、実際にはほとんど何もしてこなかった。イランがアメリカの高性能ドローンを撃墜したときや、サウジアラビアの主要石油施設を攻撃したときでさえ、トランプ政権は具体的に対応しなかった。

何よりトランプ氏は再三、自分も米政府も中東地域での軍事介入にへきえきとしているのだと強調してきた。政権のこの消極姿勢こそが、中東におけるアメリカの抑止力を何より後退させてきた。トランプ氏はそれを遅ればせながら、修復しようとしているようだ。


(英語記事 Qasem Soleimani: Blasts hit Baghdad area as Iraqis mourn Iranian general / US 'targeting' 52 Iranian sites if Tehran attacks / Mourners flood the streets as body returns to Iran

提供元:https://www.bbc.com/japanese/50996806

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