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2020年1月5日

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ジェレミー・ボウエン、BBC中東編集長

カセム・ソレイマニ司令官の暗殺によって、イランとアメリカの関係は、1979年に始まった米大使館人質事件以来の深刻な対立状態に陥った(文中敬称略)。

ソレイマニ殺害というドナルド・トランプ米大統領の決定によって、アメリカは自分たちにとって最も厄介だった敵の1人を取り除き、イラン・イスラム共和国の中枢に打撃を与えた。同時にこの攻撃は、ただでさえ緊迫して暴力がはびこる中東の情勢を悪化させる、危険なものだ。

バグダッド空港での殺害によって、両国は全面戦争へなだれ込むのではという懸念が浮上した。全面戦争になると決まったわけではない。アメリカもイランも、戦争は望んでいない。しかし、ソレイマニ司令官と、親イラン派イラク武装勢力幹部の殺害によって、わずかな計算違いさえもが致命的になりかねない危険が高まった。

イランは復讐を誓った。その危険は深刻に受け止めなくてはならない。ソレイマニはイラン政権の中枢にいたし、イランの強硬派にとっては頼みの綱のような存在だった。イラン強硬派は相応の仕返しを求めるはずだ。もしかすると、相応以上の仕返しを。

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代理勢力

武器禁輸制裁を受けながらも、イランはロケット砲やミサイルなど最新式の軍備を備えてきた。しかし、米軍相手にそれを使って報復しようとすれば、イランは自分たちの立場を悪化させかねない。

アメリカによる戦争行為への報復として、たとえばペルシャ湾で米艦船を攻撃するなどの戦争行為に出れば、イランは壊滅的な反撃をアメリカから受ける危険がある。イランの石油精製所は湾岸地域にあり、アメリカが湾岸周辺に展開する強大な攻撃力のかっこうの標的になる。

イランの報復は、ソレイマニ自身が得意とした間接的戦術に従うことになりそうだ。いわゆる非対称的な戦闘。相手の正面玄関から攻撃するのではなく、横の窓から仕掛けるというやり方だ。

ソレイマニは多彩な民兵組織を揃え、潤沢な武器を提供した。アメリカと真正面から正攻法で戦えばイランは負けるしかないが、民兵組織を駆使することで、正面衝突に至らないまでも様々な選択肢が可能になる。

アメリカは今後、中東に展開する米軍部隊のどれが今、最も攻撃されやすい脆弱(ぜいじゃく)な状態にあるか点検するだろう。そのひとつは、シリアにいる小規模な部隊だ。

計算されたリスク

米政府はなぜ今、このタイミングでソレイマニを殺すことにしたのか。これは大きな疑問だ。

少なく見積もってもアメリカが2003年にイラクに侵攻してからというもの、ソレイマニはアメリカに脇に刺さった厄介なとげのような存在だった。イラクのイスラム教シーア派を支援し、訓練し、武装し、熟練した民兵組織が生まれるように手を施したのが、ソレイマニだった。そうやって組織された武装勢力は、アメリカとその同盟諸国に立ちはだかる、強力で容赦のない対抗勢力になった。

アメリカとイスラエル、そして西側諸国はもう何年も前から、ソレイマニの動向を注視してきた。以前にも攻撃対象になったこともあるだろう。

米軍が今度こそひきがねを引いたのは、プラスがリスクを上回るとトランプ大統領が判断したからかもしれない。国際社会からの孤立や経済制裁、そして国内で最近相次ぐデモによってイラン政府は弱体化している、よってソレイマニ殺害にイランが激高しても深刻な戦略的脅威にはならないと計算した可能性もある。

しかし、今回の暗殺が果たしてアメリカの首尾一貫した戦略の中にあてはまるのか、まったくはっきりしない。それだけに、トランプ政権の意図を決め付けるのは危険だし、間違っていることもあり得る。

ソレイマニはイラン国内では巨大な存在だった。イランの戦略を取り仕切る立役者だった。自分が殺された場合にはどうすべすという、対応を指示してあったかもしれない。

新年早々、新しい10年代の冒頭に起きたこの暗殺は、中東で新しい一里塚になり得る。これを機にまたしても、中東で流血沙汰が相次ぐ事態になりかねない。

イラン政府は今、ソレイマニ亡き後の対応を検討しているに違いない。国境を越えた中東全域でソレイマニが長年かけて築いてきた自分たちの地位は、今後も維持できるのだと、イランはまず示さなくてはならない。

(英語記事 Qasem Soleimani death: The response options open to Iran

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-50998170

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