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2020年1月14日

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アニセ・バッシリ・タブリジ博士、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)

ウクライナ国際航空機の墜落原因について何日も否定した後、イラン政府はついに人的ミスが原因だと認めた。

8日の墜落は、イランがイラク国内の米軍駐屯地に弾道ミサイルを相次いで発射した後に起きた。米軍施設攻撃は、イラン革命防衛隊幹部のカセム・ソレイマニ司令官殺害に対する報復だった。

イランによると、一触即発のこの緊迫状態のなか、防空システムの担当者がウクライナ航空PS752便を巡航ミサイルと勘違いして撃墜してしまったという。乗客乗員176人全員が死亡した。

イラン政府は当初、責任を否定した。しかし、アメリカやカナダの情報機関は間もなく、イランの地対空ミサイルが墜落の原因だという証拠を割り出した。これを機に、原因調査の進捗を公表するよう求める圧力が国際的に高まった。

当初の発表を訂正し、墜落について全面的に責任を認めたイラン政府の決定は、犠牲者が出たカナダ、イギリス、ドイツ、スウェーデンの各国政府を含め、国際社会から前向きに受け止められた。

イランが責任を認めたことは好ましい第一歩だと、最終的に解釈された。

しかし、カナダなど自国民が死亡した各国政府の関係者は、責任を認めた次にイランは建設的な行動をとるべきだと釘を刺した。これにはたとえば、原因調査過程の公表、遺体の送還、被害者への補償、確かな再発防止策の導入などが含まれる。

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イランにとって対外的には、ウクライナ航空機の撃墜が事態の悪化につながる可能性は少なく、むしろ過去数カ月間の緊迫する状態を和らげる機会を提供するかもしれない。

しかし、この悲劇は国内的には、もっと深い余波を引き起こすかもしれない。

PS752便が墜落するほんの数日前、イラン国内はソレイマニ将軍の殺害を悲しむ何百万人もの市民が国内各地で葬列に参加。国民が異例なほどまとまり、団結していた。

この光景は、国外からの武力衝突の脅威を前にすれば、政治経済的に様々な立場のイラン国民も違いをいったん横において一致団結できるのだという、その可能性を示すものかと思われた。

しかし、PS752機の撃墜と、当局が当初は責任を否定したことから、国内の対立があらためて浮上し、以前より先鋭化する可能性もある。

責任を認めたことでこの大失態に対する国民の批判は多少は緩和するかもしれない。しかし、事実を明らかにせよと国際社会の圧力が高まるまで、政府や国内主流派は証拠を隠し責任を回避しようとしたではないかという見方は残るかもしれない。

この不信感によって、昨年11月に政府が石油価格の大幅な引き上げを承認したのを機に国内で相次いだ対立や世情不安が、あらためて再燃するだろう。石油価格値上げをきっかけにした国内デモと、それに対する政府の強硬姿勢により、少なくとも市民300人が死亡している。

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真実を認めることは重要な第一歩だが、イラン国民は今回の事態の責任者を明確にし、訴追するよう強く求めるだろう。

国民はさらに、イランのエリートが墜落犠牲者をどう扱うのか注目するはずだ。墜落で死亡した人たちの葬儀が、ソレイマニ将軍の時と似たような国民的な追悼につながるのか、それともほとんど無視されるのかは、大きな試金石となる。


以前から続く経済への不満や、一部の社会的自由が制限されていることへの不満に加えて、ウクライナ機撃墜に関するこうした要求を、市民は政府につきつけるだろう。

イランでは2月21日に国会議員選挙が予定されている。旅客機撃墜による国内対立は一層の世情不安を呼ぶ可能性もある。加えて、欧米との緊迫は緩和はしたものの、決して終わっていはいない。

旅客機墜落から波及するさまざまな問題を政府と国内主流派がどう扱うか。これはイランにとって分岐点になり得る。イランが何をどう選択するかは、今後数カ月、あるいは数年間にわたり、イランの政治と社会に響き渡るだろう。

(英語記事 Iran plane crash: Why this could be a watershed moment

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51101996

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