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2020年3月17日

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イギリスのボリス・ジョンソン首相は16日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)の対策を発表した。「不要不急」の移動や他者との接触を避け、自宅で仕事をするよう呼びかけている。

ジョンソン首相は会見で、妊娠中の女性や70歳以上の高齢者、既往症のある人などに対し、政府の新方針を「特に重視」するよう求めた。政府は新方針で、こうした感染リスクの高い人は向こう12週間は自宅にとどまるべきと指示した。

イギリスでは現在、COVID-19による死者が55人に上った。

これまでに1500人以上から新型ウイルスの陽性反応が出たが、実際の感染者は3万5000~5万人に上るとみられている。

イギリス政府の新方針の骨子は以下の通り――。

  • 集会に加え、パブやクラブ、劇場といった混雑する場所を避ける
  • 可能な人は全員、在宅勤務にする
  • 介護施設に住む家族や友人への「不要不急」な訪問は控える
  • 国民保健サービス(NHS)の医療施設は「本当に必要な場合」だけ利用する。NHSのウェブサイトから情報を得て、医療従事者の負担を減らす
  • 来週末までに、健康状態が最も深刻な人たちは「約12週間は他人との接触を避ける」態勢に入る
  • 欧州で最も新型ウイルスの被害の大きいイタリアに比べ、イギリスは「3週間遅れている」状態にある
  • 同じ家に住む誰かに断続的なせきや熱の症状がある場合、同居者全員が14日間、家にとどまる
  • 自主隔離が必要な人は可能ならば、「食料や日用品の購入」でも外出を控える。しかし「運動をするためなら外出してもいいが、他者と十分な距離を取ること」
  • 学校は現時点では閉鎖しない

またイングランド主任医務官のクリス・ウィッティー教授によると、「社会的な接触を最小限に抑える必要が特にある」人は以下の通り――。

  • 70歳以上の高齢者
  • 既往症などで、インフルエンザのワクチン接種を勧められている人
  • 妊娠中の女性

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ジョンソン首相は、感染者が「右肩上がりの曲線で急速に」増えている状況のため、「急進的な対策」が必要だと話した。またロンドンで特に感染者が増えていることから、ロンドン市民に対し特に政府の方針に耳を傾けるよう呼びかけた。

マット・ハンコック保健相は議会下院で、「我々は目に見えない殺人者と戦争している」と述べ、19日にも新型ウイルス対策に関する緊急法案を提出すると話した。

政府の首席科学顧問、サー・パトリック・ヴァランスは、今後は学校閉鎖などの追加措置も必要になるかもしれないと述べた。

また、イギリスは現在、イタリアから「3週間遅れた」状態にあるとの見解を示した。

中国以外ではこれまでにイタリアで最大の被害が出ている。すでに2万件以上の感染が確認され、死者は1800人超となった。

サー・パトリックは、「イギリスは急激な(感染)拡大の一途にあり、イタリアと同じ状況に近付きつつある。今回の対策を早急に行う必要があるのはそのためだ」と説明した。

一方でウィッティー教授は、新型ウイルスに感染して死亡する可能性は「非常に低い」と付け加えた。

イギリスで死亡した人の大半は、基礎疾患のある60代以上だった。

ウィッティー教授はまた、自主隔離などの制限は「続けるのが非常に難しいはずだ」とした上で、「NHSが崩壊しないためには必要だ」と強調した。

各種業界は「混乱と不透明感」に怒り

政府方針を受けて、ロンドンのナショナル・シアターやロイヤル・オペラ・ハウスなどイギリス各地の劇場は、16日以降閉鎖すると発表。

公演のチケットを持っていた人は払い戻しが受けられる。ただし、イギリスでは多くの劇場が献金や政府助成で成り立つ非営利事業のため、そうした劇場は顧客に、払い戻しを求めるより、代金の寄付を呼びかけている。

イギリスのビール・パブ協会も、新型ウイルスの影響は「甚大」だと懸念を表明している。

同協会のエマ・マクラーキン会長は、「政府はこの業界と何十万人もの雇用を救うための支援策について、明確で詳細な説明をするべきだ」と話した。

ジョンソン首相が「パブやクラブ、劇場などを避ける」よう市民に呼びかけながら、実際に閉鎖を命令しなかったことで、劇場や店舗は休業補償など資金援助が受けられないと、関係者からは強い怒りの声が上がっている。

また、サッカーのナショナル・リーグやプレミアシップ・ラグビーなどの試合が延期されているほか、競馬やボートレースなどは中止に追い込まれた。

教育現場からも、多くの学校職員が自主隔離を始めてるにもかかわらず、学校を閉鎖できない状況に不満の声が上がっている。

検査は「範囲を広げる」方針

イギリスではこれまでに4万4000人以上が新型ウイルスの検査を受けている。

現在、軽症で自主隔離している人は検査の対象になっていない。政府は現在、呼吸器疾患のある入院患者や、アウトブレイク(大流行)のあった介護施設などで優先的に検査を行っている。

しかし世界保健機関(WHO)は16日、検査が不十分だとの見解を示した。

テドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、「全ての国に伝えたいメッセージはシンプルだ。検査、検査、検査」と話し、120カ国に150万個近くの検査キットを送ったと付け加えた。

ウィッティー教授はイギリスの検査体制を擁護する反面、「検査の範囲を広げる方針だ」と語った。

ウィッティー教授によると、検査では対象者が今現在、感染しているかどうかだけが分かるという。一方で、対象者が過去に新型ウイルスに感染していたかどうかが分かる検査があれば「変革」になると話した。

その上で、イングランド公衆衛生庁が「早急に」こうした検査を開発していると述べた。


<解説> このままでは「壊滅的な大流行」と科学モデルが――ジェイムズ・ギャラガーBBC健康科学担当編集委員

なぜ英政府は、対策を強化したのか。

政府が使っている科学モデルが、このままでは「壊滅的な大流行」に突き進んでいると示したからだ。

政府がこれまで実施していた、ウイルスの拡大を食い止めるのではなく、そのペースを遅らせるだけという戦略では、国内の集中治療室がパンクしたはずだ。

インペリアル・コレッジ・ロンドンによる数理モデルは、特にイタリアの経験を参考にしており、これが政府中枢の決定に大きく影響してきた。

その計算によると、このままいけばイギリスでは26万人が死亡すると予測されていた。

政府の新指針はそれを防ぎ、代わりに感染症例をごくごく少なく抑えようとするためのものだ。実現すれば、新型ウイルスによる死者は数千人から数万人に抑えられるという予測だ。

しかし、このアプローチには大きな問題がある。出口戦略がないのだ。

感染者を増やすことで社会全体が免疫をつけるというのが従来の発想だったが、それがなければ、行動制限措置が解除されたとたん、また感染者は急増する。

政府指針は、ワクチンが開発されるまで、行動制限を続ける必要があるかもしれないと指摘した。ワクチン開発までには1年半かかる可能性もある。

先は長い。その覚悟が必要だ。

(英語記事 Avoid office, pubs and travel to stop virus - PM


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提供元:https://www.bbc.com/japanese/51921523

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