2020年8月4日(火)

棋士・藤井聡太の将棋トレーニング(ゲームスタジオ)

2020年4月6日

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いったい、この人の発想力はどこからくるのか――。そんな印象を抱く人物が、世の中にはしばしば登場する。現役最年少プロ棋士の藤井聡太七段もその一人だろう。まったくの初心者であっても藤井七段の指導のもと、将棋がぐんぐん楽しくなる――。そんな画期的な将棋ゲームソフト『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』が2020年3月にNintendo Switch用として登場した。開発をめぐるエピソードを制作・発売元の株式会社ゲームスタジオに聞いた。

こだわったのは“人間らしいミスをする弱いAI”

 
株式会社ゲームスタジオ代表取締役社長 福田尚弘氏

 世の中にあまた存在する将棋ゲーム。いま、あえて新たなソフトを提供することにどんな意義や勝算があるのか。『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』を制作・発売する株式会社ゲームスタジオの代表取締役社長、福田尚弘氏は「AIの強さを全面に押し出した対戦ものばかりで、初心者向けと謳いながらも敷居が高いゲームがほとんど」と将棋ゲームソフトの市場を分析する。「野球に例えるとバットとボールを使いますといったレベル感で、将棋のルールをやさしく解説しています。興味さえあれば、好きになってもらえるはずです」と福田氏は断言する。

開発ディレクター 栗田優輔氏(株式会社ネストピ取締役)

 『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』は、従来の将棋ソフトと真逆の発想に立っているのが特徴だ。こだわったのは“人間らしいミスをする弱いAI”。「終盤の詰むや詰まざるやという勝負が決まる局面では、従来のAIは絶対に判断を誤りません。これでは初心者は楽しめない。逆にランダムなプログラムも意図のない不自然な手になり白けてしまいます。最後まで粘り強く指せば、逆転勝ちできるかもしれない。そんな対局になるよう、徹底的にチューニングを繰り返しました」。開発チームのディレクターとして制作を指揮した株式会社ネストピの取締役、栗田優輔氏は、こう表現する。

「藤井くんが私に物言いしてきましたね」

 
 

 あえて、過剰にヒントを出さないこともこだわった。ミスから学ぶことが上達への近道だとの考えだ。その分、対局が終わった後に見直す“棋譜検討”の機能はかなり充実している。そこで登場するのが藤井聡太七段だ。「ここは悩ましい手でしたね」「じっくり考えてみるべきでした」といったコメントを写真や音声付きで伝えている。もちろん、すべて本人の監修によるものだ。「ご本人のパーソナリティを最大限生かし、言葉の使い方やしゃべり方にもかなり気を配りました。藤井七段の師匠である杉本昌隆八段も、将棋の専門誌で、こういったしゃべり方をしているよねと紹介しているほどです」(栗田氏)

 

 「やさしい本格派」とのキャッチコピーを付けたように、“やさしい”と“本格派”を両立させている点も特徴だ。対戦モードでは、使える駒や持ち時間などをそれぞれに設定できる変則対局で棋力のハンデを補える。ゲーム中に対局を戻したり進めたりすることもできるため、例えば祖父と孫が会話をしながらハードルを落として将棋を楽しむのも容易だ。「中級者になれば、人との対局はぐんとおもしろさを増します。それまでの上達を後押しするのに、ソフト内に書店を用意して棋書と呼ばれる問題集を手に入れることができます。成長に不可欠な一連の成長プロセスを体験できる機能が備わっているのです」(栗田氏)

 “観る将”と呼ばれるプロの対戦をじっくり評価する将棋ファンにとっても使い勝手がある。さきほどの棋譜検討はマニュアルでの入力ができるため、戦術を分析するツールとしても活用できる。杉本昌隆八段も自身の対局を入力し、「藤井くんが私に物言いしてきましたね」と語ったほどだ。

盤の材質から駒の書体まで思いのままにカスタマイズが可能、組み合わせは何と8,700万通り以上! 写真を拡大

作り手として評価される会社を目指したい

 

 『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』は、足掛け2年をかけて開発した一作だ。いままでにない将棋ソフトを作りたいという思いで試行錯誤を重ねてきた。「タイトルだけでも100以上のアイデアを出しました」(福田氏)。初心者に力点を置く上で是が非でも実現したかったのが、ガイド役としての藤井七段の起用だ。企画意図を日本将棋連盟に伝え、相談を重ねることで、「日本将棋連盟公認」による藤井七段からの協力を得ることができた。

 「ゲーム作りが本当に好きな人間の集まり」と自社を語る福田氏。株式会社ゲームスタジオは社員数200名ほどで、ゲーム業界では制作に特化する会社として大手だ。ただし、パブリッシャーと呼ばれるゲーム販売会社と比べ、開発に携わるディベロッパーは世間の認知は低い。「作り手として評価される会社を目指したい」という思いが、『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』の制作を突き動かした。このゲームは同社がパブリッシャー役も担う異例のソフトだ。

 

 アーケードゲームのヒット作『ゼビウス』等を開発した伝説のクリエイター、遠藤雅伸氏(現相談役)が独立して1985年に数名で立ち上げたのが同社の原点。携帯電話用ゲームアプリの台頭で外部からの出資を受けて2004年に株式会社モバイル&ゲームスタジオ(当時。現在の株式会社ゲームスタジオ)が設立された。家庭用ゲーム機向けのコンシューマーゲームやスマートフォン向けのゲームで数多くの実績を重ねている。いまも常時、10本から12本の開発が進んでいる状態だ。

熾烈な開発競争で世に出ないゲームも多い

 

 ゲーム業界における制作は映画のそれと似ているとの声は多い。映画で言う配給元が先ほどのパブリッシャーだ。パブリッシャーからの漠とした構想をかたちにするのがゲームスタジオのようなディベロッパーとなる。企画意図に合わせて、適切な監督(ディレクター)を選任し、プログラミングやグラフィック、サウンドなどの職種からプロジェクトチームを立ち上げる。「外部の方々と連携していくだけの信用力も大切な要素です」(福田氏)。株式会社ゲームスタジオにおいても、社員数以上の外部スタッフとの協業が制作の基本だ。

 スマートフォン向けのゲーム市場が1兆円規模に拡大する中で、悩ましいのはスマホ本体のスペック向上だ。いまや家庭用ゲーム機の性能に迫ろうかという機種まで出てきて、開発競争も熾烈になってきた。開発費は高騰し、数年の期間をかけてもリリースに至らないケースも多いという。クリエイターにとってもプロジェクトの頓挫は心理的に辛い。だからこそ「弊社が携わったタイトルをできる限り世に出せるよう最善を尽くすのがトップの役割」だと福田氏は語る。

 現在も藤井七段はゲームの監修を続けていて、開発チームは藤井七段からのフィードバックを受けて現在進行形でブラッシュアップしていくとのこと。今後の反響次第ではオンライン対局の追加も前向きに考えたいそうだ。ゲームにこだわりぬいたプロ集団が描いた将棋ゲームの進化系に注目したい。