2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2020年4月25日

 今回は、シングルマザーとして仕事をする女性に取材を試みた。田中真弓さん(43歳)は2011年から、シングルマザーとなった。同年の秋、35歳の時に同年齢の夫を亡くした。突然死だった。30歳での結婚以来、専業主婦だったが、急きょ、働かざるを得なくなった。3歳と生まれたばかりの2人の子どもを養うための収入を得ないといけない。独身の頃に会社員の経験はあったが、転職を繰り返した。特別のスキルや資格は持っていなかった。

 公的な機関やシングルマザーの支援団体(はあと飯田橋)の相談員である女性から助言を受けながら、働き始めた。興味本位で私生活のことを聞いてくる人がいる一方で、夫が亡くなる前と同じように接してくる友人たちがいた。このような支えの積みかさねで、しだいに苦しみから抜け出すことができた。産業カウンセラーの資格も取った。その頃に出逢い、強い衝撃を受け、敬意のまなざしで見るのが、一般社団法人日本シングルマザー支援協会(横浜市)代表理事の江成道子さんや副代表理事の山木三千代さんだ。

 同協会はシングルマザーの支援をする団体で、2013年に設立された。主に「お金(収入)を稼ぐ力を養う」「共感しあえるコミュニティ」「再婚という幸せ」の3つを実現することに重きを置く活動をする。現在、会員は約6000人。神奈川や都内を中心とした首都圏を始め、関西圏など地方に及ぶ。

 離別(離婚)や死別で夫と別れ、ひとりで生きる、いわゆるシングルマザーが大半を占める。様ざまな業界の会社や団体で正社員、非正規社員(パートや派遣、契約社員)として働く人が多い。生活保護を受けていたが、経済的な自立をするために働く会員もいる。他に、離婚を現時点で考えているシングルマザー予備軍もいる。

 田中さんは育児をしながら、2018年から同協会で業務委託の立場で働く。主に会の運営などに関する契約書業務を始めとした事務に関わる。

(gustavofrazao/gettyimages)

悲しみ続ける自分の未来を想像すると、怖くなってきた

 夫がいなくなってから一時期は、苦しかったです。毎日、屍のように、布団の上で泣いていました。まだ苦しみの中にいた数年前に、今回の取材の依頼を受けていたら話すことはできなかったのかもしれません。夫と妻である私はある部分では一緒ですが、別の人生を生きているのだと思えるようになるのには相当な時間が必要でした。

 あの頃、インターネットのSNSを見ては同じ立場の人のことを知ろうとしましたが、そこに長くはいたくなかったのです。たまたま、見つけたそのSNSだけなのでしょうが、身の不幸を嘆き、悲しんでいる人が多いように見えました。このまま悲しみ続ける自分の未来を想像すると、怖くなってきたのです。

 苦しみから抜け出したい一心で、役所やシングルマザーに詳しい団体を訪ねました。死別で夫を亡くしている方が相談員をしていて、ずいぶんと支えていただきました。この方との出会いが、とても大きかったと思います。その後、出会う日本シングルマザー支援協会の代表、副代表と同じく、大変に立派な方でした。

 相談員の女性は、一家の大黒柱だった夫の代わりにすぐに働かないといけないと焦る私に助言をしてくださったのです。「社会復帰のステップは、少しずつ踏んでいけばいいの。まずはとりあえず、しばらく休んで心身を回復させたほうがいいですよ」。当時、就職活動をしようと必死に採用試験の受験を繰り返していたのですが、次々と落ちました。きっと空回りをしていたのだと思います。

 相談員のこの言葉で、ずいぶんと救われました。日本シングルマザー支援協会で働くようになる2018年までずっと支えていただきました。助言を受けてまず、私はハローワークで職業訓練を受けるようにしたのです。毎日、同じ時間に同じ場所へ通うことで、社会に関わるところから始めました。その後、就職活動に再挑戦をしました。

 就職の面接時や入社後に周囲の方から「かわいそうな人」といった目で見られるのは、とても辛かったです。私生活について興味本位で聞いてくる人もいました。こちらが答えると「ごめんなさい」と言って、その場を取り繕おうとするのです。私には、その意味するものがわかりませんでした。辛かったですね。そんなに不幸なのか…と思うこともありました。

 死は、誰にでも訪れるものです。その時期が早いか、遅いかの違いでしょう。34歳で夫を亡くした私は特別に「かわいそうな人」ではないように思うのです。「かわいそうな人」と上から目線でとらえ、自分のことを「普通の人」とランクづけ、安心しているような方もいました。本気で私のことを思い、聞いてくるのか、それとも興味本位であるのか、敏感になりました。

 あの頃を振り返り、あえて意味づけをすれば私は確かに「不幸」ですよ。普通に…。でも、特別扱いは、逆に失礼ではないかと思います。一方で、以前と変わらず、同じように接してくれる友人、知人がいました。たとえば、幼馴染の友達やママ友ですね。すごくうれしかったし、感謝しました。

 たとえば、経営者が私を雇う際に「死別でも、離別でも構わないから、うちで働く以上、仕事で返してくださいね」と言うのは、普通の考えだと私は思います。それで、いい仕事をした時に評価を受けると立ち直ることができます。「かわいそう、かわいそう」と見られるよりは、職場で役立つ存在になるほうが、私の満足度も上がり、会社に貢献できるようになると思います。


新着記事

»もっと見る