2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2020年6月29日

 早くも「衰虎」の予感が漂う。阪神タイガースが28日の横浜DeNAベイスターズ戦(横浜)で1―9と大敗した。初回から幸先よく先制したが、その裏にあっさりと逆転されるとゼロ行進。打線は5安打1得点で投手陣も打撃投手のように打ち込まれ、見るも無残なスコアに終わった。

(Chayapoll Tummakorn/gettyimages)

 29日現在で借金は「5」。開幕戦終了後から最下位を脱せず定位置になっている。まだ開幕9試合を終えたばかりでシーズンは始まったばかりとはいえ、スタートダッシュどころか早々から大失速したことは誰の目にも明らかだ。開幕から3カード連続の負け越しで最下位に沈んだ吉田義男監督時代以来、22年ぶりの屈辱となった不吉なデータも不安を掻き立てている。

 しかも浮上の兆しはまったく見えて来ない。開幕からここまでの試合内容に関して言えば、個人的には余りにもお粗末過ぎると感じている。おそらく、相当に寛大なファンの人以外は異論などあるまい。それを如実に物語っているのは、惨憺たるチーム成績だ。29日現在で打率2割4厘、防御率5・42、19得点、52失点。何と4部門すべてにおいて12球団最下位に沈んでおり、目を疑いたくなるような体たらくである。

 特に打線は酷い。筆頭は新外国人選手のジャスティン・ボーア内野手だろう。開幕前までは阪神の伝説的助っ人、あのランディ・バースの再来とまで持ち上げられるほどの期待を受けていたが、いざフタを開けてみるとバットから快音がピタリと止んでしまった。

 開幕2戦目で4番失格の烙印を押され、以降は6番へ降格。開幕から18打席連続の無安打は球団新助っ人のワースト記録だ。この不名誉な記録保持者が奇しくも後に開花したバースだったことから「〝レジェンド越え〟で上昇カーブに乗っていく」とこじつけのような見方もあったとはいえ、現状で大打者となる兆しは見えてこない。

 MLB時代から苦手と言われている対左腕はここまで26打席無安打と相変わらずの低調ぶり。29日現在で打率1割7分9厘、1打点、何より本塁打ゼロでは推定年俸250万ドルの大金をつぎ込んだ阪神の目がまた節穴だったのかと疑いたくもなってくる。

 もう1人、新大砲との触れ込みで推定年俸110万ドルを費やして獲得したジェリー・サンズ外野手も現段階では極めて怪しい。開幕前の不振で降格していた二軍からテコ入れで呼び戻され、昇格直後の27日に9回二死からチーム2勝目を呼び込む逆転3ラン。しかし見せ場はたったのこれだけで2戦連続のスタメンとなった28日の試合は4打数無安打と大ブレーキになった。9打数のうち、1安打が起死回生の一発のみという結果だけでは不安を拭えるわけがない。その逆転3ランについても「単なるラッキーパンチ」との見解が有識者の間でも大勢を占めている。

 直近となる開幕9戦目の28日は前日に続き、このサンズが6番、ボーアは5番に座ってスタメンに名を連ねた。この2人に打線の中核を担わせざるを得ないところにも阪神の苦しさがうかがえる。開幕から主に二遊間を組む糸原健斗、木浪聖也の両内野手や中堅の定位置を確保する近本光司外野手は打撃も当然ながらセールスポイント。だが、なかなか打棒は本来の調子を取り戻しきれない。中でも開幕当初は2番だったものの3戦目からリードオフマンを任され、打率1割1分4厘(29日現在)と低迷する〝虎の安打製造機〟近本の不振は深刻だ。

 このように早々から打順を入れ替え、それでも奏功しない矢野燿大監督のベンチワークにも阪神OBを中心に批判が向けられ始めている。ただ、指揮官も胸の内で相当なジレンマを抱え込んでいるのは間違いない。本来ならば、この近本や糸原、木浪ら若虎たちがさらなる成長を遂げて飛躍のきっかけをつかみ、チームの中心的役割を果たす流れになっていくシナリオが理想だ。とはいえ、歯車は噛み合っておらずサッパリなのだから現場を預かる長としてバッシングを浴びても仕方がない。

難解だった「捕手問題」

 そして難解だったのは「捕手問題」だ。2年連続ゴールデングラブ賞をつかみ今季も4年連続で開幕マスクを被った梅野隆太郎捕手は扇の要のはずである。巨人との開幕戦は3投手とバッテリーを組み、2―3の惜敗で3失点のみにまとめた。しかしながら指揮官は2戦目で長打力もある原口文仁に、3戦目では3番手と目される坂本誠志郎にそれぞれスタメンマスクを被らせるという〝奇策〟に打って出た。ちなみに開幕3連戦ですべて別の捕手が先発したケースは阪神の球団史上初。結果的に2戦目は1―11、3戦目も1―7と連日の大敗を喫し、完全な裏目となってしまった。

 捕手出身の矢野監督には我々凡人には理解できない経験値と考えがあったからこそ、前代未聞の日替わりスタメンを選択したのであろう。それでも、大事な開幕3連戦の相手は8年連続でシーズン負け越し中の巨人だ。指揮官自ら開幕前に「やり返したい」と言い切っていながら、開幕カードで最も負けてはいけない巨人を相手に球団史上初となる3タテを食らった。これは余りにも痛恨で結果論では片付けられないはずだ。

 阪神の有力OBが「開幕カードでなおかつ慎重を期さねばならない相手であるにもかかわらず、一体どういう意図で日替わり捕手という奇をてらったことをやったのか。それで全敗すればチーム内はおかしな雰囲気に包まれるし、梅野だって気持ちが萎えてしまう」と顔をしかめているのも無理はない。

 巨人は阪神を今や〝白星配給チーム〟として完全に見下している。実際にビジターゲームの阪神戦で敵地のはずの甲子園についても巨人のチーム内からは「ウチにとってホームグラウンド」とうそぶく声まで聞こえてくるほど。だからこそ、それをギャフンと言わせるべく払しょくさせるためには、たとえ敵地・東京ドームであろうと阪神は是が非でも宿敵巨人との開幕3連戦で最低でも勝ち越すか、何らかのインパクトを少なからず残さなければならなかった。開幕から明らかな迷走モードに突入しかけている現況のきっかけは、またしても苦手の巨人に完膚なきまでに叩きのめされたことも大きく影響しているように思う。


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