2024年4月25日(木)

赤坂英一の野球丸

2020年8月12日

 「広島カープはまた巨人の〝カモ〟に逆戻りしてしもうたんか」

 強気で鳴る広島OB評論家からすら、最近はそんな弱音が聞かれる。〝球界の盟主〟を呑んでかかっていた2016~18年の3連覇も今は昔。今季、巨人戦の対戦成績は2勝6敗1引き分け(12日現在)と貯金4を献上している体たらくだ。

(PatrickGorski/gettyimages)

 7月14~16日には、マツダスタジアムで11年以来9年ぶりとなる本拠地での巨人戦同一カード3連敗。しかもスコアが第1戦2-7、第2戦1-12、第3戦4-9といずれも力負けの完敗である。これが地元のカープファンにも大きなショックを与えた。

 佐々岡真司監督曰く「3試合とも四球からの失点が多かった。追いつけそうで追いつけない」。就任1年目の指揮官が苦渋の表情でそう振り返ったように、最大の敗因は投手陣の崩壊にあった。

 第1戦は九里亜蓮、D・ジョンソンで計7失点。第2戦はK・ジョンソン、島内颯太郞で計11失点と、いずれも先発と2番手で早々に勝負を決められた。かと思えば、第3戦は初回3失点の先発・薮田和樹をはじめ、高橋樹也、ヘロニモ・フランスア、塹江敦哉らがそれぞれ2失点ずつで計6失点。しかも自分たちの四球がらみだから、守っている野手のリズムがおかしくなり、それが打撃にも影響を与えている。まさに悪循環だ。

 人が変わったようだというより、チームが変わったようだ、というべきか。緒方孝市前監督時代のカープは、とにかく巨人戦に強かった。そのことが、他球団にとっても大きな脅威になっていたと思う。

 緒方監督就任1年目の15年に15勝10敗と巨人戦に勝ち越してから、3連覇した16年13勝12敗、17年18勝7敗、18年17勝7敗1引き分けと、巨人のほうが完全な〝お得意さん〟状態。連覇がストップし、4位に終わった昨季でさえ、巨人戦は14勝10敗1引き分けと〝格下扱い〟している。

 なぜ、今年になってこんな逆転現象が起こったのか。巷では佐々岡監督の手腕や投手陣の弱体化が云々されているが、ある他球団のチームスタッフは「それより何より、打線の破壊力が格段に落ちていることが大きい」と、こう指摘する。

 「3連覇中のカープは、1、2、3番がタナキクマル(田中広輔、菊池涼介、丸佳浩)。4番は16年がベテラン新井(貴浩)、17年から若手の(鈴木)誠也と、ラインナップが固まっていた。それが、18年に新井が引退、19年に丸が巨人へFA移籍、田中広も右膝の故障と中心選手が次々に抜けている。

 おかげで今年のカープは1番・西川龍馬、4番・誠也以外は日替わりでしょう。田中広ももっぱら8番。以前のように、一発もある半面、足を効果的に使って揺さぶりをかけてくることもめっきり減った。打線全体でバッテリーを攻略してきそうな怖さが、まったくなくなってるんですよ」

 そうした中、11年目の堂林翔太が突然変異したかのように打ちまくっているが、「まだまだ、現役時代の新井さんや誠也ほどの脅威にはなっていません」と言う。

 「連覇中のカープは、新井や誠也が打ったらチーム全体が勢いに乗った。ホームランで点を取られるだけじゃなくて、ほかの選手もかさにかかって攻め立ててきたものです。

 いまの堂林には、そこまでの影響力はないでしょう。むしろ堂林自身の好調ぶりがいつまで続くかと、ベンチやチームメートに心配されている。そういう雰囲気は、戦っている相手チームにもわかりますから。実際、堂林の打順もコロコロ変わってるしね」

 そう言われれば、3連覇中の広島はいくら投手陣が打ち込まれようと、打線の破壊力で試合を引っ繰り返すチームだった。3連覇中の逆転勝利数は16年89勝中45勝、17年88勝中41勝、18年は82勝中41勝。このころは選手もコーチも「相手がどこだろうと少々リードされていても逆転できる自信がある」と、堂々とコメントしていたものだ。

 私自身、当時、広島のあるコーチが「点はいくらでも野手が取ってやる! 投手はしっかり投げてくれ! ちょっと打たれたからって〝代えてくださいオーラ〟を出すなよ!」と冗談交じりに言っているのを聞いたことがある。日ごろからそんな遠慮のないやり取りが交わされているほど、打線が投手陣を支えているチームだったのだ。

 そういうチームの根幹をなす構造が崩れた上に、巨人にかつてのカープ打線の要が2人も移籍した。1人は言うまでもなく19年にFA移籍した丸、もう1人は16、17年に打撃コーチを務め、「逆転のカープ」を作った功労者・石井琢朗野手総合コーチである。

 広島OB評論家のひとりはこう指摘する。

 「いまのカープの若い選手たちは、丸や石井コーチの存在を警戒して、疑心暗鬼になっている節もある。自分たちの弱点をすべてお見通しなんじゃないか、勝負どころで何を仕掛けてくるかわからないぞ、と。

 裏を返せば、丸も石井コーチもそれほどの広島の精神的支柱であり、余人を持って代え難い存在だったということです。実際、丸が抜けてからの3番は昨年からずっと日替わりが続いている。3番の穴は、カープの弱体化の象徴と言ってもいい」


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