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2020年9月9日

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イギリスのジョンソン政権は欧州連合(EU)と昨年合意した離脱協定の一部を変更する方針を示している。これについて閣僚の1人が下院で8日、そうすれば「限定的な形」で「国際法に違反」する可能性があると認めた。

イギリスは今年1月31日にEUを離脱した。現在は移行期間に入っており、EUとの通商協定の交渉期限が年末に控えている。

英首相官邸は7日、新しいイギリス国内市場法案を近く提出すると明らかにした。この法案が、ブレグジット(イギリスのEU離脱)後の北アイルランドでの関税や通商のルールに影響する可能性があるという。首相官邸は、「きわめて限定的な分野で、細かい内容を明確にする」だけだと説明している。

しかし、EUは一貫して、昨年10月に英政府と合意した離脱協定の「全面的な実施」が必要だと主張。EUとイギリスの「将来の提携関係を交渉する大前提」だと強調している。

このため、英政府が協定の一部を一方的に変更しようとする姿勢について、イギリスとEUの双方で懸念の声が上がっている。離脱協定は1月末にイギリスがEUを離脱した時点で、国際法となっている。

EUとイギリスの通商協定の交渉期限は今年12月31日。それまでに合意がなければ、イギリスとEUの貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿って行われることになる。

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イギリスが提案する離脱協定変更点は、アイルランドと北アイルランドに関する議定書をめぐるものになる。

この議定書は、イギリスの一部の北アイルランドと、EU加盟国のアイルランド共和国との間の陸続きの国境に、厳密な通関検査を復活させないための取り決め。影響を受ける事業に各国が助成金を払うのか、あるいは国境を通過する輸出入品にやはり関税検査が必要なのかなど、議定書の詳細は今も、イギリスとEUの間で交渉が続いている。

こうした状況の中、8日の下院審議では、下院司法委員会のボブ・ニール委員長(与党・保守党)が、「法治主義の厳守は交渉でどうにかなるものではない」と述べ、「政府の法案には、国際的な義務や国際法の取り決めに抵触しかねない内容は一切ないと、約束していただけるか」と、ブランドン・ルイス北アイルランド担当相に質問した。

するとルイス担当相は、「この法案は確かに、きわめて特定的で限定された形で、国際法に違反する」と答弁した。

ルイス氏は、北アイルランドの貿易について今なおイギリスは「誠実に」EUと交渉を続けているものの、「状況が変化すればイギリスも諸外国も、国際法上の義務を検討し直さなくてはならない。これには明確な前例がある」と述べた。

メイ前首相、「イギリスの信用を損なう可能性」

ボリス・ジョンソン首相の前にイギリスのブレグジット交渉を推進していたテリーザ・メイ下院議員(前首相)は、この日の審議で、一度締結した協定をこのように後から一方的に変更するようなことがあれば、イギリスが今後、諸外国と通商交渉を進める中でイギリスに対する「信用」を損なう恐れがあると指摘した。

「イギリス政府は北アイルランド議定書を含む離脱協定に署名した。この議会は、その離脱協定をイギリス国内法にすると可決した。しかし政府は今、その協定の施行を変更しようとしている。いったいどうやって政府は今後の各国との連携において、イギリスは協定に署名したらその法的義務を順守すると、信用してもらって大丈夫だと、諸外国を安心させられるというのか」と、メイ前首相は述べた。

政府法務局のサー・ジョナサン・ジョーンズ事務次官は8日、政府の法案をめぐり、辞任する意向を表明した。今年に入り官庁を公務員の政府高官は6人目。

最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首は、首相官邸が「もう決着した古い論争を再開しようとしている」と批判。政府やそれよりもEUとの「通商協定の合意に集中すべきだ」と述べた。

ジョンソン首相は7日、欧州理事会が10月15日に開かれるまでに通商協定がまとまっていなければ、イギリスもEUも通商協定はないものと受け入れて、「次の段階へ進む」べきだと話している。


<分析> 異例の閣僚答弁――クリス・モリス、BBCリアリティー・チェック編集委員

これはきわめて異例の答弁だった。閣僚が議会で、政府は国際法をやぶるつもりだと述べたのだから。

ブランドン・ルイス北アイルランド担当相は下院に対して、「状況が変化すればイギリスも諸外国も、国際法上の義務を検討し直さなくてはならない。これには明確な前例がある」と述べた。

これはつまり、政府は「条約法に関するウィーン条約」の第62条を検討しているのかもしれないと、英ケンブリッジ大学のキャサリン・バーナード法学教授は説明する。この条項は、条約締結時の事情が根本的に激変した場合は、国は条約上の義務を停止することができるという内容。

しかし、この第62条の適用が認められるには、「事情の根本的な変化」はかなり劇的なものでなくてはならない。たとえば、ユーゴスラヴィア解体のように国際的に承認されていた国家が存在しなくなるほどの、劇的な変化だ。

北アイルランドに関する議定書の場合、政府は状況の難しさを十分に承知しながら交渉していたし、合意から1年もたっていない。

そして、離脱協定と矛盾する法案を政府が押し通そうとした場合はどうなるのか?

「EUは離脱協定に含まれる、紛争解決の仕組みを発動し、欧州司法裁判所の仲裁を仰ぐ可能性がある」と、バーナード教授は説明した。


(英語記事 Northern Ireland Secretary admits new bill will 'break international law'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/54082434

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