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2020年10月2日

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欧州連合(EU)は1日、イギリスが離脱協定の一部を変更する法案を撤回しなかったことを受け、同国に対する司法手続きを始めるとする「正式な通告書」を発表した。

EUはイギリス議会で審議中の国内市場法案について、9月30日までに離脱協定に関する部分を削除するよう求めていたが、期限切れとなった。

この通告書により、EUはイギリスと欧州司法裁判所(ECJ)で争う可能性もある。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、イギリスは11月末までに、国内市場法案についてのEUの懸念に応える必要があると説明した。

EUとイギリスのブレグジット(イギリスのEU離脱)後の通商協定の交渉はなお続いている。しかしボリス・ジョンソン英首相は、10月半ばまでに合意に至らない場合は「次の段階に進む」べきだと話している。

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イギリスは今年1月末にEUを離脱し、現在は移行期間中にある。EUとの通商協定の交渉期限が迫る中、ジョンソン政権は通商交渉が破綻(はたん)した場合に北アイルランドを含めたイギリスの国内市場を守るためとして、国内市場法案を提出した。この内容が離脱協定を部分的に変更するものとなっている。

ただし、離脱協定は1月末にイギリスがEUを離脱した時点で、国際法となっている。英閣僚は下院で、「特定的で限定的な」国際法違反の可能性を認めたものの、英議会は審議を進め、法案はすでに下院を通過している。

当初の約束に「違反」している

フォン・デア・ライエン委員長は記者会見で、この法案はイギリスの一部の北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの陸続きの国境に厳密な通関検査を復活させないとした当初の約束に「完全に違反している」と指摘。

また、法案がその根底の部分で、離脱協定に含まれる「誠実に対応するという責務を破っている」と述べた。

これに対しイギリス政府の報道官は、国内市場法案は北アイルランドを含めたイギリスの国内市場を守るための「セーフティーネット」だと説明し、「適切な方法で」EUに回答すると話した。

この法案が法制化するにはなお上院での承認が必要だが、保守党内の反発を防ぐため、閣僚はすでに、実際にブレグジット協定を変更する必要のある場合は下院で審議を行うと約束している。

最大野党・労働党のキア・スターマー党首は、イギリス政府とEUは通商をめぐる相違を埋めるために協力すべきだと話した。

「期限が数週間に迫る中、交渉ではなく裁判沙汰にするという脅しにエネルギーが注がれているのはばかばかしい」

欧州委員会が今回発表した「正式な通告書」は、同委員会がEU法に反していると判断した国に送る最初の文書。この通告書から司法手続きが始まり、欧州委員会と政府がECJで争う可能性もある。

イギリスは離脱後の移行期間中はECJの管轄下にあり、離脱協定の解釈や内容の法制化もECJが担当する。

ECJには罰金を含め、管轄国を判決に従わせる力が与えられているが、ほとんどの案件ではその前に和解に至るという。

またECJでの審理は通常、何年もかかる。

イギリスの国内市場法案とは?

国内市場法案は、イギリスが来年1月1日にEUの単一市場と経済通貨同盟を離脱した後、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの間でモノとサービスの自由な流通を確保するためのもの。

問題となっているのは、すでに国際法となっている離脱協定の内容を、イギリス政府が一方的に変更できるとしている部分だ。

離脱協定に含まれる北アイルランド議定書では、イギリスの一部の北アイルランドと、EU加盟国アイルランドとの陸続きの国境に、厳密な通関検査を復活させないことが明記されており、現在その方法について通商交渉が進められている。

しかし国内市場法案には以下のような内容が含まれている。

  • 北アイルランドと残りの地域の間のモノの移動で検査を行わない
  • イギリスとEUが通商協定に合意できない場合、来年1月1日から国内の閣僚に、モノの移動についてのルールの変更あるいは「不適用」を決める権限を与える
  • この法案による権限は、既存の企業に対する政府補助金に関する取り決めに優先される

また法案には、国際法と矛盾する場合でも閣僚にこうした権限を認めると明記されている。

ジョンソン政権の閣僚たちはこの法案について、英・EU間で自由貿易協定が結ばれなかった場合に、EU側が離脱協定の内容を「極端で不合理」な形で施行しないようにする予防措置だと説明している。


<解説> EUはどんな権限を持っている? ――ニック・ビーク、BBCブリュッセル特派員

「EUがイギリスを提訴へ」という見出しは仰々しいが、EUにとっては、これが次に取るべき論理的な手段だ。

イギリスの国内市場法案に対して、9月末までに問題の部分を削除せよと最後通告を送った際、EUはその次にどうなるのか分かっていたはずだ。それが今の状況だ。

しかし法的手続きは大抵が長丁場で、先が読めない。イギリスの移行期間が終わる12月31日までに解決策が見いだせる可能性はないだろう。

EU加盟国はかねて、2020年のうちに離脱協定を破るような疑いが持ち上がれば、さらに4年をかけてイギリスを追及する必要があるだろうという司法の助言を受けてきた。

移行期間終了後に同様の疑いが発生した場合には、協定内に含まれる紛争解決メカニズムに従ってイギリスにペナルティーと罰金を科することができる。

あるいはECJにその役目を負わせることもできるだろう。しかし法的措置では長引いてしまう。

今のところ、今回の法的手続き開始が通商交渉を決裂させることはなさそうだ。

イギリスもEUも、向こう数週間で通商協定を結びたいと考えている。しかしEU側は、イギリスのこの法案がある限りは協定を批准しないと言っている。

両者はいま、ピンと張った2本の綱の上を歩いている。とても不安定でバランス感覚が必要な場面だ。

一方の綱は通商協定に、もう片方は醜悪な法廷闘争につながっている。

イギリスもEUも真正面を見て進んでいるが、先にまばたきをしたいとは思っていないだろう。


(英語記事 EU starts legal action against UK over Brexit deal

提供元:https://www.bbc.com/japanese/54381998

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