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2020年10月10日

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イギリス政府は9日、エリザベス女王の誕生日を記念する叙勲リストを発表した。スーパーの店員や配達員、看護師、ボランティア、パブの店主など、新型コロナウイルスの流行に立ち向かった「無名の英雄」たちの名前が並んだ。

女王の公式誕生日は6月だが、今年は新型ウイルスのパンデミックを受け、感染症に立ち向かった人たちを含めるため秋に延期されていた。イギリスではこのほか、新年に叙勲リストが発表される。

今回発表された1495人のうち、414人がCOVID-19関連での叙勲となった。また、全体の14%を医療関係者が占めた。


イギリスの叙勲システム

勲章には通常、以下のような序列がある

  • コンパニオンズ・オブ・オーナー勲章(65人に限定、受勲者は名前の後にCHを付けることを許される)
  • ナイトまたはデイム(騎士の爵位、2等。受勲者はサーまたはデイムの敬称を使うことを許される)
  • コマンダー(CBE、3等)
  • オフィサー(OBE、4等)
  • メンバー(MBE、5等)
  • 大英帝国メダル(BEM、文化部門で活躍した人に送られるメダル)

スーパーマーケットでの闘い

ケンブリッジシャーで配達ドライバーの仕事をしているジェフ・ノリスさん(53)は、BEM授与の知らせを聞いて「衝撃を受けた」と話した。

新型ウイルスの感染拡大が始まったころ、イギリスでは買い占めが起き、スーパーの棚が空になった。ノリスさんはその様子を見て、高齢者などを見捨てられないと決意した。

「ロックダウンが始まる直前には、すべての配達枠が埋まってしまっていた」とノリスさんは振り返る。

ノリスさんは休みの日に自分の車を使い、お年寄りや感染症に弱い顧客が買い物ができるような仕組みを作った。配達員仲間にも呼びかけて買い物代行を行い、日曜日に顧客に届けた。

また、妻のヴァネッサさんや娘のアナさん(22)の助けを借りて、電子メールや電話で注文を取れるようにしたり、顧客が直接店舗に連絡できるようにした。

「おそらく15週間はそういうことをしていた。厳しかったが、何も手に入らないと思っていた人たちから、感謝されるだけで十分だった」

一方、ウェールズ南部アバーデアのスーパーで働くジュリー・クックさん(56)は、地元の介護施設への供給を確保した功績でBEMを受けることになった。

クックさんは毎週、介護施設の買い物リストを受け取り、従業員が取りに来るまでに全てを準備できるよう心がけていた。

このスーパーで21年間働いているというクックさんは、「本物なのか何度も何度も読んで確かめた。こんな形で表彰されるとは思っていなかった」と語った。

「本当に興奮して、知らせを受けたときには跳び上がってしまった」

最前線に医療用ガウンや無料の食事を

ケンブリッジ出身の看護師アシュリー・リンズデルさん(30)は、最前線で働く医療従事者に医療用ガウンを届けるため、「全くの素人考え」を思いついた。しかしこの運動が全国に広まり、リンズデルさんはOBEに叙勲されることになった。

イギリスでは今春、新型ウイルスの第1波の中で、医療用の個人防護具(PPE)が不足する騒ぎがあった。リンズデルさんの働く救急外来でも医療用ガウンが足りなくなったため、リンズデルさんは自費で布を買い、同僚のためのガウンを作り始めた。

リンズデルさんはフェイスブックページを立ち上げ、「For The Love of Scrubs(医療用ガウンへの愛)」という活動を始めた。これが大きなムーブメントのきっかけとなった。

それから2カ月の間に、イギリス全土に148のサブグループが誕生し、それぞれの地域で活動を始めた。

これまでに7万人以上のボランティアが120万個ものPPEと100万個以上のマスクを作り、医療の最前線に届けたという。また、活動資金は当初すべて自前だったが、その後は募金活動を通じて100万ポンド(1億4000万円)以上が集まったという。

現在はイーストアングリアで地域専門の看護師として働いているリンズデルさんは、「この活動が雪玉のように大きくなっていくなんて考えてもいなかった。でも数十万人もの医療従事者が安全に働けるよう支援ができた」と話した。

「数千人ものボランティアの人たちのおかげだ」

スコットランド・グラスゴーでレストランを経営するデイヴィッド・マグワイアさん(62)は、地元の国民保健サービス(NHS)病院のスタッフやボランティアに、無料で食事を提供した。

マグワイアさんはロックダウン初日、近くのガートネイヴェル病院のビーストンがんセンターで働く看護師が昼食にやってきたことに気付いた。ロックダウンのため、病院の食堂が閉鎖されていたのだ。

それから11週間にわたり、マグワイアさんのレストランは毎日800食以上を無料で提供した。マグワイアさんはこの間、妻の安全を考え、自宅のガレージに寝泊りしていたという。

「レストランが一種の(中略)大規模食料生産センターになっていた」とマグワイアさんは振り返った。

MBEを授与されることになり「とても嬉しい」と語る一方、全てはチームの功績だと強調。シェフ長のスティーヴン・カプタさんや従業員のメロディー・ウィトリーさんがいなければ「1週間も続かなかっただろう」と話した。

資金集めに貢献した人々

パンデミック中には資金集めのためにさまざまな慈善活動が行われ、その中心となった人々も叙勲の対象となった。

ロンドン東部ボウに住むダビラル・イスラム・チョードリーさん(100)は、新型ウイルス対策基金のために42万ポンド(約5800万円)を集めた功績で、OBEとなった。

チョードリーさんは、同じ100歳で医療従事者のために3200万ポンド(約43億円)を集めたトム・ムーア退役大尉(ナイト爵位を叙勲)を見て、意欲をかき立てられたという。

当時99歳だったムーア大尉は、4月30日の100歳の誕生日までに自宅の庭を100往復すると宣言し、歩行器を使って達成。その功績を称えられて名誉大佐となった。

チョードリーさんもこれにならい、ラマダン(断食月)中に自宅の庭を1000回往復した。

息子のアティク・チョードリーさん(57)は、「私たちはバングラデシュ出身で、こうした働きが認知されることはあまりない。今回の叙勲は父の成功を助けてくれた全ての人々、そしてCOVID-19で亡くなった人々に捧げたい」と話した。

ランカシャーでパブの地主をしていたジェイ・フリンさん(38)は、オンラインのパブ・クイズ(イギリスのパブがイベントとして行うクイズ大会)が人気を博し、総額75万ポンド(約1億円)以上の資金集めに成功した。

ロックダウンによってパブやバーが閉鎖を余儀なくされた時、フリンさんは友人やパブ・クイズによく参加してくれた顧客のために小さなイベントを始めた。

しかし、フェイスブックで立ち上げたイベントページはの公開範囲を間違えて「友人」から「全体」にしていたため、参加人数が数千人に膨れ上がってしまった。

ピーク時には、ニュージーランドやアメリカからの参加もあり、18万人以上が参加する回もあったという。

5月には俳優のスティーヴン・フライさんがクイズを司会。アルツハイマー研究のために14万ポンドの資金を集めた。

MBEを叙勲されたと知った時、フリンさんは「椅子から落っこちそうになった」という。

「胸がいっぱいで、光栄な気持ちだ。こうしたものを自分の人生で受け取れるとは思っていなかった」

「叙勲式に行くまで落ち着けないと思う。本当に舞い上がっている」

(英語記事 The 'unsung heroes' honoured by the Queen

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-54490343

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