2024年4月20日(土)

Washington Files

2021年2月22日

 米国史上最悪となった連邦議事堂乱入・占拠事件の逮捕者たちは、意外にも大半がごく普通の市民だった―。事件捜査が進むにつれ、分断社会の根深さが浮き彫りとなり、衝撃が広がっている。

(trekandshoot/gettyimages)

 去る1月6日、トランプ大統領に扇動された暴徒が先の大統領選に大規模不正があったとして大挙して議事堂に乱入、死者5人、負傷者50人以上、逮捕者数百人を出す惨事が引き起こされたことについて、当初は、武装蜂起も辞さない極右組織「Qアノン」をはじめとする過激集団とそのシンパの犯行との見方が広がっていた。

 事実、繰り返し報道された現場のビデオ映像では、上半身裸でバファローの角のついた帽子をかぶった異様な姿で荒れ狂う男や、手錠に角材、ヘルメットで武装した若者たちが議事堂入口の窓を打ち壊しなだれ込む様子などが映し出されていた。こうした過激グループの乱入シーンが視聴者の目に焼き付いたことも否めない。

 しかし、事件発生後、FBI、ワシントンDC警察、連邦議会警察にこれまでに「不法侵入」「器物破損」などの容疑で逮捕された236人のうち、193人について身元 、職業などを徹底的に洗い直したところ、いつかの意外な事実が浮かび上がってきた。

 有力誌「The Atlantic」の調査報道チームが、シカゴ大学「安全保障と脅威」プロジェクト班(Chicago Project on Security and Threats)と共同で実施した逮捕者の事情聴取、陳述記録の分析などを下に途中経過としてまとめたもので、以下のような点が指摘された(同誌2月2日付け):

1.事件は、たんなるならず者たちの暴行、抗議者たちの発作的な行き過ぎた行動といったものではなく、明らかに政治的意図を持った幅広い階層の犯行だった。逮捕者たちの大半が、「米議会による大統領選挙結果承認を阻止すべきだ」とするトランプの命令に従い行動した。

2.警察捜査記録を下に逮捕者たちの身元を洗い直したところ、10人に1人は『ProudBoys』『Oath Keepers』『Three Percenters』といったギャング、軍事組織的過激集団と何らかのつながりがあったが、残り9割近くはこうした特定組織とは無関係だった。

3.過去全米各地で引き起こされてきた極右集団の暴行事件と今回の大きな違いは、参加者の年齢、職業、学歴などの面で大きなばらつきがある点だった。過去の例では、逮捕者の61%が35歳以下であり、25%が失職中、そして普通の会社務めはゼロに近かった。これに対し、今回の事件関係者は平均年齢40歳、全体の65%が35歳以上、そして40%がビジネス・オーナーかホワイトカラーだった。会社のCEO、ショップ経営者、医師、弁護士、ITスペシャリスト、公認会計士といった職業も含まれていた。失業者は9%だけだった。

4.逮捕者の居住先についても、一般に流布された通説とのギャップがめだった。事件当初、政治イデオロギーも超保守的な共和党拠点州deep-red strongholdsから押し寄せた暴徒との印象が強かったが、逮捕者の身元を調べてみると、意外にも先の大統領選でバイデンが勝利したblue states出身者も多かった。トランプが60%以下の得票でバイデンを押さえた地域出身者は全体の6分の1にすぎなかった。これに対し、勝敗にかかわりなく接戦州出身は逮捕者全体の40%近くに達した。

5.全体的に、トランプ支持票の多い郡、州出身の逮捕者が多かったが、ニューヨーク、サンフランシスコ、ダラスといった民主党支持の地域出身者も3分の1を占めた。それ以外の大規模メトロポリタン近郊からの参加者も4分の1に達した。

 「The Atlantic」は上記のような事実を列挙した上で、①議事堂乱入事件は従来のようないくつかの右翼組織のみならず、アメリカ政治における「新たな力」の存在を明らかにした②それは根底に暴力的要素をはらみ、トランプ支持層がマイノリティ的存在でしかない地域をも包含するより幅広い大衆政治運動であることを意味している③今後こうした暴力事件の再発を抑止するには、超過激集団の監視・抑え込み、貧困解消、怒れる若年層の熟年化といった紋切り型の対処だけでなく、ミドル・エイジ、ミドル・クラスの平均的アメリカ人が抱える問題にも目を向ける必要がある―などと結論付けている。


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