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2021年4月8日

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大井真理子、BBCニュース

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」 

東京五輪大会組織委員会の森喜朗前会長(83)がそう発言した翌日、20代の女性3人が森氏の処遇の検討を求める署名を始めた

そのうちの1人、能條桃子さん(23)は、「目的は辞任ではなく、再発防止でした」と話す。能條さんは若者の政治参加を促す団体「NO YOUTH NO JAPAN」代表でもある。

「何かしないと、と感じました。今まで社会として見過ごしてきたのがよくないと思って」

計11人の有志で始めた署名は、2日間で10万筆を超えた。

首相経験者の森氏は1週間後に辞任。その後、森氏が日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏(84)を後任に指名したと報道されると、能條さんたちは再度、誰がどういう基準で後任を選ぶのか開示すべきだと、透明性の高いプロセスを要求。より若く、女性で、元オリンピック選手の橋本聖子五輪相(当時、56)が後任に決まった

しかし、「森さんの辞任で問題が解決したわけではない」と能條さんは言う。

「森さんの発言を批判した会社の中にも、女性役員は1%以下のところがある。それを変えていけるかにかかっていると思います」

世田谷区議会議員の神尾りさ氏(39)も、森氏個人が発言した内容より、それを容認してきた日本社会そのものに問題があると言う。

「誰かを責めるのは簡単なことですが、モグラたたきで1匹のモグラをたたくのと同じこと。頭を出していないモグラの大群がもつ固定観念や常識を、私たちがどう変えていくのか。その意識を変えることを怠ってきたのは私たち自身です」

それを裏付けるかのように、森氏の辞任の数日後、自民党幹部は主要会議に女性議員を招くが発言は認めないと発表し、世界でニュースになった。

能條さんの活動が示すように、若者たちの中にはこうした問題を解決しようという動きが出始めている。しかし統計では、大きな変化が訪れるにはまだまだ時間がかかると示されている。

安倍晋三前政権では「女性が輝く社会」を目指したにもかかわらず、なぜ日本では女性差別がなくならないのか? その背景にあるものは何なのか?

女性が担う負担

イクメンという言葉がはやり、男性の家庭進出がうたわれる中、変化が遅い理由は「第2次大戦後、企業戦士として会社に人生を捧げるサラリーマンと専業主婦の組み合わせが奨励され、今でも性別役割分業が強いから」だと、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事は指摘する。

「長時間労働をせざるを得ない男性は自宅に帰る時間が遅く、家事や育児にコミットできない」

そう駒崎氏が説明するように、2020年版の男女共同参画白書でも、働く夫婦の家事時間は女性が男性の最大3.6倍。少しずつ改善されつつあるが、家事の負担はいまだに女性が負っている

その結果、キャリアとの両立に悩み、産後に仕事を辞めたり、パートタイムや時短勤務で復帰し、昇進を諦めたりする女性も多い。

そして子育て支援体制が十分でないことは、子どもを産むという選択、少子化にも影響している。

日本の経済成長が停滞する中、女性の活躍が不可欠だとして掲げられたのが「ウーマノミクス」だが、待機児童問題やいわゆる「小1の壁」など、未解決の課題も多い。

少子化問題について取材を続けてきた白河桃子氏は、「日本が推進してきたのは女性活躍だけで、ジェンダー平等ではない」と話す。

日本では女性のリーダーの数を増やすという目の前の数値目標に気を取られ、長期的に女性を育成していくという観点が不十分だった。

そのため、女性の就労率は上がっても、社会の指導的地位を占める女性はあまり増えず、2020年までに30%を目指した女性管理職は、2019年になっても7.8%と低迷。目標達成は2030年に先送りされた。

また、女性議員(衆院)も1割以下で193カ国中166位だ。その結果、世界経済フォーラムによる「ジェンダーギャップ指数」では、日本は156カ国中120位と、2006年から40位も下げている。

今なお男性優位社会の政財界では女性蔑視発言が絶えない。経団連の中西宏明会長は、森氏の発言について「日本社会の本音が出た」と印象を語った。

声を上げづらい社会

森氏のような発言がなくならない理由の一つに、日本では特に目上の人に反対意見を言いづらい、という文化がある。

能條さんは、「私が若者だから、女性だからではなく、日本全体が声を上げづらい社会だ」と言う。

「声を上げることはわがままで、自分で努力せず、文句ばかり言ってる人というふうに見られてしまう」

また「空気を読む」という風潮もある。その場が気まずくならないように、女性蔑視発言があっても、誰も批判しない。

すると森氏のような男性は、自分の発言が不適切と気づかない。発言がインターネットなどで批判されても、今までなら謝罪し、「妻や娘に怒られた」と同情を買うコメントをし、そのまま役職をキープしてきた。

それを許してきたのは私たちだ。そう感じた年上の女性たちの多くも、能條さんの署名を応援した。

駒崎氏は、「女性だけではなく、男性も怒っていますと声を大にして言いたい」と強調する。「同年代の男性で、議員の方も含め、あれにイエスと言う人はいない。あり得ないと思っている人がマジョリティー」だと話した。

駒崎氏は「世代が変わればオールオッケーというわけではない」と言う一方で、若者との対話で、ジェンダーについての価値観をアップデートしてきた年配の男性も多いと語った。

「一人では闘えない」

価値観のアップデート以外に、大きな役割を果たしているのはソーシャルメディアだ。

能條さんたち若者世代が意見を言えるプラットフォームを得たことで、トヨタ自動車などの五輪スポンサーは、森氏の発言について相次いで「自社の価値観と異なる」などと遺憾の意を示した。消費者の不買運動警戒などが背景にあったと考えられる。

同時に、政治の場に女性をもっと増やさなくてはいけない、と白河氏は言う。

彼女が提案するのは、議席や候補の一定比率以上を女性に割り振る「クオータ制」だ。「50:50が普通と考え、それを達成できない言い訳を探すのではなく、達成できない理由を解決していかなくてはいけない」。

クオータ制以外にも、国会審議のオンライン化や、議会託児所を当たり前にすべきだと言う。

「そして可能な限り、パワーを持つ男性政治家に女性を重要職に任命してほしい」

白河氏が好例として挙げたのは、広島県の平川理恵教育長だ。2018年4月の就任以来、県内の教育の姿を変えようと動いてきた。

世田谷区の神尾議員も、女性政治家の数だけを増やすことに対して批判があると認めた上で、これに同意する。

「一人では闘えないと気づいたのです。女性政治家が増えれば増えるほど、声を上げることができる」

神尾議員はアメリカから帰国した2016年、当時3歳だった息子の保育園を探していた最中に、働く親世代の声が政治に届いていないと感じ、選挙に出る決心をした。

無所属の候補として出た選挙活動中、「顔を知ってもらうために、始発から終電まで地元の駅に立つといい」と言われ、育児との両立は不可能に近く、「受かるとは思わなかった」と言う。

区議になってからも、正午に始まるミーティングで、「深夜0時までスケジュールを開けてください」と言われた同僚のために、「子供がいると難しい」と声を上げた。

「でも自分が参加しなきゃいけないミーティングだったら、何も言わなかったかもしれない」

そう言った彼女の言葉が、日本社会を物語っている。

神尾議員は一方で、選挙活動中に2度もやめようと思ったとも教えてくれた。夫は応援してくれたものの、両親、特に専業主婦の母親が強く反対したからだという。

「私が忙しくなりすぎてしまい、息子のことに手が回らなくなることを心配したんだと思います」

家族の反対や、社会が求める「母親像」は、今も多くの女性が社会進出に踏み出せない理由だ。

「NO YOUTH NO JAPAN」メンバーの田中舞子さんも、日本人女性は幼いころからおしとやかに育てられていると指摘する。

「小学校では女の子は赤いランドセルを持たされ、小さいころから女の子は控えめになれと言われる。アメリカでは強い女性がかっこいいというイメージがあるのに、日本ではおしとやかに育てられる」

まだまだ道のりは長い

女性の活躍推進が政策となり、働く母親を支援する企業も増えたが、まだまだメジャーではない。全業界で、そして全てのレベルで女性の意見が聞かれる社会になるまで、女性蔑視のメッセージは恐らくなくならない。

皮肉なことに、働き方改革の旗振り役として長時間労働の解消に取り組む厚生労働省では、過労死ラインを超える残業を強いられた職員が今年1月だけで398人もいた。森氏の発言を批判したメディア業界も、女性役員がゼロやほとんどいないという状況だ。

神尾議員に、私たちの子供たちが大人になる頃には、日本から男女差別がなくなると思うか聞いてみた。

答えは、「一世代じゃ難しい気がする」というものだった。

「日本では、母親が男の子と女の子を違う育て方をしている。私自身、男の子を持つ母として、息子に家事を手伝わせることの大事さを感じている」

一方で白河氏は、森氏が辞任せざるを得なかったことが日本が変わってきた証拠だと指摘した。

能條さんや田中さんといった20代の女性たちは、たとえ「NO YOUTH NO JAPAN」での活動が就職活動に影響しても気にしないという。

「不安定な時代にいい子にしている人だけがほしい会社はこっちから願い下げだ」と、能條さんは話した。

だがそんな能條さんですら、政治家にはなりたいと思わないと言う。

「誰かがならなきゃいけないと思いつつ、幸せになれるとは思えない。私自身、無意識なバイアスを受けてきたのかも」

電通総研が行ったジェンダーに関する意識調査では、女性管理職が3割を占めるのは24.7年後、日本初の女性の内閣総理大臣が誕生するのは27.9年後、国会議員の女性比率が50%になるのは33.5年後という予想だった。

若い女性たちの活動に勇気づけられる一方で、この記事を書いていた時に、東京五輪・パラリンピック開閉会式の演出責任者、佐々木宏氏(66)が、開会式に出演予定の渡辺直美さん(33)の容姿をブタにたとえて「オリンピッグ」と演出することを考えていたことが明るみになった

まだまだ道のりは長い。

(英語記事 Why Japan can't shake sexism

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-56658294

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