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2021年4月16日

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ジェーン・チャンバース(チリ・サンティアゴ)

南米チリは、新型コロナウイルスワクチンの接種を迅速に展開している国の1つだ。しかし、同国のエンリケ・パリス保健相はここ数日間、新型ウイルスに関する日々の記者会見で悲観的な報告を続けている。

チリでは今月9日、1日あたりの新規感染者が、パンデミック開始以降で初めて9000人を超えた。それまでのピークだった昨年6月中旬の7000人弱を大幅に上回り、過去最多を記録した。

パリス保健相は9日、「心配な状況だ」と語った。

「我々はこのパンデミックにおける危機的状況の真っただ中にある。(中略)自分自身や愛する人、家族を大切にするようお願いしたい」

チリ国内の集中治療室(ICU)は再びひっ迫している。国は2度目の国境閉鎖を行い、居住者以外は入国できなくなった。同国で暮らす約1800万人のほとんどがロックダウン下に置かれている。

「後戻りしているような気分だ」と、サンティアゴで暮らすソフィア・ピントさんは話す。

「食材の買い出しや医師の診察など必要不可欠なことのために、週にたった2回外出するために、特別な許可証をオンラインでダウンロードしないといけない」。

この新たなロックダウンに、多くのチリ人が不満と混乱を感じている。ほんの2カ月前にはセバスティアン・ピニェラ大統領が、チリは世界で最も早くワクチン接種を開始した国の1つだと豪語していたことも、そうした思いの原因となっている。

何がうまくいかなかったのか?

ピニェラ政権がワクチン展開について勝ち誇り、それにとらわれたことで規制緩和を急ぎすぎたとの批判の声が上がっている。

世界中の政府と同様、チリの閣僚たちも難しい選択を迫られていた。

チリの国境は一部の例外を除き、2020年3月から11月まで閉鎖されていた。しかし、厳格なロックダウン措置により同11月には感染者の7日間平均が1300人にまで減少。政府は外国人観光客などの受け入れ再開を決定した。

また、南半球の夏季休暇中に国内をより自由に移動できるよう、チリ国民に特別休暇許可証が与えられた。これは一部の専門家が、市民の精神衛生上、こうした措置が重要であると主張したことを受けたものだった。

落ち込んでいた経済を活性化させるため、レストランや商店、行楽地などの営業が再開された。

接種スピードは速いが、長期休暇には間に合わず

ワクチン接種は確かに迅速に進められてきたが、昨年12月下旬に開始されたばかりだ。まずは最前線で働く医療従事者や90歳以上の市民、教師が優先的に接種を受けた。

そのため、親戚や友人と会う1~2月の(南半球の)夏休み期間の前には、大多数のチリ人は接種を受けていなかった。

さらに、昨年11月にブラジル・アマゾナス州で発生したとみられる変異株「P1」のような、感染力が強い変異種が広がっていることも、感染急増の要因とみられる。

チリのポンティフィカル・カトリック大学の免疫学教授、スーザン・ブエノ博士は、最近の感染急増には「複数の要因が絡み合っている」としつつ、新たな変異株が「大きな影響を与えている」とみている。

ブエノ氏はマスクの着用や手洗いなどの感染予防のメッセージが、夏の間はやや軽視されていたと指摘。これが「おそらく、現在直面している感染流行の原因の1つ」になっているという。

中国製ワクチンをめぐる混乱

また、大多数のチリ人が接種したワクチンの効果についても混乱が生じていると、ブエノ氏は付け加える。チリでこれまでに投与されたワクチンの93%以上は、中国・北京のバイオ製薬会社「科興控股生物技術」(シノヴァク・バイオテック)が開発した「CoronaVac」だ。

CoronaVacの有効性に関するデータは様々だ。ブラジルでの臨床試験では50.4%程度の有効性が示された。しかし、インドネシアやトルコでの後期臨床試験では65~83%とはるかに高い有効性が示された。

チリ大学は先週、1回目と2回目の接種を受けた後のワクチンの防御レベルに関する研究結果(スペイン語)を発表した。

この研究によると、CoronaVacでは2回目の接種から2週間後に56.5%の感染防御効果がみられたが、1回目の接種を受けてから2回目を受けるまでの間の有効性はわずか3%だった。

チリでは740万人以上が1回目の予防接種を受けているが、2回目も受けた人は430万人と非常に少ない。この研究結果は、感染者数がいまだに増加傾向にある理由を知る上で重要な手がかりになるかもしれない。

チリ大学のエンニオ・ヴィヴァルディ学長は記者会見で、CoronaVacを1回接種しただけでは「相応の効果」は得られないとまで言い切った。

2回目の接種がカギ

チリにおけるCoronaVacの臨床試験の科学ディレクターを務めるブエノ氏は、すべてのワクチン接種スケジュールを守ることが最も重要だと指摘する。「1回の接種だけでは、予防効果のすべては得られない」。

このメッセージをチリ政府は十分に国民に伝えていないと、マリア・ゴンザレスさんは考えている。サンティアゴ在住のゴンザレスさんは予防接種センターで1回目の接種を受けたばかりだ。

「ワクチンが適切に作用するには、2回の接種が必要だ」と、ゴンザレスさんはクリニックの外でアレルギー反応が出ないか確認しつつ語った。「それでも(接種を受けても)社会的距離を確保するなど、安全対策に気を配る必要はある」。

CoronaVacの有効性に不安を抱いている人もいる。

ゴンザロ・シルさんもその1人だ。シルさんは、首都サンティアゴで米ファイザー製ワクチンを提供している、数少ない予防接種センターを訪れた。

「ファイザー製の方が効果があると聞いているし、出張を控えているので接種が必要だ。ファイザーの方が認知度がずっと高いので」

一方で、CoronaVacの臨床試験データを分析するブエノ氏は、データが同ワクチンに効果があることを示していると断言する。

ブエノ氏によると、約50%の有効性を示した臨床試験では感染者の多くが非常に軽度の症状、あるいは無症状だった。集中治療を必要とする人が1人も出なかったことが重要だと、同氏は強調する。

また、CoronaVacが死亡や重症化を防ぐだけでなく、ブラジルで発見された変異株にも効果があると主張している。

感染者の急増を受け、チリ政府は厳格なロックダウンを命じただけでなく、予防接種キャンペーンの最新情報をウェブサイトで提供している。このサイトは、米ジョンズ・ホプキンス大学の新型コロナウイルス・リソースセンターからヒントを得たものだ。

接種を受けたチリ国民の数がウェブサイト上のカウンターに表示され、予防接種の重要性が伝わるようになっている。

最近CoronaVacを接種したヴェロニカ・ペレスさんは、「ワクチンを接種するのが非常に重要なので、どれを接種しようが構わない」、「どのワクチンも命を救うのに役立つのだから」と話した。

(英語記事 Chile sees Covid surge despite vaccination success

提供元:https://www.bbc.com/japanese/56768894

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