
ドイツのクリスチャン・リントナー財務相は20日、ロシアのエネルギーへの依存を解消するために「できるだけ早く」動いているが、時間がかかるとの見方を示した。同相はBBCの取材に対し、「我々は辛抱強くならなければならない」と語った。
一方、アナレナ・ベアボック外相は先に、ドイツは年内にロシアからの原油の輸入を終了し、ガスもそれに続くと述べていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はかねて、ドイツがロシアのエネルギー輸入を抑制できていないと批判している。
大統領はBBCの独占インタビューの中で、ドイツが「他人の流血」でロシアの原油を購入していると述べていた。
ロシアの原油・ガス販売による収益は1日約10億ドル(約1300億円)に上り、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に戦争終結の経済的圧力をかけようとする国際的な努力を阻害している。
アメリカはすでにロシアの原油の輸入を禁止しており、イギリスも年内に段階的に輸入を停止する予定だ。
しかし、欧州連合(EU)加盟国はロシアのエネルギーに大きく依存しており、ドイツは現在、原油の約25%、ガスの40%をロシアから購入している。
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リントナー財務相はBBCに対し、ドイツはロシアのエネルギー禁輸措置の実施に取り組んでいるが、「我々よりも(プーチンを)傷つける」制裁措置を用いることが好ましいと述べた。
また、ロシアからエネルギー輸入を突然停止すれば、製造業者や自動車メーカーなどドイツの生産者が物理的に操業停止に陥る可能性があると指摘した。
ドイツの経済研究機関は今週初め、、ロシアから輸入を直ちに停止した場合、2023年までに欧州最大の経済国であるドイツに急激な景気後退(リセッション)が起きると警告した。
連立政権を構成する自由民主党(FDP)の党首でもあるリントナー氏は、「我々はロシアからのエネルギー輸入をすべて止めたいと思っているが、時間の問題だ」と語った。
一方で、ドイツがロシアのエネルギーに依存し続けるというプーチン大統領の計算は「間違っている」と主張。
「結局のところ、我々はプーチンとはこれ以上取引したくない」と述べた。
しかしリントナー氏の姿勢は、同じく連立政権を担う緑の党のベアボック共同代表の発言と食い違っている。
ベアボック氏は、ドイツは夏までにロシアの原油輸入を半減させ、年末までに全廃し、その後すぐにロシアのガス輸入を削減すると述べた。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻を受け、異なる政治観を持つ歴代政権が追求してきたロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルド・ストリーム2」の開通をすでに中止している。
しかしリントナー氏は、ロシアのエネルギーを即時停止することによるマクロ経済への影響を懸念していると話した。
「私は経済的なコストを心配しているのではない。物理的なシナリオを恐れている。 もし供給を止めなければならない場合、生産ライン全体にとっては経済的なコスト以上の影響が起こるからだ」
「数カ月から数年間にわたる制裁措置の方が望ましいと思う」
その上でリントナー氏は、ロシアのウクライナ侵攻は、インフレや食料不足、低所得国の債務危機など、地政学的・経済的リスクの増大の根本原因であると指摘した。
その一方で、原油とガスをロシアに依存するという、これまでのドイツ政府のやり方を批判した。
「過去20年間のドイツ政府の戦略的誤算であり、今はエネルギーの多様化に取り組まなければならない時だ」
<解説>ファイサル・イスラム経済編集長
リントナー財務相は、ロシアに対して厳しい態度で臨みたいと思っているとともに、完全なエネルギー禁輸措置の足を引っ張っているドイツへの批判を痛感しているようだ。
同氏の基本的なメッセージはこうだ。「完全な禁輸措置は行うが、今ではない。なぜなら、すぐに実行することは不可能であり、おそらくドイツ経済の大部分を停止させることにつながるからだ」
ゼレンスキー大統領は先週、BBCのインタビューで、ロシアを資する石油貿易の即時禁止を要求。ロシア政府の支配する石油メジャーにユーロや米ドルを送っている人々は「他人の流血で金儲け」をしていると非難した。また、EUの行動を妨げているのはハンガリーと並んでドイツであると名指しで指摘した。
リントナー氏は今回、ドイツは可能な限り迅速に行動すると述べたが、それが1年以内であるかどうかは言及しなかった。
ドイツ政府内では、この問題が3党の連立政権にストレスを与えているように見える。リントナー氏は自由市場主義のFDPを率いており、社会民主党(SPD)や緑の党の通常の仲間とは違う。
一方、外相でもある緑の党のアナレナ・ベアボック共同代表は、ロシアの石油への依存は間違いなく年内に終わると述べた。そしてSPDのオラフ・ショルツ首相は、この問題に最も慎重であるように見える。