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2022年5月3日

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国連人権高等弁務官事務所は2日、ロシアによる軍事侵攻開始以来、ウクライナで死亡した民間人は3000人を超えたと発表した。ロシア軍が制圧した南東部の要衝マリウポリでは、製鉄所への攻撃が続いている。他方、南西部の要衝オデーサでは砲撃のため子供が死亡しているという。同日、複数の米政府関係者が、ロシアはウクライナ東部の併合を計画しているものの、その攻勢は「最低限」のものにとどまっているとの分析を示した。

ウクライナの民間人死者3153人を記録=国連

国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR)によると、2月24日の軍事侵攻開始以来、3153人の民間人が死亡したことを確認したが、実際の死者数はこれより「かなり多い」だろうという。

情報を入手しにくい地域の実態把握が困難なことに加え、国連としてまだ確認できていない報告があるとOHCHRは説明。たとえば、ロシア軍が制圧したマリウポリなどでは民間人の死亡が多数報告されているが、その多くをまだ検証できていないという。

マリウポリは開戦当初から、徹底的に爆撃された。市当局は、市内の建物の8~9割が損傷もしくは全壊したと推定し、民間人の間に甚大な被害が出たとみている。人工衛星写真からも、大規模な集団埋葬地が近くで確認されている。

マリウポリの製鉄所に攻撃続く

ウクライナ国家警備隊のデニス・シュレガ司令官は2日、マリウポリでウクライナ兵や市民が最後までたてこもる巨大なアゾフスタリ製鉄所について、ロシア軍が「ありとあらゆる武器」で攻撃していると、ウクライナのテレビ局に話した。

1日には複数の民間人が製鉄所から脱出したものの、「まだ幼い子供数十人が施設の地下に残っている」と、シュレガ司令官は述べ、一部の民間人が避難した直後からロシア軍は砲撃を再開したと説明した。

2日夜には、製鉄所で大規模な火事が発生した様子とみられる映像が、ソーシャルメディアなどで拡散された。ソーシャルメディアでは、ロシア軍の砲撃が出火原因だとも言われている。


マリウポリはすでに製鉄所を除くほぼ全域がロシア軍に制圧された。

ロシアにとっては、マリウポリを押さえれば、ウクライナ南岸全体の掌握が容易になる。そうすれば、親ロシア分離独立派が実効支配するウクライナ東部のドネツクやルハンスクと、ロシアが2014年に併合したクリミアが陸続きになる。加えて、ウクライナの西の隣国モルドヴァでロシア系住民が分離を宣言しているトランスニストリア地域にも、接近しやすくなる。


ザポリッジャへ避難

アゾフスタリ製鉄所からは1日、民間人100人以上が約230キロ離れたザポリッジャへ避難した。ザポリッジャはウクライナが掌握を続けている。

約60日ぶりに地下から屋外に出た人たちは、国連や赤十字国際委員会(ICRC)が手配した車列で移動した。製鉄所内では食料や水、医薬品などが不足しつつあるという。

ロシアは、避難した民間人の一部は、ロシアが支援する分離派が実効支配する東部の村に移動したと明らかにした。ただし国営メディアはのちに、希望者はウクライナが支配する地域へさらに移動するのは自由だと伝えた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日、製鉄所から第1陣の約100人が避難したことをツイート。「明日(2日)、ザポリッジャでみんなと会う。私たちのチームに感謝している! チームは現在、国連と共に、製鉄所からの他の民間人の避難を進めている」と書いたほか、ICRCの協力にも感謝した

ロシア国営メディアの一部は、製鉄所内にまだ500人以上の民間人が残っていると伝えた。

マリウポリ市当局は2日夜、国連と赤十字の協力を得て、3日午前7時(日本時間同日午後1時)にも、民間人の退避を開始することで合意を得たと明らかにした。これについてロシア側はまだ反応していない。これまでに、こうした避難の予定はたびたび失敗し、ウクライナとロシアの双方が合意内容に違反したのは相手だと非難し合っている。

ゼレンスキー大統領も2日夜、毎晩の定例動画演説で、マリウポリから新たに3日、人道回廊を通じて市民がザポリッジャ州内のベルディヤンスク、トクマク、ヴァシリウカに移動する予定だと述べた。「マリウポリの人たちを守るために引き続き、できる限りのことはする」と大統領は話した。

他方、製鉄所には避難せず自力で2日、マリウポリからザポリッジャにたどりついた人たちもいる。そうした1人、ナタリア・ツィントミルスカさんはロイター通信に、「私たちは2月27日から自宅の地下で過ごしていた。絶え間なく砲撃され、やがては空爆も始まった。自宅は完全に破壊された」と話した。

別の避難民は、製鉄所周辺が封鎖されているため、避難バスにたどり着くことができなかったと話した。「街は川の左岸と右岸に分かれている。左岸が完全に封鎖されていたので、バスにたどりつけなかった」とこの女性は話した。

「これほど非人道的な戦争になるとは」

アゾフスタリ製鉄所のエンヴェル・ツキティシュビリ社長は2日、BBCに対して、三方を水に囲まれた製鉄所の地下には無数のトンネルが行き交い、36の地下防空壕が備わっていると話した。核兵器の直撃にも耐えるよう設計された防空壕もあるという。

ロシアが2014年にクリミア半島を併合し、東部ドンバス地方の分離勢力を後押ししたことから、ウクライナ政府は製鉄所内の防空壕群を整備したのだと、ツキティシュビリ社長は話した。

ウクライナ政府は今年初めには、製鉄所の地下ネットワークの詳細な地図や説明書を兵士に与えたほか、備蓄用食料4万包(1包が1人1日分)を製鉄所に提供したのだという。

「それでも私たちは、これほどの大虐殺、これほど非人道的な戦争になるとは思っていなかった」と、ツキティシュビリ社長は話した。

南西部の港湾都市オデーサでも砲撃

黒海に面する南西部の要衝オデーサでも2日夜、ミサイル攻撃があったという。市当局によると、砲撃時に5人が中にいた住宅が破壊され、10代の少年が死亡し、ほかに子供1人が病院へ運ばれた。隣接する東方正教会の教会の屋根も破損したという。

ゼレンスキー大統領は毎晩定例の動画演説で、ロシア軍のミサイル攻撃で14歳の少年が死亡し、17歳の少女が破片で負傷したと発言。東部ルハンスクで19世紀末から続く名門校が破壊されたことと合わせて、「いったいこれは何なのか。いったい何のために? この子供たちや学校の寮が、いったいどうやってロシア国家を脅かしたというのか?」と強く非難した。

主要な港湾都市オデーサはこれまで他の地域に比べると、激しい攻撃は免れてきたものの、4月23日にも集合住宅が攻撃され生後3カ月の赤ちゃんも死亡した。4月30日には空港の滑走路が砲撃で破壊された。

オデーサは街の規模や機能、位置、ウクライナ経済に果たす役割、国際的な知名度などから、戦略的にも象徴的にもきわめて重要な拠点とされている。

南部へルソンではインターネットをロシア経由に

ロシアが占拠する南部ヘルソン州では、ロシア通貨ルーブルの導入に続き、インターネットの通信をロシアの通信インフラを経由するように変更されたという。インターネットのサービス遮断を監視する団体が2日、明らかにした。

「ネットブロックス」(本部・ロンドン)によると、4月30日にはヘルソン州全域でインターネットがほぼ全面的に遮断されていた。これによってウクライナの複数の通信プロバイダーが影響を受けたという。通信回復後の経路を調べたところ、州内のインターネット通信はウクライナの通信インフラではなく、ロシアを経由していることが確認されたという。このため、「今後はおそらく、ロシアの規制や監視、検閲の対象になる」と同団体は指摘している。

ロシアは東部の2「共和国」併合を計画=米大使

アメリカのマイケル・カーペンター駐欧州安保協力機構(OSCE)大使は2日、「最新報告をもとに、私たちはロシアが『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を併合しようとしていると考えている」とワシントンで記者団に述べた。「ロシア参入の是非を問う住民投票を、ロシアは5月半ばにも現地で仕組むつもりのようだ」と、大使は話した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は開戦前の2月21日、ウクライナ東部の分離派が自称する両「人民共和国」の独立をそれぞれ承認していた。この両地域をロシアに編入すれば、ロシア軍はさらに多くの兵をウクライナ東部に送り込むことができるようになる。

ウクライナ東部のロシア軍の攻勢「最低限」=米国防省幹部

米国防総省の幹部は2日、記者団に対して、ロシア軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長が先週、ウクライナ東部ドンバス地方を訪れていたと明らかにした。

匿名を条件に記者団に話した国防総省幹部は、ゲラシモフ参謀総長がドンバス地方にいたことは確かだが、一部で報道されていたように負傷していたのかは確認できていないと述べた。

ゲラシモフ参謀総長については、4月末から前線に自ら向かい、1日には東部ハルキウの戦場から避難したと一部で伝えられている。

国防総省幹部はさらに、ウクライナ東部でロシア軍が展開している攻勢は、「非常に生ぬるい」もので「よく言って最低限」、かつ「活力に欠けている」と話した。

マリウポリへの空爆は続いており、ロシア軍はこれまで以上に精度が低く、低空からの投下が必要な「無誘導」爆弾に頼っているという。

ロシア軍への評価についてはこれとは別に、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の最高司令官だったジェイムズ・スタヴリディス米海軍大将(退役)が1日、アメリカのラジオ局に対して、将軍クラスの戦死が相次ぎ伝えられることについて、ロシア軍の「とんでもない無能ぶり」が原因だと話した。

「2カ月間で軍幹部の将軍を少なくとも12人は失っている」と、スタヴリディス氏は述べ、現代の歴史でこれほど将軍が戦場で戦死するのはかつてなかったことだと話した。

スタヴリディス氏はさらに、ロシア軍がウクライナの民間人を「虐殺」し、「隣国への違法な侵略」を通じて戦争犯罪を相次ぎ繰り広げていると非難した。

(英語記事 Russia attacking Mariupol steelworks after evacuations, says Ukraine commander / Ukraine updates

提供元:https://www.bbc.com/japanese/61303167

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