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2022年5月3日

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ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相が、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーに「ユダヤ人の血が流れていた」と発言し、イスラエルが猛反発している。イスラエル外務省は2日、ロシア大使を呼び出して謝罪を要求した。

ロシアはウクライナへの軍事侵攻について、ウクライナの非軍事化や非ナチス化を実現するためだと主張している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ系だが、ラヴロフ外相の今回の発言はウクライナをナチスと表現することを正当化するためのもの。

イスラエル外務省はラヴロフ氏の発言に対する反発を「明確に示す」ためロシア大使を呼び出し、謝罪を要求した。

第2次世界大戦中のナチス・ドイツによる大虐殺(ホロコースト)では、600万人ものユダヤ人が殺害された。

「ヒトラーにユダヤ人の血」

イスラエルでは4月末、最も厳粛な行事の1つであるホロコースト記念日を迎えたばかり。それから数日後の5月1日、ラヴロフ氏はイタリアのテレビ番組「ゾーナ・ビアンカ」のインタビューでヒトラーについて言及した。

インタビューの中で、ウクライナのゼレンスキー大統領自身がユダヤ系であるにも関わらず、なぜロシアはウクライナの「非ナチス化」のために戦っていると主張できるのか質問されると、外相は「私が間違っているかもしれないが、ヒトラーにもユダヤ人の血が流れていた。(だからゼレンスキーがユダヤ系であることは)全く意味をなさない。最も過激な反ユダヤ主義者はたいていの場合ユダヤ人だと、賢明なユダヤ人は言う」と答えた。

この発言に対し、イスラエル政界からは右派か左派かを問わず、一斉に怒りの声が上がった。

イスラエルのナフタリ・ベネット首相は、「このようなうそは、歴史上最も恐ろしい犯罪をユダヤ人自身のせいにし、ユダヤ人を抑圧した者をその責任から解放するためのものだ」と述べた。

「現在のどのような戦争も、ホロコーストではないし、ホロコーストに似てもいない」

同国のヤイル・ラピド外相は、ラヴロフ氏の発言は「許しがたい」と怒りをあらわにした。

「ラヴロフ外相の発言は許しがたい暴言であると同時に、恐ろしい歴史誤認でもある。ユダヤ人はホロコーストで自らを殺害してなどいない。ユダヤ人自身が反ユダヤだと非難するなど、ユダヤ人に対する最低レベルの人種差別だ」

https://twitter.com/yairlapid/status/1521024411129765888?s=20&t=hRuGiI6jO4MCnnr71P4PjQ


イスラエルのホロコースト犠牲者を追悼する国立記念博物館ヤド・ヴァシェムのダニ・ダヤン館長も、ラヴロフ氏を非難した。

「彼の発言の大半はばかげていて、妄想で、危険だ。あらゆる非難を受けるべきだ」と、ダヤン館長はツイートした。「ラヴロフはホロコーストにおける立場を逆転させている。ヒトラーがユダヤ人の血筋だという全く根拠のない主張に基づいて、犠牲者を犯罪者に仕立て上げている」。

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エルサレムで取材するBBCのジョン・ドニソン記者は、現地での反発の強さから、ラヴロフ氏の発言がイスラエルや世界中のユダヤ人にとってどれほど不快で不謹慎なものかがうかがえると指摘する。ロシア系住民が大勢暮らすイスラエルはここ数カ月、ロシアとウクライナの仲介役として対応しようとすることもあった。

しかし、ドニソン記者によると、イスラエル政府はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して十分な強硬路線をとっていないとの批判にさらされている。それだけに今回の出来事はイスラエルとロシアの関係を試すことになり得る。ラヴロフ氏の発言は多くの人にとっては不快なものだが、ロシア政府支持者の間ではよく見られる話だとドニソン記者は付け加えた。

「ナチス犯罪をユダヤ人のせいに」

ゼレンスキー大統領は2日の演説動画の中で、ラヴロフ氏の発言を非難した。

「ロシア外相は最大の反ユダヤ主義者はユダヤ人自身の中にいるとされると、公然と、何のためらいもなく発言した」

「そして、ヒトラーにはユダヤ人の血が流れているとも主張した。ナチズムに対する勝利を祝う記念日の前夜に、どうしたらこのようなことが言えるのか。ロシアの外交トップがナチスの犯罪をユダヤ人のせいにしているというわけだ。言葉を失う」

「当然のことながら、今日イスラエルで一連の発言が大スキャンダルになっている。しかし、ロシア政府から反論や弁解の言葉はなく、沈黙が続いている。つまり、彼ら(ロシア政府)は外相と同意見というわけだ」

ゼレンスキー氏はまた、ロシア側の沈黙は、ロシア政府の指導部が「第2次世界大戦の教訓をすべて」忘れてしまったか、「おそらく、そもそもその教訓を学んだことがない」ことを示していると付け加えた。

ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、ラヴロフ氏の発言はロシアに「根深い反ユダヤ主義」があることを示す証拠だと述べた。

「ラヴロフ外相は、ロシアのエリート層の根深い反ユダヤ主義を隠しきれなかった。彼の凶悪な発言はゼレンスキー大統領、ウクライナ、イスラエル、そしてユダヤ人に対する侮辱的攻撃だ。さらに広く言えば、今日のロシアが他国に対する憎悪に満ちていることの表れだ」

https://twitter.com/DmytroKuleba/status/1521060367778074629?s=20&t=KwztJh-B00F6wXsK3X37mg

米国務省のネッド・プライス報道官は、ラヴロフ氏の発言は「最低のかたちの人種差別」と「陰湿なうそ」だと述べた。

また、「クレムリン(ロシア政府)は、どこまで低レベルなまねができるか、自分たちには際限がないのだと、自ら証明し続けている」と指摘。ラヴロフ氏の今回の主張が「それを新たに示す一例」となったとした。

ヒトラーの父方の祖父がユダヤ人だという、未確認の説は何十年も前から存在する。ヒトラーの弁護士だったハンス・フランク氏の主張がきっかけで、このうわさに拍車がかかった。

フランク氏は1953年に出版した回顧録の中で、ヒトラーから自分にユダヤ人の先祖がいるといううわさを調査するよう指示されたと書いている。同氏は本の中で、ヒトラーの祖父が本当にユダヤ人だったという証拠を自分は見つけたのだと主張し、陰謀論者の間でこの説が広まった。一方で、主流な歴史学者たちはこれに懐疑的で、通説になっていない。

(英語記事 Israel fury at Lavrov's 'Hitler part Jewish' claimLive Page

提供元:https://www.bbc.com/japanese/61303187

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