
ロシアの首都モスクワで9日、第2次世界大戦の対独戦勝記念日の式典があった。ウラジーミル・プーチン大統領は演説で、ウクライナ侵攻の正当性を改めて主張した。
プーチン氏はこの日の演説で何らかの重要な発表をするとの見方もあったが、そうした内容はなかった。BBCのポール・アダムス外交担当編集委員は、今後の方針についてプーチン氏は手がかりを示さなかったと指摘した。
プーチン氏は、ロシアの国境地帯で北大西洋条約機構(NATO)とウクライナが「私たちにとって受け入れられない」脅威を作り出していると主張。ウクライナ侵攻を改めて正当化しようとした。
また、西側諸国について、ロシアの言うことを聞こうとせず、「クリミアを含めた私たちの領土の侵攻」を準備するなど、他の計画をもっていたと、根拠を示さずに訴えた。
「戦う必要があった」
プーチン氏は、欧州各国やNATOとの間ではここ1年ほど、緊張状態が続いてきたと説明。「ヨーロッパには公平な妥協点を見いだすよう求めたが、向こうは私たちの言うことを聞かなかった」とし、ウクライナ東部ドンバス地方で欧州側が懲罰的な作戦を準備していたと主張した。ドンバス地方では現在、ロシア軍が集中的に軍事作戦を展開している。
プーチン氏は、「キエフでは政府関係者が核兵器入手の可能性について語り、NATOは私たちの国に近い土地に関して探り始めた。そうした行為は、私たちの国と国境にとって、明白な脅威となった。すべてのことが私たちに対して、戦う必要があると物語っていた」と述べた(編注:ウクライナの首都キーウをロシア語ではキエフと発音する)。
また、ウクライナでの「特別軍事作戦」について、必要かつ「時宜にかなった」対応だったと説明。独立した頑強な主権国家による「正しい決断」だったとした。
ロシアは今回の軍事侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいる。この戦勝記念日を機に正式に戦争を宣言し、国家総動員を発令するのではないかとの観測もあったが、そのような変化を示すものはなかったと、アダムズ外交担当編集委員は指摘する。
「母国のため、未来のため」
モスクワ中心部の赤の広場で開かれた式典では、数千人の兵士らがパレードに参加し、雄たけびを上げた。ロシア国歌が演奏され、大砲が撃たれた。
プーチン氏は演説の冒頭、兵士らに向け、「あなたたちは母国のため、未来のために戦っている」と語りかけた。
そして、「兵士や将校の死はすべて痛ましい」、「遺族の面倒を見るため、国としてできるだけのことをする」と述べた。
その上で、第2次世界大戦で死亡したロシア人を追悼するのに加え、ウクライナ東部ドンバス地方で戦っているロシア兵のために1分間の黙祷(もくとう)を呼びかけた。
<関連記事>
- 「ロシアはナチスの残虐行為を再現」とゼレンスキー大統領 第2次大戦終戦記念の演説
- 【寄稿】 「プーチン氏の前にはもはや種々の敗北しかない」 英の国防専門教授
- ウクライナ東部の学校が爆撃され約60人死亡=ゼレンスキー大統領
式典に先駆け、ロシア空軍は「Z」の形の編隊を組んだ戦闘機が赤の広場の上空を飛行するリハーサルを繰り返していた。「Z」はロシアで「特別軍事作戦」への支持を示すシンボルとなっている。
しかしこの日、予定されていた飛行はキャンセルされた。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、天候が原因だと述べた。
「ロシアを被害者の立場に」と専門家
ロシアの軍事問題や北極圏の防衛に詳しいノルウェー防衛研究所のカタジナ・ジスク教授は、BBCニュースに対し、プーチン氏が現在のウクライナでの戦争を第2次世界大戦と結びつけているのを聞いても驚かなかったと述べた。
「ソ連の過去を美化し、ソ連のノスタルジアに乗じている。ロシアに広く存在し、ロシア当局があおるノスタルジアだ」
ジスク氏はまた、プーチン氏について、核攻撃を計画しているというNATOに対する誤った非難を繰り返し、「作り出されたウクライナのナチス」と戦っているとの主張を繰り広げたと指摘。
これは、ロシアを包囲された要塞(ようさい)とみなし、1990年代以降のロシアの失敗はすべて西側のせいだと訴えるプーチン氏の計画の一部だと分析した。
「彼はロシアを被害者の立場に置いている」、「この戦争を正当化し、何らかの意味を持たせるためでもある」。
ジスク氏は、プーチンが演説の中で、戦争に疑問を持つ人をスケープゴートにするために、ロシア国内にいる西側支持の「裏切り者」に触れなかったのは意外だったとも指摘した。
そして、プーチン氏がウクライナに加えてNATOとも戦争していると示唆したのが、興味深かったとした。
(英語記事 Live Reporting)