
ウクライナ侵攻を続けるロシアは、占領した地域の一部でロシアの通貨ルーブルやメディア、インターネットサービスの導入を始めた。こうした動きは特に、ウクライナ南部の都市ヘルソンで顕著だ。
ウクライナは、ロシアがヘルソンで、ウクライナから独立して「人民共和国」を創設することの是非を問う住民投票を計画している可能性があると指摘。こうした投票は違法で、でたらめだとしている。
なぜヘルソンに注力しているのか
ロシア軍はウクライナ侵攻開始から1週間後の3月初旬、ヘルソンを占領した。ウクライナの主要都市が陥落したのはこれが初めてだった。
侵攻前の同市の人口は約29万人だったが、前市長によると住民の約4割が市外へ逃れたという。
ロシアがウクライナ南部を占領し、2014年に一方的に併合したクリミア半島と陸続きにしようとするなら、黒海沿岸のドニプロー川河口にあるヘルソンがカギになってくると、英国防省は指摘する。
ヘルソンにどのような変化をもたらしたのか
ロシア軍当局はヘルソンで、選挙によって選ばれていたイーゴリ・コリハエフ市長を解任した。占領軍に「協力的ではなかった」からだと、ロシア国営RIA通信は伝えた。
ヘルソンとその周辺地域には、親ロシア派の行政機関が設置された。
ウクライナのテレビ番組へのアクセスは遮断され、インターネット・サービス・プロバイダーはロシアのものへ変更された。
ヘルソンの住民は、親ロシア派のラジオ局のニュースを聞くよう促されている。
ロシアの目的は、「自分たちのうそのプロパガンダを、競合のいない情報源にすること」だと、ウクライナは指摘している。
新たな地方政府はまた、ウクライナの通貨フリヴニャを段階的に廃止し、ロシアのルーブルを導入しつつある。
5月1日からは、4カ月間の移行期間が始まった。当局はウクライナ貨幣を銀行に移すことを禁止している。
ヘルソンの住民はBBCニュースに対し、軍当局がルーブルで年金の支払いを始めていると証言した。
しかし多くの人は、受け取ったルーブルを再びフリヴニャに交換するなど、ロシア軍に対するささやかな抵抗手段を見つけようとしている。
住民投票を計画しているのか
ロシアがヘルソン州で、ウクライナから分離して「人民共和国」になることの是非を問う「住民投票とされるもの」の実施を狙っていると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は警告している。
ゼレンスキー氏は票の改ざんに利用される恐れがあるとして、ロシア当局にパスポート番号などの個人情報を渡さないよう、市民に忠告している。
英国防省は4月、諜報活動に関する情報更新の中で、住民投票はロシア軍がウクライナ侵略を正当化するための手段になると指摘した。
しかし、ヘルソン市長を解任させられたコリハエフ氏は、ヘルソンは公式にはウクライナの一部であり、分離しようとする行為は違法だと述べた。
ゼレンスキー氏は、ウクライナ全土に「偽りの共和国」をつくってウクライナを分断するというロシアの計画と合致するものだとしている。
分離主義者の地域をどう変えたのか
ロシアは2014年、クリミア併合の是非を問う住民投票を独自に実施し、その結果に基づいて一方的に併合した。国連はこの住民投票を無効とする決議案を採択している。
同国のヘルソンの扱いとクリミア併合のアプローチには、同じ傾向が見られる。
当時ロシアは、クリミアとロシア南部をつなぐ橋を設置。ルーブルを導入し、フリヴニャを段階的に廃止した。そして現在、親ロシア派メディアが優勢になっている。
ただ、ヘルソンの状況は、クリミア併合から間もなく親ロシア派勢力に占領されたウクライナ東部の2地域の状況により近いと言える。
東部地域のロシアの傀儡(かいらい)政権は、ルハンスクとドネツクにいわゆる「人民共和国」を設置。ルーブルを導入し、住民にロシアのパスポートを与えている。
これらの地域で年金や公務員給与を支払っているのはロシア側だ。
学校では、ロシアのカリキュラムに沿った授業が行われている。
ウクライナは、東部でのこうした「ロシア化」を批判している。
ヘルソンをめぐっては、これまでのところ「人民共和国」の創設のみで、併合は提案されていない。
2014年5月にルハンスクとドネツクで実施された同様の投票は、不正かつ違法だとして広く否定されてる。
しかし、ロシアがこの2地域をロシアに併合するため、さらなる住民投票を計画しているとの話も浮上している。
ウクライナ側は、あらゆる偽の住民投票は無効だと明言している。
(英語記事 How Russia is changing the first city it seized in Ukraine)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61404093