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2022年5月13日

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サラ・レインズフォード、BBC東欧特派員、キーウ

レオニード・プリアツさんと上司がロシア兵たちに背後から撃たれた時、その恐ろしい一部始終を防犯カメラが鮮明かつ詳細に記録していた。BBCが入手した映像の内容を、ウクライナの検察当局は戦争犯罪の疑いで捜査している。

首都キーウ周辺での戦闘が最も激しかった当時、首都へ入る幹線道路はどれも戦場だった。レオニードさんが警備員として働いていた自転車店の周りも同様だった。

けれども、防犯カメラが撮影したのは、戦闘などではない。重武装のロシア兵たちが、非武装のウクライナ人2人を撃ち、敷地内に入り、会社の物を物色する様子が、映像にはっきりと映っている。

敷地内の複数の防犯カメラが記録した映像と、重傷を負ったレオニードさんが助けを求めて電話をかけた人たちの話、レオニードさんを助けようとしたウクライナの志願兵たちの話。これを私たちは照合し、何が起きたのか、出来事の流れをつなぎあわせた。

ロシア兵たちは盗難車に乗って自転車店にやってくる。バンの車体には黒いペンキで、ロシア軍が使う「V」の文字と「戦車特別部隊」の文字が描かれている。兵士たちはロシア軍の軍服を着て、銃口を上に向けて銃を抱え、引き金に指をかけた状態で、入り口に近づく。

レオニードさんは両手を上げ、兵士たちに向かって歩く。武器は持っておらず、危害を加えることはないと示している。

ロシア兵たちは最初、フェンス越しにレオニードさんやレオニードさんの上司と言葉を交わす。映像に音声はないが、だれもが落ち着いている様子で、一緒にたばこを吸うなどしている。やがてウクライナ人の2人は向きを変え、兵士たちもその場を離れるかのように見える。

しかし、ロシア兵はいきなり戻ってくる。しゃがみ、2人のウクライナ人を背後から繰り返し撃つ。

1人はその場で即死するが、レオニードさんはなんとか立ち上がる。止血のため、太ももをベルトで縛る様子さえ見て取れる。よろけながら守衛ブースまで歩いて戻り、助けを求めて電話をかけ始める。

友人のワシリ・ポドリエフスキーさんはこの日、大量出血の続くレオニードさんと、電話で2回やりとりした。民間人は殺さないと言ったそばから、ロシア兵は自分を撃ったのだと、レオニードさんはワシリさんにそう話したという。

「せめて自分で包帯を巻けるか? そう尋ねると、『ワーシャ、なんとかここまではって来たんだ。全身がすごく痛い、すごく苦しい』という答えが返ってきた」とワシリさんは言う。

「なので、ともかくがんばれと励ましてから、地域防衛部隊に連絡し始めた」

ワシリさんが連絡したのは、開戦前は空調機器を販売していた人たちだ。

今や志願兵となったサーシャさんとコスティヤさんは、自分たちの目の前をロシアの戦車が通過する映像を、携帯電話で見せてくれた。ロシア軍の動きを、通りの先にいるウクライナ軍にリアルタイムで伝えるのが、当時の2人の任務だった。

レオニードさんが負傷した時、危険なE40高速道路を越えて救助に向かう役割が2人に与えられた。この道路には今でも、焼かれたロシア軍戦車の残骸が残り、当時の戦闘の激しさを思い起こさせる。

レオニードさんが血を流しながら倒れている間、ロシア兵たちはまだ自転車店の敷地内にいた。

防犯カメラの映像には、兵士たちが発砲しながら中に押し入り、自転車やスクーターを盗む様子が映っている。社長の事務室にまで入り込み、おいてあったウィスキーを勝手に飲み、戸棚を物色する姿も見える。

多勢に無勢で、装備も軽いものしかないサーシャさんとコスティヤさんは、レオニードさんの命が危ないと知りつつも、待機するしかなかった。

「電話で話をしながら、落ち着かせようとした。大丈夫、大丈夫だと。何もかもうまくいく、生きられると」、そう伝えたのだと、サーシャさんは言う。自分たちにできる限り、安心させようとしたのだと。

「そちらへ向かっているとも言った。それで少しは楽になったかもしれない。もしかしたら。でも残念ながら、自分たちがたどりついた時には、もう亡くなっていた」

サーシャさんとコスティヤさんはレオニードさんたち2人の遺体を回収したが、その間もロシアの戦車が通過していったので、隠れなくてはならなかった。

2人を殺害した兵士たちに対する証拠は、十分にある。私たちは防犯カメラ映像を詳細に精査した。殺害の実行犯だと私たちが考える兵士の1人が、顔も含めてはっきり映っている。

仲間の兵士たちが撮影されていることに気づき、防犯カメラのひとつを破壊するまで、かなりの時間が経過する。

私たちはこの映像を、キーウ州の警察本部長に見せた。本部長によると、ロシア軍の撤退後、キーウへ至るこの道路で民間人37人の遺体を発見したという。全員が射殺されていたそうだ。

ウクライナ検察庁は、レオニードさんと同僚の殺害事件を、戦争犯罪の疑いで捜査していると認めた。検察庁はこれまでに、戦争犯罪が疑われる事件を1万件以上記録しているという。

「うちの父はまったく軍とは関係のない、年金生活者でした。連中は65歳を殺した。いったい何のために?」と、レオニードさんの娘のユリア・アンドロシュチュクさんは問いかける。

ユリアさんは外国にいる。戦争のせいでいまだに父親を埋葬することすらできずにいる。

「激怒しているというより、あまりに悲しくて恐ろしい。ロシアの連中はまったく野放し状態のやりたい放題で、次に何をするのかと思うと恐ろしい」

ユリアさんは、父親を殺した当事者がいつの日か、何らかの形で裁判にかけられてほしいと願っている。しかしそれまでは、自分の父親に何があったのか、大勢に正確に知ってもらいたいと考えている。そして、残酷行為が終わってほしいと。

(英語記事 Ukraine conflict: Russian soldiers seen shooting dead unarmed civilians

提供元:https://www.bbc.com/japanese/61432672

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