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2022年5月15日

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ジョナサン・エイモス科学担当編集委員

国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は12日、私たちが住む天の川銀河の中心に存在する巨大なブラックホールを初めて撮影したと発表した。

「いて座A*(Aスター)」と呼ばれるこの天体は、太陽の400万倍という驚異的な質量を持つ。

中央の暗い部分に穴があり、その周りを、巨大な重力で加速された超高温のガスから出る光が囲んでいる。

この光の輪の直径は約6000万キロメートルと、水星が太陽の周りを回る軌道とほぼ同じ大きさだ。

幸いなことに、この怪物ははるか彼方、2万6千光年も離れたところにあるため、私たちが危険にさらされる可能性はない。

今回の調査結果は、学術誌「The Astrophysical Journal Letters」の特別号で発表された。

EHTが撮影した巨大ブラックホールの写真はこれで2枚目。1枚目は、2019年に発表したメシエ87(M87)と呼ばれる別の銀河の中心にある巨大ブラックホールで、大きさは太陽の1000倍以上、質量は65億倍だった。

「しかし、今回の新しい画像は、『私たちの』超巨大ブラックホールなので、特別だと言える」と、EHTプロジェクトに携わっている、オランダ・ラドバウド大学のヘイノ・ファルケ教授は説明する。

「これは『私たちの裏庭』に存在しているからだ。ブラックホールとその仕組みを理解しようと思うなら、細かい詳細まで見えるこのブラックホールが教えてくれるはずだ」


ブラックホールとは何か

  • ブラックホールとは、物質が自ら崩壊した空間領域
  • 重力が非常に強く、光さえも逃げられない
  • ブラックホールは、特定の大きな星が爆発的に崩壊することで発生する
  • 中には、太陽の何十倍もの質量を持つ巨大なものもある
  • 銀河の中心にあるこれらの「怪物」がどのように形成されたかは分かっていない
  • しかし、ブラックホールが銀河系にエネルギーをもたらし、その進化に影響を与えることは明らかだという

この写真は、優れた科学技術を駆使した大作だ。そうでなければ決して実現しなかったはずだ。

地球から2万6,000光年の距離にある「いて座Aスター」は、空にぽつんと浮かぶ小さな天体だ。こうした対象を見分けるには、驚異的な解像度が必要となる。

ブラックホールの質量によって、降着円盤の大きさが決ま。ブラックホールは、内側の暗い部分に位置している(ブラックホールシャドウ。その「表面」は「事象の地平」と呼ばれ、その内側では時空の湾曲によって光線さえも曲げられてしまう。降着円盤の明るい部分は、光がエネルギーを得てこちらに向かって進んでいる部分でドップラー効果がかかっていると言われている


EHTでは、「超長基線電波干渉法(VLBI)」と呼ばれる技術を採用。8つの電波アンテナを広域に配置し、地球と同じ大きさの望遠鏡を仮想的に作り上げた。

この配置により、EHTはマイクロアーク秒単位で空を切り取ることができる。EHTのメンバーは、「月面にベーグルが置いてあったとして、それが見えるほど鮮明な視界」と説明する。

それでも、数ペタバイト(1ペタバイト=100万ギガバイト)のデータから画像を作成するためには、原子時計や高度なアルゴリズム、膨大な時間をかけたスーパーコンピューティングが必要だった。

ブラックホールによって光は曲がり、ブラックホールからは光も出てこないため、真っ暗な「影(シャドウ)」しか見えない。しかし、この暗闇の中で激しく飛び交い輝く物質は、「降着円盤」と呼ばれる輪になって広がる。この光の輪の位置から、そこにブラックホールがあるのが分かる。

以前発見されたM87の画像と比較すると、どこが違うのか不思議に思うかもしれない。しかし、両者には重要な違いがある。

EHTのチームに参加する英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンのジリ・ヤウンシ博士は、「いて座Aスターはブラックホールとしてはとても小さく、M87の1000分の1ほどだ。このため、降着円盤が変化する速度は1000倍速い」と説明する。

「非常に動きの活発なブラックホールで、円環の中に見える『ホットスポット』は毎日移動している」

この現象は、ヤウンシ博士が作成したシミュレーション動画を見ると一目瞭然だ。いて座Aスターを近くで見たと想定したシミュレーションでは、銀河系の中心部に何らかの方法で移動し、電波に敏感な目でその光景を見た場合を想定している。

降着円盤内にある非常に高温で励起したガス(プラズマ)が、光速(秒速約30万キロメートル)にきわめて近い速度で、ブラックホールの周りをまわっている。

明るい領域ではおそらく、物質がこちらに向かって移動し、光に「ドップラー効果」が起きていると思われる。

このように、いて座Aスターの周辺では急激な変化が起きているため、M87 に比べて画像の作成に時間がかかっている。データの解釈も、より困難な課題となっている。

両方のブラックホールに対する望遠鏡観測は、実は2017年初頭の同じ時期に行われた。しかし、サイズが大きく距離も5500万光年と遠いM87は、いて座Aスターと比べると静止しているように見える。

科学者らはすでに、現在我々がブラックホールを説明するために使っている物理学を検証するために、新しい画像の測定値を有効活用し始めている。これまでに研究者らが発見した出来事は、アインシュタインの重力理論や一般相対性理論で示された方程式と完全に一致している。

銀河の中心には超巨大ブラックホールがあるという説は、数十年前から唱えられてきた。宇宙空間において、近隣の星を秒速2万4000キロメートルで加速させる重力の源は、他に何があるだろうか。(なお、太陽は秒速230キロメートルで銀河の周りをゆっくりと移動している)

しかし興味深いことに、2020年にノーベル賞委員会が、いて座Aスターの研究を進めていた天文学者のラインハルト・ゲンツェル氏とアンドレア・ゲズ氏に物理学賞を授与した際、その説明には「超重量のコンパクトな天体」としか書かれていなかった。これは万が一、他の現象で説明できることが判明した場合に備えての、余白を取った表現だった。

だが、今となっては疑う余地もない。

今年8月には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がいて座Aスターを観測する。100億ドル規模のこの望遠鏡には、ブラックホールとその降着円盤を直接撮影する解像度こそないものの、非常に感度の高い赤外線観測装置によって、ブラックホール周辺の環境研究を可能にすると期待されている。

これにより、ブラックホールを取り囲む何百もの星の挙動や物理を、かつてないほど詳細に研究できるようになる。さらに、その領域に星サイズのブラックホールがあるかどうか、目に見えない物質、つまり暗黒物質が集中している証拠がないかどうかも調査される予定だ。

このウェッブ望遠鏡計画を率いる米国リフォルニア大学バークリー校のジェシカ・ルー准教授は、「宇宙をより鮮明に写すことができる新しい設備を手に入れるたびに、私たちは全力で銀河の中心を撮影し、必ず何か素晴らしいことを発見している」と述べた。

(英語記事 First picture of monster black hole in our galaxy

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61432786

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