
企業を取り巻く不確実性への対応には
高度な専門知識を持った視点が不可欠
私たちが「不確実性」という言葉を初めて耳にしたのは、およそ半世紀前にベストセラーになったガルブレイスの「不確実性の時代」だったろうか。当時は遠い未来の不安といったイメージでしかなかったこの言葉が今や、日本企業を取り巻く現実のリスクとして押し寄せてきている。グローバル化やデジタル化の潮流が急速に広がり、デジタル経済や気候変動といった急速に変化するテーマに加え、2020年からはコロナ禍が加わった。私たちは、次々に襲ってくるこれらの不確実性に対して、手をこまねいて過ぎ去ることを待つしかないのか。
企業、団体、自治体といった様々な組織の意思決定者がこのような不確実性をどのようにマネジメントするべきか日々悩んでいる。わからないことが多い中で、それでも意思決定者は判断をしなければいけない。何もせず「判断しないこと」もまたビジネスに大きな影響を与えるからだ。「不確実性の高い社会において、リスクテイクなしで持続的な成長は望めない。意思決定者は戦略的なリスクテイクをビジネスの重要テーマと位置付け、具体的な行動を起こしていくことが求められている」と、岩村 篤氏(デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリービジネスリーダー)は指摘する。

その際に気をつけなくてはならないのは、一口に不確実性と言ってもその性質が様々であることだ。そこで、不確実性を時間軸や発生可能性などで識別し、予測可能な粒度に高めた上で、経営資源を投入していくことが肝要だ。例えばデジタル経済や気候変動は発生可能性という点でいうと、非常に確度が高い。さらに時間軸で分けると、デジタル技術の進化が加速しており、すぐに対処しなくてはならない課題である。その一方で、気候変動は長期で経営の不確実性を高めている。2050年の脱炭素化が世界のスタンダードとなっており、そこからバックキャストして10年単位で腰を据えて取り組まなくてはならない課題だ。
逆にロシアのウクライナ侵攻などは発生を予測するのが非常に難しかった。また、企業がマネジメントするには粒度が粗い。今後、地政学といった国際政治経済や金融市場に及ぼす影響などを分析し、自社に影響が大きい一定程度予測できる不確実性に対して、時間軸で分類しながら適切に対処することが肝心だ。
経営者やマネージャーのような意思決定者にとっては、こうした予想できる不確実性とそうでな不確実性を見極め、マネジメントすることが生産的なリスクテイクの第一歩だといえよう。さらに岩村氏は、この不確実性~リスクの判別にあたっては、高度な専門性を持った第三者の視点が不可欠だと言う。
そこで必要になるのが、企業の立場に立って課題を分析・可視化し、その解決のためにスキルを提供してくれる専門家の存在だ。具体的に言えば、リスクマネジメント専業のアドバイザーを社外に求めることだと岩村氏は示唆する。
ビジネスチャンスが内在する不確実性に
2つのリスクマネジメントのアプローチ
では実際に企業が不確実性を見極めながら、リスクマネジメントを行う上でどのような構え(アプローチ)が必要なのだろうか。デロイト トーマツでは、これまで企業を国内外で支援してきた経験をもとに、リスクマネジメントを守りと攻めに大きく二つに分類している。
「守り」のリスクマネジメントとはレギュラトリー(規制)への対処といったビジネス上不可欠な対応を指している。もう一つの「攻め」のリスクマネジメントは不確実性を価値向上につなげる、すなわち、新たなビジネスの機会と共存しているリスクへの対応だ。企業としては後者を積極的に評価・分析し、リスクをチャンスに変えるとともに、前者を的確に捉えることで、ビジネスへのインパクトを極小化しなくてはならない。つまり不確実性への取り組みの実践においては、正反対のベクトルを持つリスクへの対処を、同時並行で進めていく必要があるのだ。