
ウクライナでは30日、東部の制圧を狙うロシア軍が、主要都市で激しい攻撃を続けた。一部では市中心部まで進軍しているとみられる。そうした中、前線付近にいたフランス人記者がロシアの砲撃によって死亡した。
ロシアは、ウクライナ東部ドネツク、ルハンスクの2州でなるドンバス地方の「完全解放」を掲げ、攻勢を強めている。ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、ドンバス地方の制圧を「絶対的な優先事項」だとしている。
ロシア軍はセヴェロドネツク、リシチャンスク両市を包囲する構えで、ウクライナ部隊の拠点への砲撃を続けている。セヴェロドネツクでは激しい戦闘が続いており、ロシア軍が市街地まで前進している。
同市幹部のロマン・ヴラセンコ氏によると、ロシア軍は2方向から侵入してきたが、ウクライナ軍は持ちこたえているという。ロシア軍が同市を奪取すれば、ルハンスク州のほぼ全域を制圧することになり、戦略上の大きな目標を達成する。
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前線付近で取材するBBCのクエンティン・サマヴィル記者は、「砲弾が毎分、いたるところに着弾していた。セヴェロドネツクは燃えていた」、「ここでは、ロシアは消耗戦ではなく、殲滅(せんめつ)戦を繰り広げている。そして、この前線では今のところ、ロシアが勝っている」と伝えた。
英キングス・コレッジ・ロンドンで防衛を研究するマイケル・クラーク教授は、ウクライナ軍の現状について、セヴェロドネツクの防衛に努めるか、より安全な西方に後退するかの厳しい判断を迫られていると述べた。
ルハンスク州の広報担当によると、セヴェロドネツクでは住宅の9割が破壊されており、ガス、水道、電気はほぼ使えない状態だという。
ロシア軍はまた、ポパスナから北に部隊を進め、セヴェロドネツクまで延びるウクライナの補給ルートを攻撃している。
EU、ロシア原油の禁輸で足並みそろわず
ウクライナを侵攻中のロシアに対して各国が制裁措置を取る中、欧州連合(EU)加盟国が、ロシア産原油の輸入を禁止するのに苦労している。ハンガリーを中心に、反対する国があるためだ。
EUはベルギー・ブリュッセルで首脳会議を開催中で、ロシアへの第6次の制裁の一部として、原油禁輸を協議している。決定には加盟27カ国すべての同意が必要。
全面禁輸にはハンガリーが反対しているため、各国首脳らは30日、輸入量をこれまでの3分の1以下に減らす妥協案で合意した。
EU理事会のシャルル・ミシェル議長は、戦争を続けるロシアの「大きな資金源」を断つ措置になると説明。「戦争をやめるよう、ロシアに最大限の圧力」をかけるものだとした。
また、ロシアの最大手銀行と3つの国営放送局にも厳しい対応を取ることで、EU各国は合意したと述べた。
ハンガリーは、ロシア産原油の主な輸入国となっている。生活費が危機的に上昇している状況での禁輸は、ハンガリー経済にとって「原爆」を落とされるのに等しいと、同国は主張している。
同国のオルバン・ヴィクトル首相は長年、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と盟友関係にある。
この日のEU首脳会議には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がビデオ回線で参加。首脳たちに向け、内部対立を終わらせるよう強く求め、「ばらばらでも断片でもなく、一つにまとまるべき時だ」と訴えた。
フランス人記者が砲撃で死亡
ルハンスク州では、避難用の装甲車がロシアの砲撃に遭い、乗っていたフランス人ジャーナリストが死亡した。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、死んだのはフレデリク・ルクレール=イモフさん(32)だと明らかにした。当局によると、砲弾の破片が車両の装甲を貫通し、首に致命傷を負ったという。
フランスの放送局BFMTVの仕事で、セヴェロドネツク周辺での避難活動を取材していたとされる。
現地当局は、激しく損傷した車両の画像を投稿した。フロントガラスは粉々で、車内には血が残っている。
ルハンスク州の軍事行政の責任者であるセルヒイ・ハイダイ知事によると、この出来事を受け、同州では民間人の避難を停止した。
ロシアは一貫して、民間人を意図的に標的にすることはないと主張している。
バイデン氏、長距離ロケット提供に否定的
ドンバス地方を防衛するウクライナにとって、重火器の不足が最大の懸念となっている。
そのため、アメリカは近く、長距離の多連装ロケットシステム(MLRS)をウクライナに送るとみられている。
しかし、ジョー・バイデン大統領は30日、「ロシア国内を攻撃できる」ロケットがウクライナに送られることはないと発言。これまでの憶測に否定的な考えを示したとも受け止められている。
ウクライナ軍は現在、アメリカから送られた、射程距離が約25キロのM777ハウイツァー榴弾(りゅうだん)砲を使っている。これに対して、提供される見通しのMLRS/M270は、射程距離が最大300キロに及ぶ。
これを入手すれば、ウクライナ軍の能力は大幅に向上し、ロシア国内の標的も攻撃できるようになる。一方で、アメリカや北大西洋条約機構(NATO)加盟国を、ロシアとの直接的な紛争に引き込む危険性をはらんでいる。
(英語記事 Ukraine round-up: EU oil row and journalist killed/EU clinches compromise deal on banning Russian oil/In maps: Battles raging in east Ukraine)