2022年6月25日(土)

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2022年6月1日

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クエンティン・サマヴィル、BBC中東特派員、ウクライナ・リシチャンスク

ウクライナ東部ドンバス地域を制圧しようとするロシア軍は、東部の主要工業都市セヴェロドネツクに入った。現地の州知事の1人によると、砲撃はあまりに激しく、死傷者を数えるのはすでに諦めたという(文中敬称略)。

ほんの数日前、私はセヴェロドネツクの双子都市リシチャンスクにいて、手当たり次第に砲撃されるセヴェロドネツクを、屋根の上から見ていた。街のありとあらゆるところに、分刻みで砲弾が落ちていた。セヴェロドネツクは燃えていた。

リシチャンスクも、ほぼ無人だ。通りにはわずかながら行き交う人がいるものの、ひとけはほとんどない。銃撃や砲撃は止まらない。夏のそよ風が運んでくる空気は、がれきと化した建物や煙のほこりにまみれて、ざらついている。

ウクライナ全土の制圧に失敗したロシア軍は今では、ドネツク州とルハンスク州からなる東部ドンバス地域に照準を合わせている。セヴェロドネツクとリシチャンスクの双子都市が陥落すれば、ルハンスク州全体がロシアの手に落ちる。

ここでロシアが戦っているのは消耗戦ではなく、殲滅(せんめつ)戦だ。そして、この前線では今のところ、ロシアが勝っている。

ルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ州知事は、セヴェロドネツクの主なインフラはすでに破壊されつくしたと話す。知事はすでに、ウクライナ軍はセヴェロドネツクとリシチャンスクから後退せざるを得ないかもしれないと話していた。

3つ目の都市ルビジュネは、平時なら車で北に向かえばすぐに着く。今のルビジュネは、ロシア軍の容赦ない砲撃による破壊力が目にもあらわな場所と化した。リシチャンスクから遠くに目を凝らすと、エメラルド・グリーンに光る地平の向こうに、黒いしみのようなものが見える。小さいルビジュネの街はもうない。焼き尽くされ、焦土と化してしまった。

ルビジュネは約2週間前に陥落した。この戦いは、ロシア軍の戦い方にとって重要な転換点となった。開戦当初の、装甲車の長い車列と歩兵部隊による攻撃はもうなくなった。代わりに今では、徹底的な砲撃(ルビジュネでは1日最大1500発)で相手の抵抗を殲滅させて初めて、地上部隊が前進するという戦術に変わっている。

ロシアには圧倒的な火力、とりわけ砲撃力がある。だからこそ、敵の前進を食い止めるにはもっと最先端の西側の武器が喫緊に必要なのだと、ウクライナの現場指揮官たちは言う。

広大なドンバス地域は、北はセヴェロドネツクから南は黒海沿いの南岸へと至る、ウクライナの東部一帯だ。南岸には、激戦の末にロシア軍が奪取したばかりの港湾都市マリウポリがある。この戦争でロシアが得た、最大の戦果のひとつだ。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先週、ウクライナはここドンバスで連日50~100人の兵を失っていると話した。私はルシチャンスクで、国家警備隊の偵察部隊に所属する上等兵のウラジーミルと出会った。このウラジーミルによると、ロシア軍は状況に対応しつつあるという。最初は「勢いよくやってきて、勢いよくたたかれた」ものの、今では歩兵部隊で奪えないものは、砲撃で破壊しつくしていると。

ルビジュネで過ごした1カ月について、ウラジーミルはこう話した。「マリウポリほどではないにしても、かなり近いものがあった。とても大変だった。大勢が犠牲になった。激しい市街戦もたくさんあったし、砲撃もあった。砲撃はたちまち、たくさんの民家を破壊しまくった。多くの人が地下室に隠れようとして、おかげで視界が効かず、何が起きているか状況判断ができなかった。そのせいで、大勢が亡くなった」。

ウクライナのためにドンバスで戦っている人たちは、男性も女性も、決して未経験ではない。その多くは、2014年からロシアの後押しを得て分離独立しようとしてきた勢力と、戦ってきた経験がある。しかし、今のドンバス攻防戦で直面しているのは、多大な兵員と装備をもつ一国の軍隊だ。経験豊富なウクライナの兵士から見ても、ロシア軍がドンバスで駆使する兵器の量と種類には、圧倒的なものがある。

匿名を希望する、別の国家警備隊隊員にも話を聞いた。

「戦争は初めてじゃない。前のは塹壕(ざんごう)戦だったので、今回は少し違う。ルビジュネに行って、全体像が分かった。大変だった。破砕性手りゅう弾とか、82ミリ迫撃砲とか」

ここまで言って、この隊員はたばこを深く吸った。

もう1人の隊員のウラジーミル上等兵によると、現地の住民について「3割はウクライナ支持、3割はロシア支持、4割はどっちでもいいと思っている」のだという。もちろん、ウクライナを支持する住民の多くがすでにこの地から避難している。


<関連記事 前線からのサマヴィル記者報告>


戦争が始まって以来、軍事アナリストの多くは、ロシア軍の死傷者が増え続けていることや、士気の低さに注目してきた。確かに、ロシア兵の死傷は今も増えているが、ドンバスのロシア軍は決して人手不足に陥っていない。砲弾も不足していない。リシチャンスクとセヴェロドネツクを徹底的にたたいている爆発物は、たっぷりありそうだ。周辺の景色も穴だらけだ。野原や道路には黒い弾孔が数キロにわたって点在している。

「砲撃がしょっちゅうある」と、ウラジーミル上等兵は言う。「まるで悪夢ようだ。こちらが1発撃つと、向こうは10発返してくる。こちらの狙撃手が撃っていると、向こうはその位置に大量のグラード砲を降らせてくる。なので、狙撃手の弾1発に対して、向こうは1000ドル分ほどの銃弾を返してくるんだ。弾をどれだけ使っても気にしていない」。

ウラジミール上等兵と同じように、私がリシチャンスクで出会った兵の多くは、ルビジュネ防衛にも携わっていた。そこですでに地獄を経験した彼らは、2度目にも耐える用意があると話した。

ウクライナ国家警備隊の部隊がBBCに提供した映像には、まるで第2次世界大戦中の街並みを再現したかのような廃墟が移っていた。砲撃で破壊された家並。人と動物の死体だけが横たわる通り。そして、過去の世界大戦経験者と同じような症状の人たち。つまり、砲弾ショック(戦争神経症)だ。ルビジュネを脱出した兵の多くが、手足の震えと絶え間ない頭痛に悩まされている。

「たばことコーヒーがないと、どうにもならない」。「パシャ」と呼ばれる若い中尉は、こう話した。

リシチャンスクの近郊に出ると、大型の大砲がウクライナ側に届いていた。国家警備隊の別の部隊は、オーストラリア政府から届いたばかりの、このM777ハウィツァー砲で作業していた。砲身にはカンガルーが2匹、描かれている。

この榴弾砲(りゅうだんほう)の到着は、もちろん歓迎されている。しかし誰に聞いても、もっと必要だと言う。ウクライナ兵は誰もがとりわけ、もっと長距離の武器が必要なのだと言う。アメリカは、これまでよりはるかに強力な多連装ロケットシステムを送ると合意した。もしそれが間に合えば、ドンバスの戦況は大きく変わるかもしれない。

西側の一部には、ウクライナは領土を割譲して、破壊行為を終わらせるべきだという意見がある。しかし、ウクライナのために防戦し、くたびれながらもロシアの猛攻に立ち向かう兵士たちにとって、それは考えられないことだ。むしろ、これまで多大な損害を重ねてきたからこそ、敵を食い止め押し戻さなくてはならないという彼ら信念は、いっそう強固なものになっている。

ウクライナ全土を一気に制圧するという大きな賭けに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は打って出て、そして負けた。だからこそ彼は、ドンバスで戦術に勝利しようと、大量の軍備を注ぎ込んでいるのかもしれない。しかし、たとえロシアがここで勝ったとしても、ウクライナの敗北を意味しない。

匿名の国家警備隊員に質問してみた。何カ月もの戦闘でくたびれているのに、まだここ前線にいる彼に。勝つには何がいる?

「空があって、空は我々のものだ。ドローンがかなり役に立っている。武器が届いた。多連装ロケットランチャーも。アメリカ、レンドリース(武器貸与法)……」と彼は答えた。

「大事なのは時間だけだ。時間、それだけだ。そうすればやがて、全てがウクライナになる」

(英語記事 'I watched from afar Russia's latest merciless assault on Severodonetsk'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61643975

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