2022年6月28日(火)

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2022年6月5日

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ポール・アダムズ、外交担当編集委員

ロシア軍はウクライナ東部で、ゆっくりながらじわじわと前進している。軍事の専門家たちは、長く続く消耗戦を口にし始めている。こうした中、ウクライナ支援で連帯してきた西側諸国の一致団結に、ひびが入りつつあるのだろうか。

白く輝くクレムリン(ロシア大統領府)の奥から戦いを指揮するウラジーミル・プーチン大統領は、どういうウクライナ支援策が最善で、ロシアをどこまで罰するべきか、しきりに話し合う西側のことをどう思っているのだろう。

プーチン氏からすると、一方ではイギリス、ポーランド、バルト諸国が、自分の絶対的な敗北を要求している。

イギリスのリズ・トラス外相は先月、「ロシアがウクライナ人によってウクライナから確実に追い出されるようにしなくてはならない」、「ウクライナの領土について妥協などあってはならない」と述べた。

しかしもう一方では、フランス、ドイツ、イタリアが別の対応を求めている。

5月初めの時点で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ロシアとウクライナの停戦を呼びかけ、西側諸国は「(ロシアに)屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と釘を刺した。

その翌日にはイタリアのマリオ・ドラギ首相が米ホワイトハウスで、欧州の人たちは「停戦の確保と、信頼できる交渉の再開について考えたいと思っている」と述べた。

マクロン氏が5月28日にドイツのオラフ・ショルツ首相と共に、電話で80分にわたりプーチン氏と語り合い、ウクライナに滞留する大量の穀物などを出荷できるよう、南部の主要港オデーサの封鎖解除を話し合った後、ラトヴィアの副首相はソーシャルメディアでこれを厳しく批判した。

ラトヴィアのアルティス・パブリクス副首相は、「いわゆる西側首脳の中には何人か、政治的現実から完全に切り離されているだけでなく、屈辱を味わいたくてたまらない人がいるようだ」とツイートした。

様々な発言

もちろんロシア政府にとって、本当に大事なのはアメリカ大統領だ。

しかし、ジョー・バイデン大統領は時と場合によって、言うことが微妙に異なる。3月にはプーチン氏を「戦争犯罪人」と呼び、ロシア政府のトップ交代の必要性を促したとも受け取れる発言をしたかと思えば、最近では「ロシア国内を攻撃できる」長距離ロケットシステムをウクライナに提供することには乗り気でない姿勢を示した。

ロシアの元首相で前大統領のドミトリー・メドヴェージェフ氏は、バイデン氏の最後の発言を「合理的」だと評した。しかし、米政府は6月1日になって、長距離ロケット砲をウクライナに提供すると発表。ロシア政府はこれを、「火に油を注ぐ」行為だと非難した。

バイデン大統領は、時に原稿なしでその場で思ったことを口にする。それだけに、政権が熟慮した方針を発表するのは得てして、アントニー・ブリンケン国務長官の役割になっている。

5月半ばにベルリンで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会議で、ブリンケン長官はアメリカとそのパートナー諸国は、「ウクライナがロシアの侵略を押し返し、自国の独立と主権を完全に防衛できるよう、ウクライナが戦場と交渉の場で可能な限り強い立場でいるための支援提供に注力している」と述べた。

力強い言葉だ。しかし、「可能な限り強い立場」をいったいどう定義するのか。そして、ウクライナが自国の独立と主権を「完全に」防衛するとは、具体的には何を意味するのか。

表向きはウクライナについて一致団結している西側だが、その表向きにひびは入り始めているのか?

「ロシア産石油の禁輸についてどれだけもめているかを見れば、一目瞭然だ」と、シンクタンク「欧州改革センター」(本部・ロンドン)のイアン・ボンド外交担当部長は言う。欧州連合(EU)による輸入量削減につながった、何週間にもわたる厳しい交渉のことだ。

EUが素早くロシア産原油の輸入を全面的に禁止するなど、あり得ないことはすでに分かった。バルト諸国とポーランドは速やかな全面禁輸を望んでいるが、エストニアのカヤ・カラス首相はこのほど、「次に決める制裁はどれも、これまでより難しくなる」と認めた。

オーストリアのカール・ネハンマー首相は、天然ガス禁輸は「次の制裁パッケージの検討対象にはならない」と話している。

さらに武器が必要

ウクライナ政府からすると、西側はたくさんのことを約束したが、その全てを履行していないということになる。

アメリカとドイツがこのほど、最新型の多連装ロケットシステムや防空レーダーシステムなどの提供を約束したことは、厳しい戦況に直面するウクライナ軍司令官たちの切迫する要求に、ある程度は応えるはずだ。

しかし、ドイツはこれまでにも約束を速やかに履行しないと批判されているし、バイデン米政権は長距離砲を使ってロシア国内の標的を攻撃してはならないという立場を堅持している。それだけにウクライナ国内では、ロシア側が何の制約もなく自分たちを攻撃してくるのに、なぜ西側はウクライナの防戦に制約を課そうとするのか、疑問視する声もある。

「西側諸国はまるで、『ウクライナには勝ってもらいたいが、勝ちすぎるのも困る』と、その勝ち方を微調整しようとしているかのようだ」と、前述のボンド氏は言う。

西側に戦意などないはずだと、プーチン氏はそう確信して今回の戦争に臨んだのだろうと、広く考えられている。アフガニスタン撤退の大混乱で屈辱を味わったばかりのNATO諸国は、別の国際的失態を避けようとするはずだと。

ロシア軍が戦場で次第に勝ち進むようになったことと、「いずれ欧州は支援疲れに襲われる」という確信から、ロシア政府内では徐々に自信が広がりつつあるという情報もある。ラトヴィアに拠点を置く独立系ニュースサイト「メドゥーザ」が、ロシア政府消息筋の話としてこう伝えた。

今年の冬にロシアが天然ガスの供給を停止すれば、イギリスでは多くて600万世帯が停電するかもしれないと、イギリス政府は分析している。英紙タイムズが5月29日に伝えたこの内容を、ロシア政府は歓迎しているかもしれない。

戦争による影響に西側の世論が強く反発すれば、ウクライナへの支援は低調になるのだろうか。

アメリカのアヴリル・ヘインズ国家情報長官は先月、米議会に対してこの危険を指摘していた。

「食料不足とインフレとエネルギー価格の上昇が悪化すれば、アメリカとEUの決意が鈍るものと、(プーチン氏は)おそらく期待している」と、ヘインズ長官は上院軍事委員会で述べた。

数々の失策や武器供与をめぐる躊躇(ちゅうちょ)をよそに、ウクライナに関する西側の団結は驚くほどしっかりと続いている。

とは言え、すでに入っているひびが、今後広がる可能性はある。

「(ロシアかウクライナか)どちらかが決定的に有利になれば、その国が問題と化す」と、ボンド氏は言う。

「ロシア軍がウクライナ東部の防衛線を完全に突破して、ドニプロー川に迫り始めれば、和平実現のためウクライナはどれだけの領土を諦めるべきかが、重要な論点として順位を上げていく」

同様に、もしウクライナ軍がロシア軍を押し戻し始めれば、「西側では『ロシアが2014年から支配してきたドンバスの領土を奪還しようとするな』と、ウクライナに言う声が出始めるだろう」

この議論は今のところまだそれほど重要とは思われていないが、外交のベテラン、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官がスイス・ダヴォスの会議で、ウクライナはロシアとの和平実現のため領土割譲を検討すべきだと発言すると、ウクライナ内外から猛反発された。

まだまだこの先には、苦悩に満ちた厳しい議論が待ち受けているようだ。

(英語記事 Ukraine war: How long can the Western consensus hold?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61688478

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