2022年6月26日(日)

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2022年6月6日

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ジェイムズ・ランデイル、BBC外交担当編集委員

戦況というのは、刻一刻と変わるものだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻も、決して例外ではない。

ロシアがあっという間にウクライナを制圧するかと当初は思われていたが、ウクライナは抵抗し、ロシアは後退した。続いて今では、ウクライナ東部にロシアが兵力を集中させて、攻勢を強めている。

開戦から100日が過ぎ、この戦争は次にどうなるのか?

可能性のある5つのシナリオを示してみる。実際には1つが他を排除するとは限らず、重複する可能性もあるが、どれも実現可能性という意味ではあり得るものだ。

シナリオその1 「消耗戦」

ロシアとウクライナの両軍がお互いをひたすら消耗(しょうもう)させ続け、戦争は数カ月、もしくは数年続くかもしれない。

双方が勝ったり負けたりを繰り返し、その時々の勢いも行ったり来たりする。どちらも諦めるつもりはない。プーチン大統領は、西側諸国がいずれ「ウクライナ疲れ」状態になり、それぞれの経済危機や中国の脅威に関心が移っていくはずだと考え、戦略的忍耐を示すことが自分にとって有利だと判断する。

しかし西側はそれとは裏腹に、強固な意志を維持し、ウクライナに武器を供与し続ける。ほぼ定着して動かない前線が固まり、次第に戦争は情勢が変化しない「永遠の戦争」になっていく。

オーストラリア軍の退役将軍で軍事研究者のミック・ライアン氏は、「短期的にはどちらも、決定的な作戦上の、もしくは戦略上の勝利を収める可能性はほとんどない。交戦当事者はどちらも、戦略的に決定的な打撃を相手に与えられるという能力を、今のところ示していない」と指摘する。

シナリオその2 「プーチン氏が停戦を宣言」

もしもプーチン大統領が一方的な停戦を宣言して、世界をあっと言わせたらどうなるのだろう? その時点までに獲得した領土を手に、「勝利」を宣言することもできる。

いわゆる「軍事作戦」が完了したと主張することもできる。たとえば、ドンバスでロシアが後押しする分離派は守った、クリミアへの陸上回廊は確保したと。その上で、今度は正義は自分にありと主張し、ウクライナに「戦闘を止めよ」と圧力をかけることもできる。

「欧州には、観念的な和平と引き換えに領土の一部を諦めて降伏しろとウクライナに迫る声がある。これを活用しようと思うなら、ロシアはこのシナリオをいつでも実行に移せる」と、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア専門家、キア・ジャイルズ氏は言う。

こうした意見はすでに、フランス、ドイツ、イタリア各国から出ている。戦争を長引かせる必要はない、世界経済への悪影響を終わらせるべきだ、停戦に向けて働きかけていこうと。

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しかし、これにはアメリカとイギリスと、東欧の大半が反対するはずだ。そこでは政策決定者たちが、ウクライナと国際秩序のため、ロシアの侵略は失敗に終らせなくてはならないと考えているので。

このため、ロシアが一方的に停戦を宣言したとしても、事態の文脈は変わるかもしれないが、戦いは終わらないだろう。

シナリオその3 「戦場で膠着」

仮に、ウクライナもロシアも、軍事的にはこれ以上何も達成できないと結論し、政治的決着に向けて交渉を開始したとしたら?

どちらの軍隊もくたびれ果てている。兵も武器も不足している。血と財で払う代償は、もはやこれ以上戦い続ける理由にならない。ロシアの軍事・経済的損失は、これ以上維持できない。ウクライナ国民は戦争に疲れ、永遠に手に入らない勝利を追い求めてもうこれ以上、死者を出すつもりはない。

西側の支援が続くとは信じられなくなったウクライナ政府が、もう交渉に入るべきだと判断したら? ジョー・バイデン米大統領は、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で明示した。「ウクライナが交渉の場で可能な限り強い立場でいられる」ことが、アメリカの目的なのだと。

しかし、戦場が膠着(こうちゃく)するまでにはまだ何カ月もかかるかもしれないし、政治的決着はどのようなものだろうと実現は厳しい。ウクライナがロシアをまったく信用していないのも、その理由の一つだ。

停戦合意が得られたとしても、持続しないかもしれず、さらに戦いが続く可能性がある。

シナリオその4 「ウクライナにとっての『勝利』」

あらゆる不利な状況をものともせず、ウクライナは勝利と呼べる状態に近いものを達成できるのだろうか? 侵略開始前の位置まで、ロシア軍を押し戻すことができるのだろうか?

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこのほど、オランダのテレビ局に対して「ウクライナは絶対にこの戦争に勝つ」と宣言した。

ロシアがドンバス全域の掌握に失敗し、これまで以上に敗退したとしたら? 西側の制裁はロシアの戦闘力を直撃した。ウクライナは西側から提供された長距離砲で反撃し、伸びきったロシアの補給線の脆弱(ぜいじゃく)な場所をたたき、奪われた領土を奪還したとしたら? ウクライナ軍が専守防衛の軍隊から、攻撃的な軍隊へと様変わりしたら?

もしもこうなったら、その先どうなるのかと、各国の政策決定者がすでに心配し始める程度には、このシナリオにも実現可能性がある。プーチン大統領が敗北に直面した場合、化学兵器や核兵器を使ったエスカレーションを選ぶだろうか?

イギリスの歴史家ナイアル・ファーガソン氏はこのほど、キングス・コレッジ・ロンドンのセミナーでこう述べた。「核の選択肢があるのに、プーチンが通常の軍事的敗北を受け入れるとは考えにくい」。

シナリオその5 「ロシアにとっての『勝利』」

それでは、ロシア「勝利」の可能性はどうか。

開戦当初にはつまずいたものの、ロシアはいまだに首都キーウを掌握し、ウクライナの大半を支配しようとしている。多くの西側当局者はこう強調する。「そうした最大値の目標は、今も据え置かれている」と、西側政府筋の1人は言う。

東部ドンバスでの戦果を足がかりに、ロシアは軍勢を他地域に移転させ、やがては首都キーウを再び標的にする可能性もある。

押し寄せるロシアの大軍勢を前に、ウクライナ軍の苦戦が続くかもしれない。

ゼレンスキー大統領はすでに、最多100人のウクライナ兵が毎日のように死亡し、500人が負傷していることを認めている。

ウクライナ国民は分裂するかもしれない。戦い続けようという人と、平和を求める人で。

西側諸国の中には、ウクライナ支援に疲れる国も出るかもしれない。しかし同様に、ロシアが勝ちつつあると思えば、これまで以上の激しい抵抗を望む国もあるかもしれない。

とある西側の外交官は私に、ロシアへの警告として西側は太平洋で核兵器の実験をしたらどうだろうかと口にした。

この戦争の未来は、まだ定まっていない。

(英語記事 Ukraine war: Five ways Russia's invasion may play out

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61696915

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