
ウクライナでは7日、東部セヴェロドネツクで激しい戦闘が続いた。一方、南東部の要衝マリウポリを防衛中に死亡したウクライナ兵の遺体160体が首都キーウに到着したことが、6日に明らかになった。兵士の遺族が公表した。
ウクライナとロシアは遺体交換の合意の一環として、160人の遺体を引き渡し合った。
ロシア政府は遺体の交換について公式にコメントしていないが、ロシア国営テレビ「チャンネル1」のイリーナ・ククセンコワ特派員は3日、ウクライナ南東部ザポリッジャの接触線で遺体の交換が行われ、それぞれ160体ずつ受け取ったと報告していた。
ウクライナ兵の遺族は6日夜、「殺害されたアゾフスタリ製鉄所防衛隊の遺体」がキーウに到着したとメッセージアプリ「テレグラム」に書いた。
遺体160体のうち、3分の1がアゾフ連隊の戦闘員のものだという。身元確認作業は続いており、最長3カ月かかるという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、同国の情報当局が、生存している戦闘員を解放する計画に取り組んでいるとした。それ以上の詳細は明らかにしなかった。
アゾフ連隊への厳しい対応求める声
ウクライナ政府は全ての捕虜の引き渡しを求めている。だが、ロシアの一部の有力議員からは、一部の兵士、特にアゾフ連隊の戦闘員を裁判にかけるべきだとの声が上がっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「特別軍事作戦」だとするウクライナ侵攻について、ウクライナの非武装化・非ナチス化のためだと繰り返し主張している。ただ、その主張を裏付ける証拠は示していない。
ロシアでは国会議員がアゾフ連隊の兵士を「ナチスの犯罪者」と呼び、検事総長事務所がアゾフ連隊を「テロ組織」に認定するよう要請するなどしている。
民兵組織として2014年に発足したアゾフ連隊は、現在はウクライナ国家警備隊の一部だが、かつては極右とのつながりがあった。
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ウクライナ兵捕虜を「ロシアへ移送」
ウクライナ兵らは数週間にわたり、製鉄所内にとどまったが、5月下旬にロシア軍が製鉄所での勝利を宣言。生存者はロシア側の捕虜となった。
マリウポリで捕らえられたウクライナ兵1000人以上がロシア側に移送されたと報じられている。
ロシア国営イタルタス通信は、ロシアの法執行機関関係者の話として、ロシアの支援を受ける勢力が支配するウクライナ東部地域で拘束されていたウクライナ兵が、調査のためにロシアへ移されたと伝えた。
この情報筋は、さらに多くの捕虜がロシア側へ移されるだろうとしている。
ウクライナ側は正式に認めていないが、ゼレンスキー大統領は先に、国境警備や警察、領土防衛隊らを含む2500人以上のアゾフスタリ製鉄所防衛隊がロシアに拘束されているとの見方を示していた。
ウクライナ政府はマリウポリの最後の防衛隊について、ロシア部隊の前進を妨げ、他の重要な戦場に再配置できないようにするという主要目的を完遂させた後、自分たちの命を守るよう政府が命じたとしている。
一方のロシア政府は、ウクライナ防衛隊は降伏を余儀なくされたとしている。
ロシア軍に包囲されたマリウポリでは、侵攻開始後に子供を含む数万人が死亡したと、ウクライナ当局は推計している。
がれきの下には今も多くの遺体が残っているとされ、コレラの流行が懸念されている。主要な給水路に下水が混入しているとの報告もある。
ウクライナ、IAEAの原発訪問「要請していない」
3月初旬にロシア軍に占拠された欧州最大のザポリッジャ(ザポロジエ)原発をめぐり、ウクライナ側と国際原子力機関(IAEA)が対立している。
IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は6日、ロシアの支配下にあるザポリッジャ原発に代表団を派遣できるよう取り組んでいると述べた。グロッシ氏は、ウクライナ政府が代表団の訪問を望んでいるとした。
しかし、ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトムは7日、ウクライナがIAEAを招いた事実はなく、グロッシ氏がうそをついていると反論した。
エネルゴアトムは怒りに満ちた声明の中で、いかなる訪問も「占領者が居座っていることを正当化する手段」になり得ると述べた。
グロッシ氏は、うそをついているとの指摘は「ばかげている」と述べた。
ゼレンスキー氏、英首相の留任「非常にうれしい」
イギリスのボリス・ジョンソン首相が6日夜に行われた英与党・保守党の信任投票で、党首および首相としての留任が決まったことについて、ゼレンスキー氏は7日、「非常にうれしい」と述べた。
「重要な同盟国を失わずに済んだのは喜ばしいこと。素晴らしいニュースだ」
ロシアによる軍事侵攻をめぐり、イギリスはウクライナの強力な支援国の1つと考えられている。最近では、英政府はウクライナ側に長距離多連装ミサイルシステム「M270」を提供すると発表している。
イギリス人、「ウクライナの雇い兵」として訴追
ウクライナでロシア軍に拘束されたイギリス人2人が、ロシアの後ろ盾を受ける分離独立派が支配するウクライナ東部の自称「ドネツク人民共和国」の裁判所に出廷した。
国際的に認められていない法廷で撮影された映像では、エイデン・アスリン氏とショーン・ピナー氏が、モロッコ人のサウドゥン・ブラヒム氏と並んでいる様子が確認できる。
アスリン氏らは雇い兵として活動したとして訴追されたと報じられている。家族によると、ウクライナ軍に所属していたという。
有罪となれば死刑が言い渡される恐れがある。
(英語記事 Mariupol defenders' bodies in Kyiv - families/Donbas WW1 warfare and Britons in Ukraine rebel court - round-up)