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2022年6月20日

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国際水泳連盟(FINA)は19日、トランスジェンダーの選手について、男性の思春期をわずかでも経験した場合は、女子競技への出場を認めないことを決めた。

FINAはこの日、世界選手権大会が開催されているハンガリー・ブダペストで臨時総会を開き、新方針を決定した。

性自認が出生時の性別と異なる選手のため、大会において「オープン」というカテゴリーの設置を目指すことも決めた。

新たな方針は、FINAのメンバー152人の71%の賛成で可決された。FINAは、トランスジェンダーの選手の「完全参加に向けた第一歩に過ぎない」とした。

新方針に関する34ページの文書は、男性から女性になったトランスジェンダーの選手でも、「タナー段階2(身体的発育が始まる時期)以降の男性の思春期をまったく経験していないか、12歳前の、どちらかであれば」、女子のカテゴリーへの出場資格があるとしている。

この決定により、オリンピック出場を目指しているトランスジェンダーの米大学生選手リア・トーマスさんは、女子のカテゴリーに出場できなくなる。

FINAのフサイン・アル・ムサラム会長は、今回の決定について、「選手たちが競技に参加する権利を守る」と同時に「競技の公平性を守る」ことにも取り組むものだと説明。

「FINAは常にすべてのアスリートを歓迎する。オープンカテゴリーの創設によって、すべての人が高いレベルで競う機会を得る。前例のないことで、FINAが先導しなくてはならない。その過程で自分もアイデアを出して発展させていけるのだと、すべてのアスリートに実感してほしい」と述べた。

賛否の声

イギリス元五輪代表女子水泳選手のシャロン・デイヴィスさんは、女子のハイレベルの大会にトランスジェンダーの選手が出場するのに反対してきた1人だ。今回の決定を受け、「FINAを本当に誇りに思う」とし、次のようにBBCスポーツに話した。

「水泳はさまざまな人を受け入れるスポーツだ。誰でも一緒に泳いでもらいたい。しかしスポーツの基本は、公平性だ。男女両方にとって公平なくてはならない」

「スポーツには本質的に排他的な面がある。15歳の少年を12歳未満の大会で競わせたり、ヘビー級のボクサーをバンタム級に出場させたりしない。パラリンピックにさまざまなクラスがあるのは、すべての人に公平な機会を与えるためだ」

「スポーツにおけるクラス分けの意義は、まさにそこにある。今までは女性だけが一方的に損をしそうになっていた。女性は公平なスポーツに参加する権利を失っていた」

一方、性的少数者のLGBTの擁護団体「アスリート・アリー」は、新しい方針を「差別的、有害、非科学的で、2021年のIOC(国際オリンピック委員会)の原則に沿わない」と批判した。同団体は2月に、米学生選手トーマスさんを支援する書簡をまとめていた。

同団体の政策・プログラム担当のアン・リーバーマンさんは、「新方針で示されている女子カテゴリーへの出場資格の基準は、すべての女性の身体を取り締まるものだ。実施に当たっては必然的に、女子カテゴリーに出場しようとする選手のプライバシーと人権を著しく侵害することになる」と述べた。

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米トーマス選手をめぐって

自転車競技の統括団体、国際自転車競技連合(UCI)は16日、男性から女性に移行する選手が女子のレースに出場できるまでの期間を、これまでの倍にすることを決定している。

競泳界の動きがひときわ注目を浴びているのは、アメリカのトーマスさんが話題になったことが大きい。

トーマスさんは3月、女子500ヤード自由形で優勝。トランスジェンダーの水泳選手として初めて、米大学最高峰のタイトルを獲得した。

彼女は2019年春にホルモン補充療法を開始したが、それまでの3シーズンは、ペンシルヴェニア大学の男子チームで活動。女子チームに移ってからは、記録を塗り替えている。

300以上の大学、アメリカ代表チーム、オリンピック選手らが、トーマスさんとすべてのトランスジェンダー、ノンバイナリーの水泳選手を支持するオープンレターに名を連ねた。一方で、トランスジェンダーの出場を認めることを懸念する声も、アスリートや関係組織などから上がっている。

トーマスさんのチームメートの一部やその親たちは、彼女の移行の権利は支持するものの、女性として競うのは不公平だとする手紙を匿名で書いた。

米水泳連盟は2月、トランスジェンダーの選手に関する方針を変更。大会の36カ月前から男性ホルモンのテストステロン値を検査するなどしたうえで、不公平を解消するための基準を満たせば、エリートレベルの大会に出場できるようにした

昨年の東京オリンピックでは、重量挙げのニュージーランド代表のローレル・ハバード選手が、トランスジェンダーだと公表している選手としては初めて、生まれつきの性別とは異なるカテゴリーでオリンピックに出場した。

専門家らの見解

FINAの専門家委員会では、さまざまな意見が出た。

生理学者で、ヒューマンパフォーマンス研究の第一人者であるマイケル・ジョイナー博士は、「男性の思春期中の(男性ホルモン)テストステロンは、人間の身体活動の生理学的決定要因を変化させる。性差に基づく人間の身体活動能力に差が出るのはこのためで、これは12歳までに明確になると考えられいる」と説明。

「テストステロンが抑制されても、そのパフォーマンス向上効果は維持される」と、博士は話した。

活動家、研究者、弁護士の肩書をもつエイドリアン・ジューコ博士は、「この方針は、水中スポーツにおいて、トランスジェンダーや多様な性別のアスリートの参加を完全に受け入れ、サポートするための最初の一歩に過ぎない。やるべきことはまだたくさんある」とした。

運動生理学者で、運動能力の性差と年齢差が専門のサンドラ・ハンター博士は、「14歳以上になると、男子と女子の差はかなり大きくなる」と指摘。「そうした身体的優位性の一部は、身長、手足の長さ、心臓の大きさ、肺の大きさなど構造的なもので、男性から女性への移行でテストステロンの抑制や減少があっても保持される」と説明した。

水泳のオリンピック金メダリストのサマー・サンダースさんは、「公正な競争は、私たちのコミュニティーの基盤であり不可欠要素だ。このアプローチは、毎年何百万人もの少女や女性が参加している既存のスポーツにおいて整合性を守るものだ」と述べた。

スポーツ界最大の議論

女子スポーツにトランスジェンダー女性を含めることをめぐっては、スポーツ界の内外で意見が分かれている。

多くの人は、トランスジェンダーの女性について、彼女たちが保持しているかもしれない利点を理由に、女子スポーツで競うべきではないと主張する。一方で、スポーツはより包摂(ほうせつ)的であるべきだと主張する人もいる。

世界陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長は、スポーツ団体がトランスジェンダーのアスリートに対する規制を誤れば、女子スポーツの「完全性」と「未来」は「非常にもろい」ものになると述べている。

議論の核心は、包摂性、スポーツの公平性、安全性の複雑なバランスが絡んでいる。基本は、トランスジェンダーの女性が不当に有利になったり、共に競技する選手にけがの脅威を与えたりせずに、女子のカテゴリーで競えるか、ということだ。

トランスジェンダーの女性が特定のスポーツに出場するためには、多くの規則に従わなくてはならない。多くの場合、競技前の一定期間で、テストステロンの値を一定量まで下げることなどが求められる。

しかし、FINAの決定で強調されたように、男性の思春期を経験したアスリートは優位性を保つという懸念がある。これは、テストステロンを下げることでは対処し切れない。

(英語記事 Fina bans trans swimmers from women's elite events

提供元:https://www.bbc.com/japanese/61862354

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