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2022年7月22日

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ポール・カービー、BBCニュース

イタリアのマリオ・ドラギ首相が21日、辞任した。「スーパーマリオ」と呼ばれた人物が連立政権のリーダーをやめたことで、同国は新たな選挙と数カ月にわたる政情不安に向かっている。

ドラギ氏は国内外で人気のある政治家だ。新型コロナウイルスのパンデミックからの経済回復を主導するために首相に選ばれたが、それから1年半がたち、さまざまな党派が集結した連立政権が崩壊した。

何が起きているのか

イタリアは9月25日に総選挙を行う予定で、それまではドラギ氏が暫定首相にとどまる。イタリアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、主要7カ国(G7)の一員であり、欧州連合(EU)で3位の経済規模を持つ。そのため、誰が同国を主導するかは重要だ。

表面上は大きな変化はないが、議会が解散するため、2023年度予算案や必要とされている構造改革が滞ってしまう。

そして次にどんな展開になるにせよ、イタリアにおける大連立政権は終わる。

現時点では、右派政権が誕生するとの公算が大きい。次期首相として有力視されているのは、極右「イタリアの同胞」のジョルジア・メローニ党首(45)。同党はドラギ政権には加わっていなかった。

「そこまでの悲劇ではない」

ドラギ氏はイタリアの政権を安定させ、パンデミックからの回復の中でEUの信頼を勝ち取った。しかし、各政党が2023年5月に予定されていた選挙を見据える中、ドラギ内閣はどんどん分裂していった。

ドラギ氏自身も、重要な改革について閣内で反発が高まっていったことを認めている。

そして今、新しい信任を得た政権を秋までに形成する必要に迫られている。

英キングス・コレッジ・ロンドンのイタリア政治センター所長を務めるレイラ・シモーナ・タラーニ教授は、「これはそこまでの悲劇ではない」と指摘する。

「選挙は迅速に行われるだろう。国際投資家にとっても良いことのはずだ。選挙活動の期間も短いだろう」

イタリア経済も機能しなくなることはないだろう。暫定政府は政策をゆっくりと進め、向こう数カ月で採決しなければならない2023年度予算案にも取り掛かるはずだ。

伊ルイス大学政治学部長のジョヴァンニ・オルシナ教授も、「本格的な政府の方がずっといいのは否定しないが、さまざまな事柄を続行できる」

イタリアは極右へ傾くのか

メローニ氏には願いがある。この極右「イタリアの同胞」の党首はドラギ政権とは手を結ばず、繰り返し早期選挙を求めていた。

ネオ・ファシズムにルーツを持つ同党は、世論調査で支持率22~23%と1位を獲得。同じく極右の「同盟」と中道右派のフォルツァ・イタリアと共に、次期政権の有力候補となっている。

メローニ氏は1980年代のネオ・ファシズム政党「イタリア社会運動」に影響を受けており、「イタリアの同胞」もネオ・ファシストの支持を集めていると批判を浴びている。移民や社会的・文化的問題については、国粋主義を標ぼうしている。

しかしオルシナ教授は、現在のメローニ氏を、主に右寄りの保守派の支持を集めている、右派強硬派の政治家とみている。

ドラギ氏はウクライナの強力な支援者であり、G7やNATO、EUで重要な役割を担ってきた。次期政権が右に傾けば、こうした姿勢も変わるだろう。

ルイジ・ディ・マイオ外相は先に、「同盟」やポピュリスト政党「五つ星運動(M5S)」がロシアのウラジーミル・プーチン大統領におもねっていると批判した。しかしメローニ氏は強い「大西洋主義」を取り、進行当初からウクライナを支持している。

メローニ氏はまた、以前はEU懐疑派と見られていたが、EUのパンデミック復興支援を受け、国民がEUにおおむね好意的であることを知っている。

イタリア政界の分裂

9月の総選挙で右派が勝利すれば、数週間で連立政権が成立するだろう。しかしオルシナ教授は、世論調査の結果は選挙期間中にめまぐるしく変わることもあるため、全く違う結果になる可能性もあるとみている。そうなれば、連立交渉は長引くことになる。

イタリアで政治危機は珍しいことではない。次の政権は第2次世界大戦以降で70番目の政権となる。しかし政界の変わり方は速い。

オルシナ教授は、「イタリア政治は流動的になっている。有権者はすぐに意見を変える。政党も弱く、分裂が絶えない」と説明する。

世論調査で支持率20%以上となったのは「イタリアの同胞」と中道左派の民主党だけだ。「同盟」と「五つ星運動」を除けば、10%以上の支持率を確保している政党はない。また、「五つ星運動」と中道右派の「フォルツァ・イタリア」では議員の離反があった。

キングス・コレッジ・ロンドンのタラーニ教授は、右派政党が過半数議席の獲得に苦労するかもしれず、代わりに中道と左派、そして一部の中道右派が連立を組む可能性もあると述べた。

EUの新型ウイルス支援の危機

イタリアはEUの新型ウイルス復興基金の最大の受け手であり、助成金と融資で合わせて1910億ユーロ(約26兆7900億円)を受け取った。しかし、条件としてさまざまな改革を迫られているため、次の資金注入を受けられないのではないかという懸念もある。

最初の約250万ユーロは今年5月に支給されており、イタリア国民は2回目を危険にさらしたくない。無党派のエマヌエラ・ロッシーニ議員は、イタリアはまず第一に国家の復興計画の実行を考えるべきだと話した。

「(イタリアの復興は)信頼できる相手に委ねられている。欧州委員会とは、緊急性の高いものについては協力していくつもりだ」と、ロッシーニ議員は述べた。

EUが求める改革には、経済や司法体系の改善に加え、デジタル化や環境政策の推進も含まれている。ドラギ首相はまた、イタリアの貴重な海岸の利用権開放を含む、競争法改革にも苦慮していた。

タラーニ教授は、EUの基金は「ほとんど自動的」に支給されるため、心配することはほとんどないと述べる一方、競争法改革についてはリスクがあると指摘した。

経済学者のロレンツォ・コドーニョ氏は、連立が崩壊したことで、イタリアが政策や改革を短期間で行えなくなったことは大きな打撃だと述べる。その半面、選挙が早まったことは、政策をめぐる膠着(こうちゃく)が生じるよりはましかもしれないと話した。

(英語記事 What next for Italy after fall of Draghi?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-62260985

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