2022年8月14日(日)

BBC News

2022年7月23日

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ウクライナ産の小麦など穀物の輸出が滞っている問題で、ロシアとウクライナは22日、黒海に面したウクライナの港から農産物の輸出再開を可能にするため、個別の合意文書にそれぞれ署名した。ロシアとウクライナの二国間の直接合意は実現しなかった。ロシア軍による黒海封鎖でウクライナに滞留していた数百万トンの穀物が、これによって輸出できることになる。

ロシアが2月24日に侵攻を始めて以降、ウクライナの穀物が世界的に不足しており、数百万人が飢餓の危機にある。

ただし、ウクライナ政府はロシア政府と直接の合意に署名することを拒否。ロシアによるあらゆる「挑発行為」には「即座に軍事的に対応する」と警告した。

調印式は交渉仲介を担ったトルコのイスタンブールで行われ、ロシアからはセルゲイ・ショイグ国防相、ウクライナからはオレクサンドル・クブラコフ・インフラ相が出席したものの、同じテーブルには同席しなかった。

ロシアのショイグ国防相が先に合意文書に署名し、続いてウクライナのクブラコフ・インフラ相が同一内容の合意文書に署名した。

外交関係者らによると、主な合意内容は次の通り。

  • 農産物を載せた貨物船が航行中は、ロシア軍は黒海に面したウクライナの港を攻撃しない
  • 機雷が敷設された水域では、ウクライナ艦艇が貨物船の安全航行を誘導する
  • 密輸に対するロシアの懸念に対応するため、トルコは国連の支援を受けて貨物船を検査する
  • 黒海からのロシア産穀物や肥料の輸出も可能にする

交渉成立まで2カ月かかったこの合意は、120日間有効。イスタンブールに設置される調整センターで、国連とトルコ、ロシア、ウクライナの代表が、船の安全な航行など合意の履行を監視する。双方が合意すれば、合意は延長される。

交渉を仲介した国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、BBCのオーラ・ゲリン記者に対して、国連のトップとして自分が関わった中で今回の合意が最も重要なことかもしれないと述べた。

グテーレス氏は合意成立を受けて、「本日、黒海に光がともっている。希望の光だ」と歓迎した。

重要な仲介役を担ったトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、今回の合意が終戦へ向けた第一歩になることを期待すると述べ、「ウクライナ、そしてロシアと共に私たちが歩みだしたこの一歩が、願わくば平和への道を復活させるよう期待する」と話した。

一方で国連のグテーレス事務総長はより慎重で、「現時点では、和平協議につながる条件は見いだせない」と述べた。

ロシアのショイグ外相は合意調印後に記者団に、ロシアは合意にもとづく履行義務を受け入れたと述べ、「機雷が除去され、港が再開されることに、つけこんだりはしない」とも話した。

ショイグ外相は合意文書調印に先駆けた記者会見でも、「今後数日で輸出再開のプロセス開始」が可能になるとの見方を示していた。「ウクライナの港から農産物の輸出を始めるだけでなく、明らかにロシアの港からの農産物や肥料の輸出も可能になる」と外相は述べていた。

すでに価格が2%下落

ウクライナの穀物2000万トン以上の輸出が解禁されるという見通しから、合意成立前の22日の時点ですでに、小麦の市場価格は2%下落した。

22日夜にはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国内には約100億ドル(約1兆3700万円)相当の輸出可能な穀物が滞留していると認めた。

その一方でゼレンスキー氏は、ロシアが「挑発を重ね、ウクライナや国際社会の努力を損なおうとする」可能性があると警告。その上で「私たちは国連を信用している」として、合意の履行を保証するのは国連の役割だと強調した。

しかし国連のグテーレス事務総長はBBCに対して、仮にロシアが合意に違反したとしても、国連はロシアを罰する手段はもたないと認めた。ただし、そのような合意違反は「まったく受け入れられないスキャンダルで、国際社会全体がきわめて厳しく反応する」ことになるとも述べた。

ウクライナの穀物封鎖で、世界的な食糧危機が発生していた。小麦から作るパンやパスタ、さらには食料油や肥料の価格も高騰している。

アメリカ政府はロシアに速やかな対応を要求。ホワイトハウスの国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、「世界で最も弱い立場の人たちが、さらに不安定で栄養不良の状態に陥らないよう」にすることが急務だと述べていた。

ロシアはかねて、自分たちはウクライナの港湾を海上封鎖していないと主張。逆に、水中に機雷を敷設したのはウクライナで、ロシアの港の稼働を遅らせたのは西側の制裁が原因だと、批判に反論してきた。

他方ウクライナは、ロシア海軍が自分たちの農産物などの輸出を阻止し、ロシア軍がウクライナ農家から穀物などを大量に盗んでいると非難していた。

アフリカにとっては

ケニア・ナイロビで取材するBBCのアン・ソイ記者は、穀物輸出再開の合意は、アフリカ東端の「アフリカの角」と呼ばれる地域を、大きく安堵(あんど)させるものになると指摘した。

同地域は現在、干ばつやパンデミック、異例なほどのイナゴの襲来、ウクライナでの戦争など、複数の要因が合わさったことによる、深刻な食糧不足に直面している。

(英語記事 Ukraine war: Deal signed to allow grain exports to resume by sea

提供元:https://www.bbc.com/japanese/62274554

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