
ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーが所有していたとされる腕時計が29日、アメリカのオークションで110万ドル(約1億4700万円)で落札された。ユダヤ人指導者からは「忌まわしい」出品だと非難の声が上がっていた。
匿名の人物が落札したフーバー社製の腕時計には、鉤(かぎ)十字が描かれ、「AH」のイニシャルが刻まれている。
1933年から1954年にかけてナチス・ドイツを率いたヒトラーは、1100万人もの人々を組織的に殺戮(さつりく)した。このうち600万人はユダヤ人であることを理由に殺害された。
腕時計の商品カタログには、このファシストの指導者がドイツ首相に就任した1933年に、誕生日プレゼントとして贈られた可能性があると書かれてある。
競売会社は、1954年5月に約30人のフランス兵がヒトラーの山荘ベルクホーフを襲撃した際、記念品として持ち去ったものだと鑑定結果を明らかにしている。
時計はその後、転売され、数世代を経て現在へと受け継がれてきたと考えられている。
今回のオークションでは、ヒトラーの妻エヴァ・ブラウンのドレスや、ナチス関係者のサイン入り写真、ドイツ語でユダヤ人を意味する「Jude」と刻印された黄色い布製のダヴィデの星(ユダヤ民族を象徴するしるし)などが出品された。ホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺)では、ナチスはユダヤ人を隔離し苦しませることを目的に、黄色い識別が付いた腕章やバッジを身につけさせられていた。
「忌まわしい」出品
米メリーランド州の競売会社アレクサンダー・ヒストリカル・オークションズでのオークションに先立ち、ユダヤ人指導者たちからは非難の声が上がっていた。
34人のユダヤ人指導者が署名した公開書簡は、今回の出品は「忌まわしい」ものだとし、ナチスに関連する物品をオークションから撤去するよう求めた。
欧州ユダヤ教会の会長、メナケム・マーゴリン師は、オークションが「ナチスが意味するものを理想化する者」を応援することになると指摘した。
「歴史の教訓を学ぶ必要があることに疑いの余地はなく、ナチスを史料としてしかるべきものは確かに博物館や高等教育の場に保存されるべきだが、今回出品されたものは明らかにそういう類ではない」
競売会社側は出品に先立ち、今回のオークションは歴史の保存が目的で、出品物のほとんどは個人が所蔵するかホロコースト博物館に寄贈されると、ドイツメディアに語った。
同社のミンディ・グリーンスティーン上級副社長は、ドイツの公共国際放送ドイチェ・ヴェレに対し、「良い歴史であれ悪い歴史であれ、保存されなければならない」、「歴史を破壊してしまえば、それが起きたことを証明するものがなくなる」と述べた。
同社が提出した書類には、ヒトラーが実際にこの腕時計を着用していたことを示す証拠は提示できないと記されている。ただ、第三者の専門家による鑑定では、「十中八九」ヒトラーのものだと結論づけられている。
この時計は100万ドル以上の値をつけたものの、競売会社が当初見積もっていた200万ドル~400ドルには届かなかったと、ドイチェ・ヴェレは報じた。