2022年9月27日(火)

BBC News

2022年9月13日

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スティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長、モスクワ

1週間のニュースを伝えるロシア国営テレビの看板番組は通常、政府の成果を強調する。

だが、この前の日曜日(11日)の放送は、珍しく告白で始まった。

「(ウクライナでの)特別作戦の前線では、これまでで最も厳しい1週間になった」。司会者のドミトリー・キセレフ氏が、沈痛な面持ちで述べた。

「特にハルキウの戦線では、数で勝る敵軍の猛攻を受け、(ロシア)部隊はそれまで解放していた町から撤退を余儀なくされた」

「解放」とは「制圧」のことだ。ロシアは数カ月前にそれらの地域を占拠したが、ウクライナ軍が電光石火の反攻を実施。ロシア軍は、ウクライナ北東部でかなりの支配地を失った。

しかし、ロシアの国営メディアは平静を装っている。ハルキウ州で起きたことを、公式には「撤退」と呼んでいない。

政府発行紙ロシースカヤ・ガゼータの最新号は、「ロシア部隊がバラクリヤ、クプヤンシク、イジュームから不名誉にも逃げたといううわさを、ロシア国防省は否定した」とし、こう報じた。「部隊は逃げていない。これは事前に計画された再編成だ」。

タブロイド紙モスコフスキー・コムソモーレツでは、軍事アナリストが別の見解を示した。「敵を過小評価していたことはすでに明らかだ。(ロシア軍は)対応に時間がかかりすぎ、崩壊した。(中略)その結果、私たちは敗北を喫し、部隊を撤退させ包囲されないようにして損失を最小限に抑えようとした」。

有力者からも警告

この「敗北」は、親ロシアのソーシャルメディアチャンネルや、「愛国的」なロシア人ブロガーの間で怒りを呼び起こした。自分たちの軍が過ちを犯した、という非難が噴出している。

ロシア・チェチェン共和国の有力指導者、ラムザン・カディロフ氏も同様だ。

「一両日中に戦略が変更されなければ、国防省や国の指導者に、現地の本当の状況を説明しなければならなくなるだろう。非常に興味深い状況であり、驚くべき事態だ」と、カディロフ氏は警告した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を命じてから、半年余りがたった。ロシアの政治家、コメンテーター、アナリストたちは当初、政府が「特別軍事作戦」と呼ぶものについて、数日以内に終わるとテレビで予想していた。ウクライナ国民はロシア軍を解放者として迎え、ウクライナの政府は簡単に崩壊するだろうと話していた。

だが、そうはならなかった。

それどころか、半年以上たった今、ロシア軍は支配地を失い続けている。


この状況で重要な問いとなっているのが、プーチン氏は政治的な影響を受けるのかということだ。

プーチン氏は20年以上にわたり、ロシアのエリートたちの間で評判を得てきた。勝者であり、いつも窮地からの脱出に成功しており、要するに無敵である、という評判だ。

私はプーチン氏のことを、有名な脱出奇術師ハリー・フーディーニ氏のロシア版ような存在だと考えることがよくある。どんな結び目や鎖でつながれても、プーチン氏はいつも逃げてきた。

だが2月24日を境に、それが変わった。

この半年間は、ウクライナを侵攻するというプーチン氏の決断が大きな誤算だったことを示している。ロシアは素早い勝利を果たせず、長く血なまぐさい攻撃に陥り、不名誉な敗北を繰り返している。

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権威主義的な指導者から無敵のオーラが失せると、問題が生じる。プーチン氏は、ロシアの歴史を思い知ることになるだろう。戦争をして勝利できなかったロシアの過去の指導者は、良い結末を迎えていない。

ロシアが日本に敗れたことで、1905年に最初のロシア革命が起きた。第1次世界大戦での軍事的失敗が、1917年のロシア革命を招き、皇帝を退位させた。

ただ、プーチン氏は公に敗者となるつもりはない。

ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は12日、「(ロシアの)特別軍事作戦は続いており、当初設定したすべての任務が完了するまで継続される」と記者団に話した。

ここでもう1つの重要な問いが生じる。プーチン氏は次に何をするのかだ。

プーチン氏の考えと計画を知っている人を探すのは困難だ。彼が軍や情報機関のトップから得ている情報がどれだけ正確かが、それを大きく左右しているかもしれない。

だが、分かっていることが2つある。プーチン氏はめったに間違いを認めない。そしてめったにUターンしない。

国営メディアの報道からは、戦地での失敗を西側によるウクライナ支援のせいにする兆しが、すでに見えている。

「NATO(北大西洋条約機構)の支援を受けたキーウ(ウクライナ)が反攻を開始した」と、ロシア国営テレビは伝えた。

そして、落ち着かない気分にさせる問いがもう1つ、数カ月前から後景に漂っている。通常兵器で勝利できなければ、プーチン氏は核兵器を使うのか、というものだ。

ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジヌイ総司令官はほんの数日前、「特定の状況でロシア軍が戦術核兵器を使うという直接的な脅威はある」と警告した。

今のところ、ロシア政府にパニックの明確な兆候はない。国営テレビは前向きな言葉を発信。ウクライナのエネルギーインフラに対するミサイル攻撃については、「特別作戦における転換点」と表現している。

ロシアが支配地を失っているとの報道がウクライナから届いていた10日、モスクワではリラックスした様子のプーチン氏が、ヨーロッパで最も高さのある新型観覧車のオープニング式典に参加していた。

プーチン氏はなおも、自らの「特別作戦」がモスクワの新たな大観覧車のように、自分に有利に動くと信じているようだ。

(英語記事 Will Ukraine's advance have consequences for Putin?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-62885089

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