2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年10月10日

 9月14~16日にウズベキスタンのサマルカンドで開かれた上海協力機構の首脳会談で、モディ印首相がプーチンに対し「今は戦争の時代ではない」と述べたことが注目を集めた。モディの発言は、プーチンのウクライナ戦争への苦言であると受け止められている。また、習近平がウクライナ戦争の成り行きへの懸念を示したこともロシア当局は認めている。

Luka Rakocevic / mehmetbuma / Pict Rider / iStock / Getty Images Plus

 2月には中印はプーチンによるウクライナ侵略を非難する国連決議に棄権するなど、両国はプーチンを暗に支持しているように見えた。習近平は、ロシアと中国の友情に「制限」はないと宣言したばかりであった。モディは中立を示してきたが、これはプーチンへの暗黙の支持のように見えた。それだけに、サマルカンドでの首脳会談は、大きな驚きを与えた。

 エコノミスト9月22日号の解説記事‘Why Narendra Modi criticised Vladimir Putin in Samarkand’は、モディがサマルカンドでプーチンを批判した背景を解説し、ロシアは友人の気分を損ない、アジアでの影響力を失っている、と述べている。主要点は次の通り。

・習もモディもロシアを見捨てようとしているわけではない。両国は西側の制裁下にあるロシア原油の最大の購入者である。インドはロシアの兵器に相当依存している。しかしウクライナで示されたロシアの武器の明らかな短所はインドを心配させているほか、インドは西側からの武器購入を増やしているので、西側を疎外することを避けたいとも思っている。

・プーチンの戦争で起こった食料とエネルギー価格の急上昇は習とモディにとり国内的に大きな頭痛である。インドは、ウクライナの民間人への広く記録されているロシアの残虐行為に困惑している。何よりも、強者は敗者を嫌う。プーチンは敗者のように見え始めている。サマルカンドから帰っての予備役招集とウクライナ領の併合の決定は強さではなく、絶望を示す。

・モディにはプーチンに異議を唱える今一つの理由がある。インドは中央アジアを経済・安全保障上の利益がかかる隣人と長い間考えてきた。敵対的なパキスタンとタリバン支配のアフガニスタンがインドの役割を地理的に制約してきた。それでインドはロシアにユーラシア・ワゴンをつないで来た。しかしウクライナ戦争は中央アジアでのロシアの卓越した影響力を弱くし、インドの影響力もそれとともに弱まっている。

・中央アジアにおける力の空白は、中国によって埋められている。習近平は上海協力機構会合に向かう途次、カザフスタンに立ち寄り、トカエフ大統領にカザフの独立、主権、領土一体性(ロシアが潜在的にそれに挑戦しうる唯一の国である)への中国の支持を再保証した。

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 この解説記事は、インドのモディがウクライナ戦争についてプーチンに「今は戦争の時代ではない」と説教した背景を的確に説明している。
 
 インドは中央アジアを重視し、ロシアと提携することで中央アジアでの影響力を保持してきたが、ウクライナ戦争でロシアは中央アジアでの支配力を弱めている。ウクライナ戦争の前夜、ロシアはウクライナのルハンスク、ドネツクの二つの人民共和国を独立国として承認した。カザフスタンは自国北部にロシア人居住地があるので、そこが分離独立することを警戒し、ロシアのルハンスク、ドネツクの独立承認に反対している。


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